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不二製油グループ本社と農学部の連携講座 
初の研究報告会開催

 農学部で開設している「不二製油グループ本社『食の創造』講座」の研究報告会が、4月21日に阿見キャンパスで行われました。

 不二製油グループは、植物性油脂、業務用チョコレート、乳化・発酵素材、大豆加工素材の4事業を軸とした食品素材の開発、生産、販売をグローバル規模で展開している企業です。茨城県内にも工場や研究所を有しています。
 不二製油グループ本社と茨城大学との間では、農学部の中村彰宏教授が、茨城大学で教育・研究に携わる傍ら不二製油グループ本社でも業務に従事するという「クロスアポイントメント制度」を活用した交流を、2018年より進めており、さらに20214月には「不二製油グループ本社『食の創造』講座」という連携講座も茨城大学大学院農学研究科に開設されました。この講座では、産学連携による共同研究や人材育成の推進を図り、不二製油グループ本社から派遣された客員教授が中村教授と一緒に学生の指導や自身の研究を行っています。
 今回行われたのは本連携講座として初の研究報告会で、中村教授の他、大学院農学研究科修士課程1年の菊池真由さん、連携講座の佐本将彦客員教授が昨年度末時点での研究成果を報告しました。当日は宮口右二学部長や多くの学生たちが出席しました。
 中村教授と菊池さんが報告したのは、エンドウ種子由来の多糖類が飲むヨーグルト中の乳タンパク質の安定化にもたらす機能性に関する解析結果です。
 実は、飲むヨーグルトのような乳の発酵物を使った清涼飲料は、置いておくと乳タンパク質が沈降してしまうため、安定剤が必要です。その安定剤として多く使われているのが大豆由来の多糖類なのですが、大豆は5大アレルギー食材の1つであるため、研究室では大豆以外の食物から安定剤を作ることを目指して研究・開発を進めています。

fuji0428_02研究内容について説明をする中村教授

 そこで現在注目しているのがエンドウです。一昨年からエンドウ多糖類の分子構造の解析を進め、昨年度は研究室で飲料を作り、タンパク質粒子を安定化するメカニズム解析に取り組む段階に至りました。報告では、エンドウ多糖類の分子構造の解析結果、乳タンパク質粒子に吸着する詳細なメカニズム、多糖類の構造と機能性の相関解析など詳しい実験結果が紹介されました。

fuji0428_03 大学院生の菊池真由さん

 また、佐本客員教授は、最近「ベジミート」などで話題の、植物由来の代用肉の開発について報告しました。
 大豆から代用肉を加工する一般的な製造技術としてエクストルーダーという機械が使われています。タンパク濃度を高めた原料を機械に投入し、その後射出してスポンジ状の組織を作ります。ところがこの工程で作ったベジミートは乾燥品であるため、一度水で戻した上で水分を切って調理するという、加工上の手間が大きな課題になっています。そこで佐本客員教授は、エクストルーダーを使用せず、水戻しと脱水の工程を省き、一気通貫した工程でベジミートが加工できる方法の検討を進めてきました。具体的には、原料の特殊な大豆粉を加熱し、肉と同じぐらいの高タンパク濃度でゲル化するというものです。
 2年の研究で想定した工程の開発はうまくいきつつあります。一方で肉の組織は複雑であり、特に牛肉のような独特の噛み応えや味覚を再現することはまだまだ難しいようです。引き続き研究を進めていきたいということでした。

fuji0428_04 佐本客員教授による報告

 通常メーカーの中で行われているようなこうした食品の設計や加工プロセスの研究について、実践的に学び、研究できる機会は、大学の中にはあまりないようです。中村教授は、「産業界につながる基礎的な研究ができるので、多くの学生に興味をもってほしい」と話します。

 また、佐本客員教授は、不二製油グループ本社で定年を迎えたあとの取り組みとして本講座での研究・教育に関わることになりました。現在は週2回本学へ通っており、第4クォーターからは授業の一部も担当予定とのことです。佐本客員教授は、「学生さんが熱心に取り組んでいるので、楽しくやっています」と話します。また、企業での研究と大学での研究の違いについて、「基礎的な研究を行うというのは、商品開発の現場では時間的な制限もあり十分にできないこともあります。じっくり考え、食品の研究開発について違った角度をもつことができます。それは企業での開発においてもプラスに働きますね」と語りました。
 中村教授は、「博士の学位をもった企業研究者が活躍でき、また、大学もその知見を実践教育の場面で活かすような仕組みという点でも、こうした連携講座に大きな意義があると思います。今回のような研究報告会は、今後も定期的に続けていきたいです」と話していました。

(取材・構成:茨城大学広報室)