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エネルギーから見たカーボンニュートラル:2050年のその先へ
―金野満副学長語る

 日本では2050年のカーボンニュートラル実現が目標に掲げられていますが、その達成は簡単なものではありません。さらには本当の意味での持続可能性を求めるためには、私たちはどのような視点をもつべきなのでしょうか。そして、地域社会や大学はどんなことができるのでしょうか。20211117日に行われた茨城大学・茨城県・茨城産業会議主催の連携講演会「グリーン社会の実現と茨城の未来」から、茨城大学の金野満副学長(研究・産学官連携)の講演内容を再構成してお届けします。

エネルギーから見たカーボンニュートラル

 世界が今、気候変動の問題に強い関心を持っていますが、今日はそれを「エネルギー」という側面からどんなふうに見えるか、という観点でお話しします。
 先に結論をいうと、まず、2030年の温室効果ガス46%減という目標は今ある技術の延長上で何とかなると考えていますが、2050年のカーボンニュートラル、これは全く次元が異なるということです。
 それから、気候変動の問題をめぐって、2050年がゴールというふうに見る向きがありますが、実はその先を見据えたエネルギー戦略、あるいは大げさにいうと文明観というのが必要になってくる、と考えています。
 そして今回のお話では、こうした課題に対して茨城大学がどんなことに取り組んでいくかということについて、カーボンリサイクル技術を例にお話ししたいと思います。

気候変動、エネルギーに関する国内外の動向

 最初に、最近の気候変動、あるいはエネルギーに関する動向を見ておきます。今から6年前のCOP21でパリ協定が採択されて、これが契機となって今のカーボンニュートラルの動きにつながっています。パリ協定では、工業化以前からの世界の気温の上昇を2℃以下に抑える、さらには1.5℃以下というのが努力目標として掲げられました。それを受けて日本では20201月に革新的環境イノベーション戦略、そして同年10月、菅政権によって2050年カーボンニュートラル宣言が国内外に向けて発信されました。今年の4月には、日本の温室効果ガスの削減目標が、2030年に2013年度比で46%削減という形に引き上げられ、さらに最近になって、第6次のエネルギー基本計画の閣議決定。そして先日のCOP26では、「1.5℃」が努力目標ではなくて実質的な目標になり、さらに石炭火力発電所の段階的削減やメタン削減などの目標が採決されたという流れです。

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 ちょっと話は飛びますが、地球の陸地にどれぐらい人が分散しているかというと、1.9ha1人ぐらいです。日本全体では0.3ha1人、茨城県は0.21ヘクタールに1人です。意外と大きくない。さらに耕地面積でいうと、日本では105坪くらい。輸入を考えなければ、ここで採れる作物だけで1年間生活しなければいけないということですよね。充分ではないということが分かると思います。

 さらに、地球の大きさを1000万分の1にして、直径が1.28mの球を考えると、対流圏というのはだいたい1㎜ぐらいにしかならない。その薄い表面に存在する大気と水の中で、我々はギリギ生存、生活しているのです。まずはこのことを前提に、地球の資源の利用を考えていく必要があります。

2050年カーボンニュートラル実現という目標の次元

 先日発表された日本の第6次エネルギー基本計画では、さまざまな方策が提起されています。2030年の温室効果ガス46%減(2013年度比)に向けては、まずは徹底した省エネ、それから再エネを主力電源化する、加えて安全最優先で原子力を動かしていくということですね。ただ、再エネで問題となる需給調整のために必要な火力は残していく。さらに新しいエネルギーとして水素とアンモニアの利用を拡大していくということです。

 ところが2050年のカーボンニュートラル、この実現は容易ではなくて、総力を挙げた取り組みが必要だということです。既存技術にプラスして、今確立されていない技術、水素やアンモニアの利用、カーボンをリサイクルする、COをつかまえて地中に埋めてしまう技術など、イノベーションがどうしても必要になります。また、どうしても炭酸ガスが出てくるところは、DACDirect Air Capture)など空気中の400ppmCO2を回収し、濃縮して、エネルギー利用する、あるいはそれを生物を使ってやっていく、といった技術を作っていかなければなりません。

 そこでこれが私の最初の結論ですが、これらの技術開発をしっかりとやっていかないと、2050年のカーボンニュートラルの実現は難しいということをきちんと認識しなければいけない、ということですね。

日本のエネルギーの未来と茨城の戦略

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 次にエネルギーの面から見ていきます。この図は、日本における一次エネルギー供給の推移と2030年の見通しを示したものです。大きく見ると、2000年ぐらいをピークにして日本のエネルギーの必要量は減ってきています。2030年にはこれがさらに減るだろうと予想されていて、ここで再生可能エネルギーを最大限入れ、さらに原子力も少し動かそうというわけですが、それでも全体のエネルギー需要に対して1/3ぐらいにしかならない。しかも再エネの見積もり方を見てみても、かなり無理をしている感じです。せいぜいこのあたりが限界でしょう。

 そして2050年に向けては化石燃料をなくさないといけないというわけですが、日本の状況を考えると、さらに大幅に省エネを進めるか、再エネを外から輸入するしかありません。

cnlec4.jpghttps://www.pref.ibaraki.jp/bugai/koho/hodo/press/19press/documents/project.pdf

 これは茨城県のカーボンニュートラル戦略を示した絵なのですが、的確な戦略だと考えます。どういうものかというと、海外でつくられたカーボンニュートラルエネルギー由来、あるいは再エネ由来の水素、アンモニアを茨城県の中にまずもってきて、そこを国内の供給拠点にしよう、という構想です。茨城県のひたちなか港や鹿島港で備蓄して、さらに使いやすい形でエネルギー転換して使っていく。これはカーボンニュートラルへ向けた良い取り組みだと思います。

 課題は、水素をきちんと使う技術がまだない点です。ですから、この技術を開発していかないといけない。それから、天然ガス―本体はメタンですが、水素やCO2からあるいはメタンをつくって移動することや、出力調整用の火力発電のための液体燃料の合成技術などが必要です。

茨城大学の取り組み―カーボンリサイクルに向けて

 こうした課題に対して茨城大学はどんなことをやっているか。茨城大学では教職員・学生を含めて議論して、「イバダイ・ビジョン2030」を公表しています。その基本的な考えは、「自律的でレジリエントな地域が基盤となる、持続可能な社会の実現」をめざすというもので、その12のアクションプランのうち3つがカーボンニュートラルに関連した内容です。産業界や地域社会との連携を強化、得意分野である環境科学や量子線科学を活かした世界水準の研究拠点づくり、そのための学内構成員の力の結集。これを実現する組織として2020年に地球・地域環境共創機構(GLEC)というものをつくりました。このたび、サイエンスに基づく環境シンクタンク、SDGsを活かした人材育成、アジア・太平洋地域への連携のハブという3つのミッションに加えて、「カーボンニュートラル社会の共創と環境保全の研究拠点」というミッションを掲げました。

 取り組みとしては、脱炭素をしっかり実現していくための具体的な技術やシステムを作ることが重要で、これを日本発でできれば、日本が国際社会の中で引き続き影響力をもつことができます。我々はそういうモデルを作りたいなと思っています。3つの層、ひとつは技術的なイノベーションレジリエンス―すなわち気候変動に強い社会、そして、そうした脱炭素社会へ移行(トランジション)していくときの方法、こういう総合的なモデルを作っていきたい。

 イノベーションのところでは、e-fuelによるカーボンニュートラルサイクルというものがあります。e-fuelというのは、空気中のCO2を回収し、再エネを利用して合成するカーボンニュートラル燃料のことです。しかも、そうやって作る燃料自体が環境に良いものであるべきなので、我々がつくっているのはたとえば煤が出ずに燃えるような燃料です。カーボンニュートラル由来で、なおかつ排気がきれいな燃料、こういうものを開発、利用する技術を磨いているところです。

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 それから少しだけ茨城大学の自慢をすると、さきほど紹介したようなe-fuelを使ったカーボンリサイクルですね、燃料を作る「合成」、その「利用」のための技術、そしてそこから出てきたCO2の「回収」。合成と利用の技術は、茨城大学は世界的にもトップクラスと自負しております。両者をひとつの大学できちっとできるというのは、日本で唯一茨城大学ぐらいで、世界レベルで見ても貴重なのではないでしょうか。しかし、回収のところが今はない。実はこれは日本国内のどこでもまだ確立できていないのですが、ぜひ茨城大学でもがんばって回収の技術を磨き、このサイクルを完成させてカーボンニュートラルに貢献したいと考えています。

2050年のその先を見据えて―本当のカーボンニュートラルとは

 さて、そろそろ最後ですが、人口の話をしましょう。世界の人口は、今世紀の終わりぐらいに110億人ぐらいに達すると言われています。これは主にアフリカ地域の人口増加ですが、年代のスケールをさらに大きくしてみると、人口の推移は産業革命以降に急に上がっているんですね。つまり、化石エネルギーが人口増加を支えてきたということ。したがって、人口が増加する以上、世界のエネルギー消費は増加していかざるを得ない。エネルギーは食糧に直結しますから、エネルギーが不足すれば食糧も不足し、紛争のリスクも高まります。

 一方、日本の方はこれから急激に人口が減っていきます。これはこれで問題ですが、世界的なエネルギーの状況を見れば、これを逆手に使うということは考えられるかもしれません。

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 そして、本当のカーボンニュートラル社会とは何か、ということも考えておきたい。我々が近代革命以降築き上げてきた文明は、基本的に化石燃料を使ったものでした。では、この化石燃料とは何かというと、それは地球上に生命が発生してから数億年~数千万年にわたって蓄積されたものに由来していて、その基は太陽エネルギーです。その数億年分の蓄積を、我々はわずか250年で使い切ろうとしているというのが、今の状況といえるでしょう。

 ですから、持続可能な社会の実現というのは、今地球に降り注ぐ太陽エネルギーだけで社会が維持できるような転換が必要ということです。今は2050年にフォーカスが当たっていますが、その先を見据えた戦略が必要なのです。

 究極は、太陽からのエネルギー供給量と人間のエネルギー消費量とがバランスする点、それが本当のカーボンニュートラルということになります。エネルギー消費量は、1人あたりのエネルギー消費量×人口で決まる一方、QOLを高めるためにはある程度の消費エネルギーが必要ですから、そういう観点でエネルギーと人口の問題を考えていかなければいけないというわけです。2050年はゴールではありません。

 以上、大きな話になってしまいましたが、本当の意味の持続可能な未来へ向けて、ぜひみなさんと一緒に取り組んでいければと思います。どうもありがとうございました。

※この記事は、20211117日に行われた茨城大学・茨城県・茨城産業会議主催の連携講演会「グリーン社会の実現と茨城の未来」における、金野副学長の講演内容を再構成したものです。

プロフィール

金野満(こんの・みつる)●茨城大学副学長(研究・産学官連携)

専門は熱工学、燃焼工学で「非化石エネルギー系燃料の利用技術」「e-fuelやバイオ燃料の利活用技術」「環境負荷の小さなエンジンシステムの開発」等について研究を行っている。著書として「EAS-ERIA Biodiesel Fuel Handbook」、「新エネルギー自動車の開発と材料」など。茨城県産業技術イノベーションセンターアドバイザリーボード委員長、いばらき中小企業グローバル推進機構評議員、日立地区産業支援センター評議員。㈶日本自動車研究所、北海道大学を経て 2007 年に茨城大学教授。現在、茨城大学副学長(研究・産学官連携担当)、茨城大学研究・産学官連携機構長。