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「エネルギーとカーボンニュートラル」をテーマに学術討論会
―カーボンリサイクルの国際研究拠点形成を前に分野を超えた白熱議論

 20221219日、「エネルギーとカーボンニュートラル」をテーマとする学術討論会を開催しました。この催しは参加者を学内に限定して実施し、当日は会場及びオンラインで90人の教職員が参加しました。白熱した議論の様子をレポートします。

学術検討会開催 茨城大学では20234月にカーボンリサイクルエネルギー研究センターの設置を予定しています。今回の討論会では、同センターを拠点に研究開発が進められることとなる最新技術を紹介するとともに、それらの進展を展望しつつ、持続的なエネルギーの生産・消費を可能とする社会はどうあるべきかについて、専門分野の枠を超えた議論が交わされました。

 前半では、副学長及び研究・産学官連携機構長を務める金野満理工学研究科教授が、「エネルギー問題、エネルギー研究の重要性」と題して講演し、基調となる論点を示しました。
 この中で金野教授は、気候変動への対策の取り組みが加速化する一方で、化石燃料の枯渇や必要エネルギー量に対する再エネ供給の限界といったエネルギーの危機への対応が後退しているのではないかという問題意識をまず示しました。その上で、政府が掲げる2050年のカーボンニュートラルの目標達成にあたっては、非連続な技術開発が必須であり、現実と目標の乖離が広がれば、深刻な経済活動の停滞や国際紛争につながりかねないと指摘。加えて、それが化石エネルギー文明から再エネ文明への転換であるという視点をもつべきであり、食糧や人口といった問題も議論していかなければならないとして、分野を超えた全学での研究や議論を呼びかけました。

0112_pict_02.jpgのサムネイル画像 講演する金野教授

 続く事例紹介では、新設予定のカーボンリサイクルエネルギー研究センターを拠点としたエネルギー研究として、DACDirect Air Capture)による二酸化炭素回収と合成燃料の利用技術(理工学研究科・田中光太郎教授)、二酸化炭素からの有用物質の合成(理工学研究科・近藤健助教)、水素細菌によるカーボンリサイクル技術の開発(農学部・西原宏史教授)が紹介されました。

 後半はパネルディスカッションとして、金野教授とともに、環境社会学が専門で人文社会科学部長を務める原口弥生教授と、茨城県地域気候変動適応センター長を務める理工学研究科の横木裕宗教授が登壇し、梶野顕明URAの進行のもとパネルディスカッションを行いました。
 金野教授が前半の講演で示した、カーボンニュートラルについての急激すぎる目標設定が別のリスクを生んでしまうという認識に対し、横木教授はIPCC(国連・気候変動に関する政府間パネル)によるシナリオを参照しつつ、「気候変動適応のコストを下げるためには早く緩和策を実施した方が良いが、無理してカーボンニュートラルを実現することで予想していなかった悪影響が生じたり多大なコストを負担したりとなると本末転倒ではないか。また、悪影響が一部の地域に偏ることも避けなければならない」と述べ、目指す方向は同じであるという見解を示しました。

左から原口教授と横木センター長

 また、原口教授は、文明の転換が必要という意見に同意し、分散型エネルギーとして風力発電が発達してきたインドの事例などに言及しながら、「エネルギーを含めた地産地消をやっていかないといけない」と指摘しました。一方、金野教授が、地産地消だけでは立ち行かず、適正な人口などについての議論が必至となるのではないかと述べると、「倫理的にはその問題を政策的な課題にすることはできないと思う。加えて、先進国の私たちが搾取していることを考えれば、発展を目指すアフリカなど途上国の人口だけを課題の根源として見るということの問題もある」と話しました。
 これらの議論に対して、参加者からは、地域間での目標及びコミットメントの柔軟さが必要ではないかという意見がありました。金野教授は「もっともな意見だと思う。私自身は一定量、化石エネルギーなどを使いながらソフトランディングをし、現実を見ながら時間をかけて目標に近付けるのが良いという考えだ」と応じました。

 最後は、総合大学としてこれらの議論と技術開発を引き続き行っていき、グローバル、地域の両面に目を向けながら、エネルギーの観点からの持続的な社会の実現を具体的に図っていくことを全員で確認し、第1回の討論会は幕を閉じました。