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全国的に見ても極めて珍しい!学生が学生に実習!
―教育学部でピアエデュケーションの手法を導入

教職課程の必修科目「教職実践演習」において、保健体育選修と養護教諭養成課程の4年生が講師を務め、受講者の学生たちに心肺蘇生法などを教える実習が行われました。茨大広報学生プロジェクトのメンバーによるレポートです。

 1122日に、教育学部4年次の必修科目である「教職実践演習」が、学生が学生に実習をするという形式で開講されました。全国的にも珍しいこの試みをレポートします。

 教職実践演習は、教員として必要な資質能力を総合的に形成することができたのか、またどのような点に課題が存在し補う必要があるのかについて、最終的に確認する場として位置づけられた科目です。この授業では、具体的に、教育者としての使命感・責任感、子ども・同僚・地域の人々と円滑な人間関係を築くためのコミュニケーション能力、教育上の様々な課題の発見・解決能力などの総合的な力が求められます。
 本演習には、教育効果の高さから近年注目されている「ピアエデュケーション(学生同士で教え合い、学び合う教育の方法)」の教育手法が取り入れられました。この取り組みは全国的に見ても極めて珍しく、教育学部の強みを活かした授業スタイルとなっています。

 本実習を担当した教育学部保健体育教室の上地勝教授は「数年前に全国の小中学校の校長と養護教諭に対して実施された『教員養成段階で学んでおいて欲しい保健・安全に関する内容』の調査において、『発達障害』『心肺蘇生法』『アレルギー・エピペン』に関する内容が高い割合で挙げられたことから、これらを学ぶ機会のない教育学部のコース・選修の学生たちにも演習をとおして知識や方法を身につけてほしい」と、企画のきっかけを話しました。
 また、ピアエデュケーションの形をとったことについて、「教える側、教わる側の双方にとって高い教育効果が期待できる。また、教育現場に出れば、教員(仲間)同士で研修を実施し、連携しながら様々な課題に対処していく必要があり、そのトレーニングとしての機会になれば」と、実習のねらいを教えてくれました。

 3限目には、障害児教育教室の新井英靖教授石田修助教の監修のもと、特別支援教育コースの学生による「障害理解と特別支援教育の基本的対応」の実習が実施されました。この実習では、受講した全ての学生が発達障害の類似体験を通して理解を深めることが目的とされています。

 4限目には「学校における心肺蘇生法の基礎」に関して、立川法正医師にオンラインで講義を行っていただきました。立川医師は豊後荘病院に勤務され、NPO法人いばらき救命教育・AEDプロジェクト理事長も務められています。

 5限目には、「アナフィラキシーショックの理解とアドレナリン自己注射役の使用方法」と「心肺蘇生法演習」について、保健体育選修・養護教諭養成課程の学生が実習を行いました。この実習は、立川医師と東海村立村松小学校養護教諭で同NPO法人の菊池淳子教諭に、学生に対して事前指導を行っていただいたうえで、学生らが授業内容の検討とスライド作成をし、実施されました。

 45限目の実習は、上地先生のほか、教育保健教室の青栁直子教授の指導のもと、行われました。


nurse_education_01 学生による授業の様子

nurse_education_02 練習用のエピペンを実際に使ってみました。

nurse_education_03 カードを使って緊急時の対応の手順を確認しています。

nurse_education_05_06 心肺蘇生の練習の様子

nurse_education_06 心肺蘇生の練習に使用した「あっぱくん」。正しい力で圧迫すると音が鳴ります。

NPO法人いばらき救命教育・AEDプロジェクト理事長/医師 立川法正先生

 私たちは、学校での突然死ゼロの達成を目的として、教員が子どもたちに救命方法を教える環境づくりを行っています。現代は私たちのような専門家が教える時代ではなく、学校教育で救命教育を行っていく時代です。全く関わりのない専門家が救命方法を教えるのではなく、子どもたちや子どもたちを取り巻く状況を把握している教員が彼らに教える方が非常に効果的です。そのため私たちは子どもたちへの指導は一切行っていません。その代わり、教員への支援は手厚く行っています。実際に今年の8月には、茨城県教育委員会の協力のもと190校の教職員研修をオンラインで行ったり、いばらきPUSHという救命救護の講習やそのインストラクターを育成する活動を行ったりしています。しかしインストラクター資格を持つ教員は茨城県内には15名しかいません。この取り組みを一人の先生だけで行うのではなく、教員全員で行うことが今後重要となってきます。養護教諭やいばらきPUSHインストラクターの教員が主導となり、他の教員に正確な知識や技術を教えます。そして講習を受けた教員が担当の子どもたちに教えるというような環境を今後学校現場が目指していかなければならないと考えています。今回来年度から教員として働く方が多い教育学部生向けにこの取り組みができたことは非常に良かったと感じています。また学生が学生に教えるピアエデュケーションを行うことにより、親近感が生まれ実習に集中することのできる学生が増加すると思います。これから現場に立つ教員が、学校で子どもたちの命を守るのは我々医療の専門家ではなく子どもの専門家の先生方であるという認識を持てるような取り組みを続けていきたいです。

本実習で講師役を務めた教育学部養護教諭養成課程4年次 平井莉都さん

 授業をするにあたって、絶対に伝えなければならない重要だと思うことを保健体育選修の皆と話し合い、ベースを固めました。そこから、各担当でパワーポイントや資料を工夫しました。児童生徒よりもはるかに知識があり、かつ国語、社会などといった専門分野の異なる学生が授業の対象なので、慣れない感覚があり、担当する学生がどんな知識を持っているか、考えながら授業を行うのが少し難しかったです。私は社会選修の学生が担当だったので、例えばエピペンを教員が代打する際に医師法に抵触するかしないかなど、担当する選修に合わせて法律に関する内容も用意しました。医学的な補足を多めに行い、今までの知識・技術では足りないところを補える授業を目指しました。

本実習を受講した教育学部国語選修4年次 大塚裕顕さん

 今回の実習は来年以降学校教育の場に立ち、児童生徒や多くの人と接する私にとって良い実践経験の場として、学びに大きくつながりました。また救命救急やエピペンの使用を正しく行うことができるようにするだけではなく、児童生徒等にも方法や学ぶ意義を伝えることの重要性を、実習を通じて改めて実感しました。今回学生が主体となった実習が行われましたが、学生が学習を中心的に行うことで学生一同が協働して行おうといった意識を持って救急救護等の活動に真剣に取り組むことができたのではないかと思います。実際の現場で新任の立場となる私たちが主体となって救急救護等を行わなければならない場面もあるかもしれないので、本実習ではそれを想定し実践的な実りのある活動を行うことができたのではないかと思いました。

編集後記

 どの学生も実習に集中して取り組む姿が見られ、ピアエデュケーションの効果をさっそく感じ取ることができました。また心肺蘇生の手順やエピペンの使用方法を全員が確認しており、教員として子どもの命を預かることに対する重大さを再確認することができました。初めての取材かつ記事の作成ということで至らぬところもあったと思いますが、このように形にすることができ嬉しく思います。取材を受けてくださった先生方、最後まで読んでくださった皆様、ありがとうございました。

(取材・構成:茨大広報学生プロジェクト 中川原礼夏 (教育・1)、撮影協力:同プロジェクト寺﨑成美(教育・1年))