グリーンバイオテクノロジー研究センター(Gtech)のキックオフシンポジウムが6月27日、阿見キャンパスで開催されました。温室効果ガスの排出削減手法開発に取り組む国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)の須藤重人氏と、土壌生態学の先駆者である島根大学の金子信博氏の基調講演により、農業分野における気候変動問題やGtechが担うべき役割について確認するとともに、パネルディスカッションも行われました。
今年4月に開設したGtech(ジーテック)は、不耕起栽培などの環境保全に関わる農法や、温室効果ガスの抑制につながるような土壌微生物のコントロールについての研究・社会実装により、持続可能な農業の実現と気候変動の緩和を目指す研究組織です。「農業・生態系保全ユニット」「微生物遺伝子情報解析ユニット」「社会共創ユニット」の3つのユニットで構成されています。
シンポジウムの冒頭、あいさつした太田寛行学長は、茨城大学が気候変動問題に向き合い続けてきた歴史や、気候変動適応や緩和に取り組むセンターを紹介しつつ「大学として総力を挙げて大気中のCO2をいかに減らしていくか、気候変動・温暖化に対する技術をどう展開していくかを考える必要がある。農業分野でGtechができて、布陣がそろった」と語りました。

来賓には、文部科学省研究振興局大学研究基盤整備課の山村満理子学術研究調整官、農林水産省大臣官房環境バイオマス政策課の坂下誠地球環境対策室長、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)農業環境研究部門の山本勝利所長らを迎えました。
基調講演では、農研機構農業環境研究部門緩和技術体系化グループのグループ長やJ-クレジット制度運営委員会の委員を務める須藤重人氏が、「農業生態系における温室効果ガスの動態と排出抑制策」をテーマに講演しました。須藤氏はまず、昨今のコメ価格高騰について触れ「農業を軽視すると食糧問題につながる」と農業の重要性を主張しました。温室効果ガスの一種であるメタンに関して、水田からある程度放出されるのは自然の範囲だとしながらも「近年の大気中のメタン濃度の上昇は天然の挙動ではなく、人為的なのは明らかだ」と断言。しかしそれを否定するのではなく、「人間の生活とどう両立していくのが良いのかを考え続けたい。人類にとって食糧は必ず必要で、(メタンが出るから)コメ作りをやめろというのでは決してない。その点、Gtechと同じ方向を向いていると思っている」と話しました。

続いて基調講演したのは、横浜国立大学と福島大学の名誉教授であり、島根大学客員教授を務める金子信博氏。テーマは「生態系の健康を支え、環境を再生する新しい農業」です。「(畑を)『耕さない方が良いよ』、という話です」(金子氏)。湖水、海洋を含めた地球の生物種の59%は土壌性であり、「土壌を損なうことは、生物多様性を大量に損なうこと」と話します。ミミズがいることで土壌の窒素循環が促進されることや、どの生物も多様性が高い方が働きが大きくなることを紹介。耕すことでミミズや菌根菌が切断され住めなくなってしまうそうで、「生物多様性の最も大きな構成員を保全することで良い影響がある」と力説しました。Gtechのセンター長でもある茨城大学応用生物学野の小松﨑将一教授の研究に触れ、「小松﨑先生の畑は、日本で最も長期に不耕起試験をし、データを取っている試験地。あとから追いかけても絶対に追いつけない」と称賛。「Gtechはこの分野でのトップランナーになるセンターだと確信している」と開設を祝いました。

小松﨑センター長によるGtechの説明を挟み、基調講演した2人とインドネシア・ボゴール農科大学のムハマド・ファイズ・シュアイブ教授、茨城大学応用生物学野の宮口右二学野長、Gtech副センター長で同学野の西澤智康教授が登壇し、小松﨑センター長司会のもとパネルディスカッションが行われました。

シンポジウム後は情報交換会が開かれ、関係者同士の親交を深めました。


