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令和4年度卒業式・学位記伝達式を挙行しました

 3月23日(木)、茨城大学の令和4年度卒業式・学位記伝達式が挙行され、2,060人に学位記や修了証を授与しました。
 卒業式は二部制とし、それぞれ茨城県武道館にて実施しました。

令和4年度卒業式 学長告辞

 本日、卒業式・修了式を迎えた2,060名の皆さん、卒業・修了おめでとうございます。コロナ禍での苦労を乗り越えて今日を迎えたこと、心からお祝いすると共に、皆さんのこれまでの努力に敬意を表します。そして、皆さんの学業と研究活動を支えてこられたご家族や友人の方々にも心からお祝い申し上げます。
 
 世界情勢の不安、特に、ウクライナで戦争が始まり、辛くて悲しい日々が1年以上も続いています。一刻も早く、戦争が終結することを祈ると共に、私たちは、平和な社会づくりに貢献する研究と教育を行っていくことを、皆さんの前で、再度、宣言したいと思います。
 
 私たちは、今、グローバル化した社会状況を考える節目に立っています。国境を越えて人が移動して交流することで、経済活動が変わり、様々な便益が生まれました。一方で、COVID-19のように、パンデミックが起こりやすいことも分かりました。これらをグローバル化の表面で起きている現象と見るならば、その本質は、異なる人種や文化、言語が同じ空間に共存することにあるのだと思います。そのような本質を考えるとき、哲学的な課題かもしれませんが、「他者とは何か」、「他者と共に生きることとは何か」、この意味を問い直す必要があるのではないでしょうか。
 
 このことを考えるヒントとして、人類学者の磯野真穂さんの言葉を引用します。それは、「他者は"了解可能性"という希望を帯びつつも、"不可知性"という気味の悪さも同時にまとった両義的な存在である」と解いています。「不可知性」の「不可知」は「知るべからず」、つまり、「知ることができない」という性質が「不可知性」です。
 その具体的な事例を考えているとき、私は、ある絵本の話を思い出しました。松野正子さんの「こぎつねコンとこだぬきポン」です。大学を卒業する皆さんの前で恐縮ですが、ここで、その絵本の話を紹介します。
 
 物語は、共にともだちを作りたく思っているコンとポンが谷を挟んで出くわし、困難を乗り越えて、友だちになる話です。どちらの親も「狸なんか悪賢くて」「狐なんか狡賢くて」と言って、一緒に遊ぶことを禁じていたのですが、コンとポンの、相手の家族を思いやる優しい心と行動が、その谷に橋を架けるまでに、お互いの両親の心を動かします。
 この絵本の話を読み解けば、コンとポンは他者に対して、"了解可能性"をまず信じたのに対して、親たちは、"不可知性"の不安をまず抱いたと言えるでしょう。でも、最後に、両家族の間にある谷に橋を架けるには、"了解可能性"を信じて行動することが大事だと、作者の松野さんは説いているのだと思います。もっと言えば、この絵本の物語のエッセンスは、キツネとタヌキに例えて、多様な他者との共存の在り方について説いているのかもしれません。
 
 もう一度、磯野さんの論究にもどります。"不可知性"という他者との出会いでの不安を軽減する行為として、私たちは"おはよう""こんばんは"という何気ない挨拶を交わしていると、磯野さんは捉えています。その挨拶を通して、私たちは「共にあり続けること」、すなわち、磯野さんによれば、「"共在"の枠」を作っていると説明しています。この「共在の枠」を作るとは、具体的にどんなことを指すのでしょうか? 私なりに解釈すれば、「だれでもいいだれか」という3人称の他者を、「あなた」という2人称の他者に変えることだと思っています。
 
 一度できた「共在の枠」は、その後もうまく維持されるとは限りません。もし、「あなた」という他者が気になり、今後も共に在り続けようとするならば、何気ない挨拶以上に、何か新しいアクションを起こして、相手の反応を見たりするはずです。磯野さんは、この「共にあり続けるための身振り」を、"投げて射る"と書いて「投射」と呼んでいます。
 磯野さんは、末期ガンと闘う哲学者の宮野真生子さんと書簡を交換し合い、最後の往復書簡の10便では、「誇り高き哲学者 宮野真生子さま」、「魂の人類学者 磯野真穂さま」と互いに呼び合って、「共にあり続けるための身振り」、「投射」を実践しました。私たちは、相手からの「投射」を選び、受け取ります。相手からの「投射」を「選ぶ」ということについて、宮野さんは、「『選び、決めたこと』の先で、『自分』という存在が産まれてくる、そんな行為」であると書いています。これは、「共在の枠」という2人称の関係を通じて、1人称の自分を変えていく行為とも言えます。
 
 普段、私たちは、社会人として、決められたルールや慣習の中で生きています。いわば、ルーチン化された言動を取ることが日常です。しかし、その日常に埋没しながらも、共に在る「あなた」という他者に対して、「選ぶ」ことで自分を見出す、自分の存在を見つめ直す、そういうアクションの機会を持つはずです。
 
 さて、本学は、2年前に、イバダイ・ビジョン2030を策定しました。そのビジョンの1番目のアクションは、「社会・世界に開かれたキャンパスを構築し、多様な価値観の交差により新たな価値観が生み出される学びの場の提供」です。これが意図することは、私が今まで述べてきたことに相当します。すなわち、「多様な価値観の交差」とは、多様化した他者と共に生きる、「共在の枠」のことであり、「新たな価値観が生み出される」とは、「投射」の試みの先で、自分の物語が変わることでしょう。
 これから新たな一歩を踏み出す皆さんが、大学生活で生み出した新たな自分の物語、すなわち「新たな価値観」を糧にして、そしてこれから先も、他者との出会いと交流を通して、さらに、「新たな価値観」を生み出すことを願っています。その姿を私たち教職員一同は応援していきます。
 
 以上で、茨城大学令和4年度卒業式の告辞といたします。
 本日は誠におめでとうございます。

令和5323
茨城大学長 太田寛行

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第1部(茨城県武道館)
日時:令和5年3月23日(木)10:00
対象:工学部、農学部、理工学研究科博士前期課程、理工学研究科博士後期課程、農学研究科

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第2部(茨城県武道館)
日時:令和5年3月23日(木)14:00
対象:人文社会科学部、教育学部、理学部、人文社会科学研究科、教育学研究科、特別支援教育特別専攻科

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