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【著作・制作物紹介】人社・長田華子准教授 編著
「フェミニスト経済学―経済社会をジェンダーでとらえる」

フェミニスト経済学―経済社会をジェンダーでとらえる


フェミニスト経済学 書影(帯付き) (1)_NAGATA Hanako.jpgのサムネイル画像長田華子(茨城大学人文社会科学部 准教授)・金井郁(埼玉大学 教授)・古沢希代子(東京女子大学 教授) 編著

出版社:有斐閣
出版日:2023年10月
ISBN: 978-4-641-16620-2
定価:4,070円(本体 3,700円)

著者コメント

 皆さんは、「フェミニスト経済学」と聞いて、どんなことをイメージしますか?「女性のための経済学」や「女性の権利獲得ための経済学」など、女性が抱える問題を解決するための経済学をイメージする方が多いのではないかと想像します。しかし、それは、誤解です。
 フェミニスト経済学は、女性だけでなく、男性、子ども、高齢者などの万人を差別や抑圧から解放し、一人一人の権利を保障することで、万人のウェルビーイング(=暮らしぶりの良さ)を向上させることを目指しています。今日、一般的に、経済学の理論体系において、新古典派経済学が正統派、あるいは主流派とされているのに対し、フェミニスト経済学は、マルクス経済学、制度派経済学、進化経済学などと並ぶ、異端派経済学の1つとして認知されています。フェミニスト経済学とは、フェミニズムの視点から経済学をとらえる学問を指します。
 本書は、日本語で学べる、初めてのフェミニスト経済学のテキストです。経済学の一般的なテキストで取り上げられる、「マクロ経済」、「労働市場」、「金融」、「資本・労働力移動」、「貿易自由化」に加えて、「アンペイドワーク」や、「世帯」、「生活時間」や「ジェンダー統計」、「ジェンダー予算」といったフェミニスト経済学ならではのテーマも並んでいます。ただし、本書の全ての章に共通しているのは、以下の2点です。
 第1は、フェミニスト経済学が、人間は、他者からケアを与えられなければ、生命を保持することができない「脆弱」な存在であることを重視している点です。第2は、それゆえに、私たちが生きる社会は、他者からのケアを絶対的に必要としていることを前提に、経済社会の在りようを考えようとする点です。フェミニスト経済学は、人間の脆弱性を前提に、人間のニーズを満たす財やサービスがいかにプロビジョニング(準備し、提供すること)されるのかを分析し、そのうえでケアを中心にすえた経済学を構想しようとしています。本書の帯に、「ケアを中心にすえた経済学へ」と記したのは、そうした理由です。
 私たちは、2020年に、新型コロナウイルス感染症のパンデミックに遭遇し、その影響は、すでにあったジェンダー、階層、人種、グローバルノースとサウスによる不平等・格差を深め、ケアするための「政治」と「経済」の双方が脆弱であることを目の当たりにしました。2022年には、ウクライナ戦争が勃発し、今年の10月にはイスラエルによるガザ地区への軍事侵攻も始まりました。気候変動にともなう自然災害の影響は甚大で、今も世界中で多くの命が犠牲になっています。こうした世界が抱える課題に対し、フェミニスト経済学は、どのように分析し、どのような解決策を見出すのでしょうか。
 本書は、経済学を学んだことのない読者でも、ポイントをつかんでいただけるよう、心がけて執筆しました。本書を通じて、人間と地球環境の両方にとって、持続可能な社会を構築するための処方箋を考え、議論するきっかけになれば、嬉しいです。

著者プロフィール

長田華子(人文社会科学部 准教授)

専門はアジア経済論、南アジア地域研究、ジェンダー論。
2005年東京女子大学文理学部卒業。2012年お茶の水女子大学大学院創成科学研究科ジェンダー学際研究専攻修了。博士(社会科学)。日本学術振興会特別研究員(PD・東京大学社会科学研究所)を経て、現在茨城大学人文社会科学部准教授。主な著書「990円のジーンズがつくられるのはなぜ―ファストファッションの工場で起こっていること」(2016年、合同出版)など。