茨城大学と常陽銀行は、企業等の事業活動が環境・社会に与える影響(インパクト)の可視化を目指し、霞ヶ浦をモデルとした共同研究を2025年10月に開始しました。約半年の調査・分析の結果、霞ヶ浦流域の産業活動および環境保全の取り組みがもたらすインパクトを、公開データをもとに推計しました。今後、さらに精緻な分析を進めるとともに、金融活動を通じた環境保全の取り組みを推進していきます。
共同研究の背景
常陽銀行を含むめぶきフィナンシャルグループでは、「脱炭素社会・環境保全への貢献」を重要課題(マテリアリティ)の一つとして特定し、課題解決に向けた取り組みを進め、社会的価値と経済的価値の双方を創出することを目指しています。その取り組みの一環として、国際的なイニシアチブである自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)※1に、採用者(TNFD Adopter)として登録し、自然関連情報の分析・開示に取り組んでいます。本共同研究は、常陽銀行において、企業の事業活動が自然環境(自然資本)および地域社会に及ぼす影響(インパクト)を分析・開示し、環境負荷の軽減を目指す企業への支援方法を検討する中で計画されました。
茨城大学においては、地球・地域環境共創機構(GLEC)を中心に、気候変動の影響予測と適応策の社会実装に関する研究に長年の実績を有しています。また、霞ヶ浦湖畔に設けたGLEC水圏環境フィールドステーションでは水圏環境の研究・教育に取り組んでいます。
そこで、常陽銀行の事業活動における自然への依存と影響を把握する取り組みに対して、茨城大学の有する気候変動に伴う自然関連リスク・機会の評価に関する研究実績および霞ヶ浦に関する研究蓄積を生かし、2025年10月に「霞ヶ浦におけるネイチャーポジティブ※2実現と社会的インパクト創出に向けた共同研究」を開始しました。今回、共同研究の対象となった霞ヶ浦は茨城県民にとって重要な水源であるだけでなく、地域の生態系サービスや産業の核となっています。
※1 自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)……自然資本等に関する企業のリスク管理と開示枠組みを構築するために設立された国際的なイニシアチブで、2023年9月に開示フレームワーク(TNFD提言)v1.0を公表している。Taskforce on Nature-related Financial Disclosures
※2 生物多様性の損失の流れを止め、回復に反転させること
LEAPアプローチ
TNFDでは、自然に関するリスクや影響を評価・管理するための分析手法として、Locate(発見する)・Evaluate(診断する)・Assess(評価する)・Prepare(準備する)の4つのフェーズで構成される「LEAPアプローチ」を提示しています。
まず、企業の事業活動と霞ヶ浦の自然資本との関係について、このLEAPの枠組みを用いて整理しました。その際、霞ヶ浦の環境に影響する多数の企業セクターの中から、生態系サービスへの依存と影響が特に高く、常陽銀行の融資取引先も多い食品セクターのバリューチェーンに焦点を当て、特定の事業活動が霞ヶ浦にどのようなアウトカムとインパクトをもたらすかを分析しました。その結果、主要な事業活動から社会的インパクトに至るまでのインパクトパスの一部を可視化しました。
公開データからのインパクト推計
今回、茨城大学GLECでは、食品セクターのバリューチェーン上の管理改善の取り組みが、霞ヶ浦の環境改善にどの程度のインパクトをもたらすかを推計しました。
霞ヶ浦流域の水系ごとの産業規模や環境負荷物質の流入量に基づき、巴川※3水系で事業活動を営む企業が、自社の取り組みで窒素やリンの河川への流出を削減することによって得られる社会経済価値を推計しました。
分析を行った茨城大学GLECの田村誠教授は、「公開データに基づき下流の下水処理施設等で窒素やリンを除去した場合のコストよりも、発生源において削減するための支援コストの方が低くなると試算しました。上流における環境管理改善は、下流において処理費用低減や観光などへの社会的インパクトをもたらします。こうした情報は、設備投資を行う企業やそれを支援する行政・金融機関のインセンティブになる可能性があります」と指摘します。さらに、「TNFDに賛同する多様な企業等がネイチャーポジティブの実現に向けた情報を提供するための分析枠組を、公開データに基づいて提示できたことは今後の拡がりを見据えたときに意義があります。あわせて今後は、企業へのヒアリングやフィールドワークを重ねて、より精緻な分析も進めていきたいと考えています」と述べています。
※3 霞ヶ浦に流入する支川
今後について
自然環境は複雑であり、依存や影響に関する全ての関係を一義的に定義することは困難ですが、主要な事業活動と霞ヶ浦のアウトカムや社会的インパクトをつなぐパスについて、検証と精緻化を継続していきます。
常陽銀行においては、本共同研究で得られた知見を活かし、企業が創出した社会的インパクトを適切に評価する仕組みを金融商品(ポジティブ・インパクト・ファイナンス)に反映させることや、事業活動による環境負荷の軽減を目指す企業への支援を通じて、企業が意欲的にネイチャーポジティブへの取り組みを進められる環境を整備していきます。また、茨城大学においては、気候変動適応や水圏環境保全についての知見を、企業や金融機関との連携を通じて地域社会に実装していくことを引き続き目指していきます。
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