1. ホーム
  2. NEWS
  3. 【後篇】多様な性的指向・性自認等の尊重のためのガイドラインを策定 ー目指す社会と現状について学生たちと考える

【後篇】多様な性的指向・性自認等の尊重のためのガイドラインを策定
ー目指す社会と現状について学生たちと考える

 茨城大学では昨年(2022年)12月に、「茨城大学における多様な性的指向と性自認等を尊重する基本理念・基本方針と対応ガイドライン【公開PDFへリンク/調整中】」を策定しました。【前篇】の菊池あしな理事(ダイバーシティ・国際・SDGs)と学生相談カウンセラーを務める全学教育機構(バリアフリー推進室)の沼田世里講師へのインタビューに続き、【後篇】では学生たちとの対談をお届けします。

後編・学生たちとの対談

―今日のインタビューには、茨大広報学生プロジェクトのメンバーも参加してくれています。学生のみなさんから聞いてみたいことはありますか?

橋本彩さん(人文社会科学部2年)「私は人文社会科学部現代社会学科に所属していて、授業でもいろんなジェンダーについて考えたり、当事者の方に教えていただく機会もあるのですが、理学部や工学部など他の学部、学科によっては、そういう機会が少ないという学生もいると思います。たとえばアウティングの禁止というのは、当事者以外の学生に託された課題ですよね。すべての学生に対して、どうやって理解してもらうのかを伺いたいです」

菊池あしな理事「私たちは生まれて知識がないところからスタートして、学びや教育、いろんな経験、自分の身近な人や自分自身についての意識を通じて関心をもち、どうにかしないといけないという気持ちにもなります。今は映画とか本とか研究とか、知る機会はたくさんあるのですが、その機会が実際にどこにあるかは人それぞれだと思うんですね。
 私の学生だったときは、教育の場にはそういったものがなく、旅行をしたり海外の人と話をしたりする中で、比較的若いときから多様な性の指向についても身近に感じる機会がありました。知らないことが多くて素直に驚き、そのときにどういうリアクションをしたらいいのか、こういうことを言ったら相手が傷つくのではないか、といったことの知識もなかったので、あとで考えると人を傷つけてしまったなと感じる経験もしてきましたし、今もまだまだ学んでいる途中です。
 橋本さんは専門的に勉強しているということですが、他の学部の学生でそういう機会がないという方に対して、そういう世界のリアリティを伝えるというのは、お互いにとってプラスなんだと思うんです。直接言葉で伝えるのが難しかったら、ご自身が勉強した教材や映画、本の情報を伝えたり、経験をもとに議論したりということは、積極的にすると良いと思いますね」

橋本「学生間でのコミュニケーションが大事ということですね」

沼田世里講師「本学のいいところは、総合大学で学部ごとに個性があるところですよね。学生たちのキャラクターの違いがすごくおもしろい。それこそが多様性のおもしろさだと思うんです。だから、『え、それ知らないの?』とおもしろがったっていい。そうやって学部を超えた交流が生まれるといいですよね。
 それから具体的な機会としては、今後、全学生が必修で受けるような授業の中に、多様な人への理解や学生への支援といった内容を組み込もうと調整しているところです。
 また、ガイドラインを発展させる形でガイドブックのようなものも作れないかと考えています。そこには、たとえば、友人からカミングアウトで相談を受けたんだけど、そういうときに自分はどういうふうにすればいいのか、といったことが考えられるような具体的な事例を紹介できればと思っています。また、本学ではピアサポートの運営実績がありますから、それを活かして、アライ(マイノリティを理解し、支援する人たち)の学生を増やすということはやはりやっていきたいです」

橋本彩さんと立川陽菜さん 橋本彩さん(左)と立川陽菜さん(右)

立川陽菜さん(人文社会科学部1年)「私もLGBTの当事者の話を聞いたりする授業を受けていて、その際、当事者の学生からの『そっとしておいてほしい』というコメントが紹介されていました。何かをしたいという気持ちの人もいると思いますが、実際に何をすればいいのかは難しいなと思っています」

菊池「難しいですよね。やっぱり人それぞれで、話したいという人もいれば、今はそういうときじゃないけれどもう少しで話してくれそうという人もいるし、そっとしておいて、という人もいる。それはLGBTQに限らない話ですが、そういうお互いの状況を把握するための最初のコミュニケーションというのは必要だと思うんです。その中で、踏み込みすぎてしまったり、間違ったことを聞いちゃったりということもあるかも知れないけれど、まずは問いかけてみて、ふと感じたら止める。そういうコミュニケーションがないと、なかなか相手のことはわからない。そのことがきっかけで、楽しくコミュニケーションすることもあれば、静かにそこに留まっている人をそっとすることもある。そうしたどんな状態も自然に感じられる空気感が大切で、そこから次への行動が生まれていくのではないかと思っています」

沼田「私たちも自らの性のあり方を他者と共有するのは難しいですし、当事者が自分で受け入れる段階というのにも難しいところがあります。特に性のあり方に関しては、高校生や大学生ぐらいになって初めてはっきりと自覚したという方もたくさんいて、私たちのような専門家にとってもタイミングの問題は非常に難しいんです。『そっとしておいてほしい』というコメントをすることも実は簡単なことではなくて、勇気がいったと思うんですよね。今回立川さんが授業での経験を経て、そういう心持ちの方もいるんだな、ということを分かってくれたというのは、とても大きいと思います」

―先生たちから学生へ聞きたいことはありますか?

菊池「どういう社会であってほしいとみなさんが考えているのかを伺ってみたいです。ジェンダーに限らず、言葉、宗教、文化の違い人たちが一緒に生きるという環境が進んでいる中で、社会や人びとに対してどのように接していきたいですか?」

橋本さん

橋本「私は女性らしさの押し付けということが気になっています。たとえば男性の友達から『メイクを薄くした方がいいよ』とか言われたりするのですが、別に男性のためにメイクをしているわけではないよな、と。それから授業で、性はグラデーションだという話があったのですが、私はたまたま異性愛者で性自認が一致しているけれど、メンズの服をよく着たりして、そういう男性的な要素も自分らしさとして捉えているところがあります。その意味ではLGBTQというカテゴリも押し付けのようなところがあると思います。
 そうやって、人はそれぞれ違うということを自分に言い聞かせながら、いろんな人と接していく。そして、相手の発言が嫌だなと思ったら率直に言う。そのことが相手の価値観を動かすきっかけになるので、そういう日々のコミュニケーションの中で周りの人たちの意識を変えるということを心がけたいです」

菊池「すばらしいですね。私もそういうことで違和感をもってもつい流してしまって、そこで何かアクションを起こそうというところまではいかないところがありました。でも社会を変えていくというのは本当はそういうことなんだなと、橋本さんの言葉で学びました。ありがとうございます」

沼田「学生のみなさんからそういう話を聞いたときに必ず言うのは、その気持ちをちゃんと覚えていてほしい、ということです。大学はそれでもオープンな場所で、これが就職していろんな社会で揉まれていくうちに、本当はもやもやしていたことが、だんだん当たり前になってしまうというのが、私としては残念なんです。違和感をもったりもやもやしたりしたことをちゃんと覚えていれば、橋本さん自身が社会を変えていく大きなひとつのポイントになっていくと思います」

diver_09.jpg(取材・構成:茨城大学広報室)