1. ホーム
  2. NEWS
  3. 茨城大学情報戦略機構長 羽渕裕真が語る 本学におけるDX推進ロードマップ「DXとは、つまるところ意識変革(マインドトランスフォーメーション)なのです」

茨城大学情報戦略機構長 羽渕裕真が語る
本学におけるDX推進ロードマップ
「DXとは、つまるところ意識変革(マインドトランスフォーメーション)なのです」

 たとえば、手紙がメールに、メールがチャットに変わってもそれはIT化であってDXではない─そう語るのは、茨城大学のDXを担う組織として新設された「情報戦略機構」で初代機構長を務める羽渕裕真副学長です。「大学のDXは総じて遅れている」と話す羽渕機構長。では、茨大のDXをどう進めていくのでしょうか。

羽渕裕真(はぶち・ひろまさ)
PROFILE |
茨城大学副学長(情報・DX)、情報戦略機構長。1992年埼玉大学大学院理工学研究科博士後期課程修了。博士(学術)。茨城大学大学院理工学研究科(工学野)教授。専門は通信工学、情報通信工学。学長特別補佐を経て、2022年4月より現職。図書館長も兼務している。

DXの戦略を担う新組織

 茨城大学では、2022年4月、これまでのIT基盤センターを改組して新たに「情報戦略機構」を立ち上げました。IT基盤センターが担っていたインフラ整備の御用聞きのような役割から脱却して、デジタルを使って大学として新しいことにチャレンジする─まさにDXですね─それを戦略的に考え、提言する組織へとステップアップしたいと思っています。
 
 戦略の上位にあるのは『イバダイ・ビジョン2030』です。そこで掲げられた研究、教育、業務の目標を2030年までの8年間で達成するためには、その前提となるDXは半分ぐらいの期間で進めないといけません。業務のやり方、考え方を変えないといけないのです。
 
 大学のDXは総じて遅れているといって良いと思います。他大学の事例報告などを聞いても、単なるIT化、効率化ということに留まっている事例が少なくありません。手紙がメールになり、メールがチャットになっても、形が変わっているだけでやりとり自体は変わっていない。そうではなくて、そのやりとりが本当に必要かを考えないといけないんですね。茨城大学はそこに取り組んでいきたいのです。

情報システムとデータのマネジメント

 コロナ禍の中、茨城大学は遠隔授業への移行をスムーズに進めることができました。これはもともと2020年4月にBYOD(学生が自身の端末で学修に取り組む体制、「Bring Your Own Device」の略)を完成させるという見通しで、その5年前に計画し、学内のWi-Fi 環境の整備などを進めてきたものです。先見の明があったといえるでしょう。また、大学の情報セキュリティポリシーやサイバー対策等基本計
画の更新も、他の大学と比べても割と早く取り組んでいる方だと思います。ただ、インシデントをゼロにするのは不可能ですから、起きたときにどう対応するかという準備も大事ですね。
 
 一方、教育や業務に利用する各種情報システムについては、まだ組織ごとに仕様がバラバラで、効率が悪いところがあります。大学全体でのマネジメント体制を強化しないといけません。ただ、情報戦略機構がすべてを手がけるというのも無理がありますし、それでうまくいくわけでもありません。各システムの仕様のたたき台は各部局自身がつくれるようになって、機構と一緒に実装を進めていけることが理想
です。そのためのサポートはしっかりとやっていきたいです。
 
 今回情報戦略機構では、情報システム、情報セキュリティ、デジタル改革推進、データ戦略という4つの部門を立ち上げました。このうちデータ戦略の部門では、データをどう流通させるか、どう収集して見せていくのか、ということに取り組んでいます。今は学内でさまざまな種類のデータが散乱している状態ですが、今後は各部局が決まった仕様のデータを一カ所に提供しておいて、そこにアクセスすれば良い、あるいはBIツール(Business Intelligence tools)などを使って見せていく、ということができればと思い、既に大学戦略・IR 室や広報室などと連携して具体的に進めているところです。

20230123-237A7025.jpg

教育、研究のあり方をより高度なものに

 とはいえ、重要なのはやはり、DXによって教育、研究のあり方をより高度なものにしていくことですね。教育に関しては、たとえば学生の履修科目の内容や成績の情報と、日々の出席状況や資料のダウンロード時間といった情報とを組み合わせて解析することで、教育の効果や改善の議論ができるようになるのではないかと思います。こうした取り組みは「教育の質保証」のシステムを独自に構築してきた本学においてはさらなる強みとなるでしょう。
 
 研究に関しては、さまざまな実験データ、メタデータを公開し、オープンサイエンスを推進していくことが重要です。ただし、単純にオープンにすれば良いということではなく、それを使う人がいなければオープンサイエンスにはつながりません。これは茨城大学単独ではなく、他大学や研究機関、あるいは国の動きと連動させながら、研究環境を充実させていくしかありません。
 
 また、茨城大学としては地域との連携も重要です。私は今年から図書館長も務めていて、県内の図書館の皆さんと話す機会があるのですが、公共図書館においては自治体の投資が少なかったり、ネットワークがあまり整備されていなかったりして、なかなかデジタル化が進んでいないことがわかりました。この点では、大学から実績を踏まえた具体的な提言ができると思っています。また、本学の教育のDXの取り組みについても、教育学部の附属学校園を経由して地域の教育へと広げていくことができるのではないでしょうか。茨城大学の存在を通じて地域のデジタル化が進んだと、地域の方々に実感していただけるようになると良いですね。
 
 こうした取り組みを進めていくためにも、誰かがつくった戦略にみんながただ乗っかるということではなく、学内の構成員のひとりひとりが責任をもってDXに取り組んでいくことがきわめて重要です。そうした主体的な取り組みは達成感につながって心が前向きに変わり、それで茨城大学が変わっていく。情報戦略機構では、学内の教職員へ向けた外部講師によるDX講演会も開いています。DXといいながらも、一番狙っているのはマインド・トランスフォーメーションなんです。(談)

情報戦略機構職員情報システム、情報セキュリティ、デジタル改革推進、データ戦略の4部門で活動を展開

取材・文:茨城大学広報室 | 撮影:小泉 慶嗣


IBADAIVERS_LOGO.pngこの記事は茨城大学の広報紙『IBADAIVERS(イバダイバーズ)』に掲載した内容を再構成したものです。