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教・田中宏明准教授が水戸芸術館でピアノ・リサイタル
5年ぶり2度目「弱音の微妙な変化を味わって」

 教育学部の田中宏明准教授が演奏を務めるピアノ・リサイタルが、610日(土)に水戸芸術館コンサートホールATMで開催される。同館でのリサイタルは2018年以来、5年ぶり2度目。「ライフワーク」といえるバッハの演目とともに、ラフマニノフなどの耳馴染みの良い曲も入れ、誰でも気軽に楽しみながら、静かな感動も味わえる構成になっている。

tanaka0522_01 水戸芸術館のコンサートホールATMといえば、昨年死去した世界的な建築家・磯崎新氏の設計による全国屈指の音楽ホールで、館長の小澤征爾氏が指揮を務める水戸室内管弦楽団のコンサートなどでも知られている。
 田中宏明准教授も、茨城大学への赴任が決まる前、北海道で活動していた頃から、クラシックの最先端で特色ある企画を展開している水戸芸術館の存在は知っていた。しかし、自分がそのホールで演奏することになるとは夢にも思っていなかったという。

tanaka0522_02 今回の水戸芸術館でのリサイタルは田中准教授にとって2回目となる。
 1回目は5年前の2018年の11月。基本的に貸し館事業は行わず自主企画のみを行う同館だが、毎年公募・審査を行う形で茨城ゆかりの音楽家の演奏機会を設けている。田中准教授も「水戸芸術館のホールで演奏できるなら」と手を挙げ、見事審査を通過した。そのときは「ライフワーク」ともいえるバッハの楽曲や、教育学部音楽選修の「同僚」である山口哲人教授が作曲した曲も演目に取り入れた。
 コンサートホールATMが織り成す音響について、田中准教授は、「非常に微妙な、弱音の音色の変化が後ろの席の方まできちんと届くんです」と語る。1回目のコンサートのときは水戸に来てまだ2年。最初はどこか「アウェイ」の心持ちを引きずっていたが、「演奏会で無事に最後の曲を弾き終わったあたりで、あたたかい空気と明るい光が上から差し込んできたような気がしました」(田中准教授)。その瞬間、水戸はまさに「ホーム」になった。

 第2回のリサイタルは一昨年(2021年)に実施する予定で計画が進められていたが、コロナ禍が猛威を振るう当時にあって、コンサートの開催は難しかった。その結果、2年間開催を見送り、今年ようやく実現できる運びとなった。

 今回の演目も、まずはバッハだ。ただし、「トッカータ ハ短調 BWV911」と「フランス風序曲 ロ短調 BWV831」との間に、イタリアの作曲家・スカルラッティの2曲を挟んだ。「バッハだけだと重くなるので、スカルラッティの短い曲を挟みました。バロックを代表するこの2人は、偶然にも同じ1685年生まれなんですよ」と田中准教授。 
 前述したように、田中准教授にとってバッハは、20代から切れ目なく弾き続けている「ライフワーク」といえる存在。今でも新たな発見があるという。

「バッハが死んでバロックが終わり、それ以降になるとメロディ(主旋律)があってそれに伴奏がつく和声音楽になっていきます。それに対しバロック以前は、複数の旋律があって、それが噛み合わさって音楽が成り立つ形をとっていたんですね。しかし、その中でも、バッハは細かい和声の変化を採り入れているところがあるんです。その緻密さ、ひとつのところから次のところへ移る間の細かい変化を、この年になって肌で感じられるようになってきたんですよ」(田中准教授)

 そのような、年輪を重ねる中で厚みを増す、鍵盤を通じた田中准教授とバッハの対話を、今回のリサイタルではじっくり味わいたいところだ。
 後半はラフマニノフとベートーヴェンを選んだ。ラフマニノフは今年生誕150周年。ラフマニノフの時代になると、現代のピアノとほぼ同じ構造のピアノが登場しており(バッハのころはもっと華奢な楽器だった)、彼の作品には金属のフレームが織り成す「倍音」の効果も計算されている。「その響きも、水戸芸術館のホールであれば十分に活かされると思います」と田中准教授は語る。

 また、「今回の演奏会では、楽曲の構成がわかりやすく、耳に馴染みの良い曲を含むようにしました。ちょっと聴きなれないなと思っても、全部通して聴くと、『こういう曲だったんだ!』と静かな感動が得られるような、そんな演奏ができればと思っています」とのこと。その意味では、クラシックの演奏会を初めて訪れるような方にもおすすめできそうだ。

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 身近な場所で芸術に親しんでほしいという田中准教授の想いは、大学の日々の教育の場面でも活かされている。現在、水戸芸術館と連携した基盤科目も担当。その授業は、水戸芸術館の広報担当者と、音楽、美術、演劇の各部門の学芸員による講義を聞いたあと、同館で実際に鑑賞を楽しむというものだ。
 5年前のリサイタルのときは、自身のゲネプロ(リハーサル)の会場に学生たちを招き、演奏中に自由に座席を移動してもらったという。そうすることで、座席によって音の響きがまったく異なることが実感できる。もっとも、この貴重な体験を通じて一番の発見を得ていたのは水戸芸術館の担当学芸員だったらしい(「一番前の席はピアノの振動まで伝わってくるんですね!」)。

「田中宏明ピアノ・リサイタル」は、6月10日(土)17時から、水戸芸術館コンサートホールATMで開演。チケットは全席自由で一般3,000円、25歳以下は2,000円(前売り1,500円)。水戸芸術館のほか、茨城大学生協水戸サービスショップなどでも購入できる。CDやYouTubeでは味わえない生の音の緻密な響きを、ぜひ会場で味わってほしい。

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田中宏明●茨城大学教育学部准教授

 北海道小樽市生まれ。道立小樽潮陵高等学校を経て、1990年東京音楽大学入学。在学中特待生奨学金を受ける。94年東京音楽大学ピアノ演奏家コース卒業。東京藝術大学大学院入学。95年アメリカ・インディアナ大学音楽学部に入学。シュナーベルの高弟であったレナード・ホカンソンに師事。在学中、アメリカ国内にて活発な演奏活動を重ねる。96年第10J. S. バッハ国際コンクール(ライプツィヒ)にてディプロマ賞受賞。97年インディアナ大学アーティストディプロマコース修了、帰国。98年東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程修了。これまでにピアノを棚瀬美鶴恵、中川和子、宮澤功行、渡辺健二、石附秀美、倉沢仁子、播本枝未子、ミシェル・ブロック、レナード・ホカンソンの各氏に師事。
 99年春からは活動拠点を東京から北海道に移す。2003年札幌市民芸術祭奨励賞受賞。演奏活動を行うと共に札幌コンセルヴァトワール講師、藤女子大学講師を務め、16年、茨城大学に赴任する。
 現在、茨城大学教育学部准教授。(一社)全日本ピアノ指導者協会正会員。毎日こどもピアノコンクール、PTNAピアノコンペティション、全日本学生音楽コンクール各審査員。

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