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大学生にしてミステリー小説作家
―初の著作本『Message』をリリースした横山黎さん(教育3年)インタビュー

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 教育学部3年生の横山黎さんはミステリー小説の作家でもあります。今年6月にはAmazonのサービスを利用して初の著作本『Message』をリリース。11月に行われた全国大学ビブリオバトル2022茨城決戦大会にはその『Message』を引っ提げて挑み、12月25日の全国大会にも特別枠での出場が決まりました。横山さんへのインタビューをお届けします。

20歳の誕生日を目前に控えた大学生・小山遊馬は、地元の東京都北区で成人式に参加した日の夜、歩道橋の階段から転落死する。現場には「110」と読める血文字が残されていた。現場に駆け付けた警察官であり、遊馬の父親でもある順一は、成人式のあとの同窓会に参加した遊馬の地元の旧友たちに聞き込みを行っていく......

―ネタバレ注意ですが、遊馬が残したメッセージの意味というか、ダイイングメッセージという概念自体が重要な要素になっていますね。

横山「僕はダイイングメッセージというものにそもそも疑問を持っていまして。被害者が死に際にメッセージを書き残すイメージですが、現実的にはそういう事件はなくて、本来は余命残りわずかというときに家族に送るビデオメッセージのようなものではないかと。でもそういう本来の意味でのダイイングメッセージが小説とかフィクションで扱われることはあまりないなと思って、今回それを追究してみたいと思ったんです」

 遊馬は茨城大学の大学生。若いときに作家を目指していたという父親の影響もあって小説家を志すようになった。

―やっぱり横山さん自身がモデルですか?死んでしまう役回りではありますが...

横山「当初はそんなに自分自身のことを入れ込むつもりはなかったんです。でも書き進めていく段階で、この本は初めて書籍にするものだから自分の名刺代わりになるような小説にしたい、僕の20年を物語にしちゃおう、そう思うようになりました。僕が亡くなったとしたら他の人はどう考えるかな、自分はこれまでどう生きてきて何を残してきたかな、という思考実験のような感じで。父親は警察官ではないですが(笑)」

―その意味では、横山さんのこれまでの生き方を、お父さん、お母さんの視点からも見つめ直したことと思います。ご両親も本を読まれたんですか?

横山「本ができて最初に親に渡しました。母親は、実際の経験をもとにしているだけに、ひとりの読者ではなく親として読んじゃうところがって、まだ落ち着いて読めないと言ってました。その意味では心揺さぶる物語になっていたのだと思っています。
 父親はその逆ですね。良くも悪くも父親として読んでいなくて、作家として僕をライバル視しているような感じで、『ここはこうした方がいい』という批評をいただきました(笑)父も実は物書きをしていて、高校生のときから僕と同じように小説を書いたりみんなに見せたりしていたし、今も書き続けています。還暦までに1作品を作りたいと言っています。
 実は20歳になって僕自身も両親に手紙を書いたんですよ。その後、成人して初めて父とサシで飲んでがっつり話して。今でも夢を追いかけている父親の背中が、なお大きく見えましたね。父親をいつか超えるような、認めてもらえるような作品を作りたいと、改めてエンジンがかかった瞬間でした」

message02―横山さん自身のミステリー小説との出会いは?

横山「本格的なミステリー小説に出会ったのは小4のときです。地元(東京都北区)の図書館に、北区出身の作家さんとして内田康夫先生の本がたくさん並んでいて、それを読み始めたのが最初です。それでおもしろいなと思って」

―書き始めたのはいつ?

横山「そのあと割とすぐ、小5のときです。もともと僕自身、つくることが好きで、幼稚園のときの絵とか工作に始まり、絵本とか紙芝居も作ったりしていたので、物語をつくることには抵抗はなく、すんなり始められたんだと思います」

―他の人にも読んでほしいとか、懸賞小説に応募しようと思い始めたのは?

横山「僕の中には人に読ませることの恥ずかしさはあんまりなくて、むしろその都度いいものが書けたから読んでほしい、という衝動が昔からあり、家族や友達に読んでもらっていました。
 賞に応募したのは、中学2年生のときが最初です。子ども向けの賞ではなくて、後に奨励賞をいただくことになる北区内田康夫ミステリー文学賞です。そのときに約200の応募作品の中から1次選考を通過した15作品ぐらいの中に選ばれて。自分の作品が認められるってこういうことか、夢に近づくっていいな、と、そこからモチベーションが上がったんです。ただ、長編なんかも書いて時間もかかるし、毎回うまくいくわけでもなく。それで高2になってようやく同賞の奨励賞をとれたという感じです」

「人それぞれに事情があって、思いがあって、物語がある。それでも、人は自分の物語を世界に求めてしまう。」(第5章より)

―小中学生の頃に書いた作品を今も読み直すことは?

横山「中1ぐらいで書いた作品をたまに読むんですけど、今の自分の文章の方が好きだし整っているとは思いますが、やりたいこと、伝えたいことはこれだ、という姿勢はあまり変わってないなって思いますね」

―『Message』もそうですが、書きたいテーマ、書くべきテーマをしっかりと決めて書いている印象をもちました。横山さんのいう、変わらないこと、追究したいテーマというのは、たとえばどんなものですか?

横山「何かひとつゴールを決めないと、物語全体が散らかってしまうので、テーマや象徴的なタイトルを先に決めて、物語をそこに収束するように構成していく作り方をするんです。
 たとえば、雨の日でも電車賃が払えないために自転車で学校に通っている子どものニュースを見て、あ、僕自身も裕福ではなかったけれどもっと辛い思いをしている人がいるんだな、と思ったときに、それを物語にしようとテーマが決まったりするんですよね。そうすると舞台は雨の日で、キーとなるアイテムは自転車で......というふうに、テーマがあってそこから派生して物語をつくることが多いんです」

message03―そこに横山さんの人や社会へのまなざしが貫かれていますね。その上で、創作のスキルはどのように磨いているんですか?

横山「それはやっぱりプロの作品に触れるというのがひとつで、大学の教育学部の国語選修ということもあって本を読まなきゃいけない機会が多くて、そのときにこの表現はいいな、と思ったり、特に気に入ったものはケータイのメモに残したりして。そうやっていろんな本を読んで自分の文章スタイルを確立していけたらいいなと。
 あとはnoteというプラットフォームで毎日15002000字ぐらい、思ったことを日々のアウトプットとして書いているんです(https://note.com/rei_masterpiece)。物語を綴る文章とは違いますが、毎日アウトプットすることで言葉を操る力をつけています」

―大学に入って読む本の幅が広がって、意外な出会いとなった本はありますか?

横山「芥川龍之介に『桃太郎』という作品があるんです。みんなが知っている童話の桃太郎の再話ですけど、言ってしまえば桃太郎が悪、鬼が是として書かれているんですね。これを読んで、桃太郎って深いな......と衝撃を受けて。いろんな側面があるし、書く人の思想で変わる。それを皮切りに、ちょうど去年の今ごろ、桃太郎についてめちゃめちゃ調べたんですよ。そしたら時代によって物語の性質が変わり、それぞれの世代の人びとの考えが反映されているということがわかりました」

「もっといい作品を書いて、もっといろんな人の心を動かしたい。それが俺の夢、かな」―成人式の日の夜の同窓会。遊馬は将来の夢の理想と現実をめぐって同級生の颯斗と口論になる。憤慨した遊馬は店を後にし、その後遺体となって見つかる。

―作家として生きていく、ということについての遊馬の考えには、横山さんの想いも重なっているのでは?

横山「現実の成人式の日の同窓会ではみんな仲良く、ケンカなんてなかったのですが、物語としてはそこは大事なところですし、僕自身がちゃんと整理したかった点です。遊馬は最終的に『俺は作家だ』と結論づけるのですが、僕もどういう道を選んでも書き続けていくと思いますし、物語を綴っていかなければならない、その気持ちが変わることはないと思います」

―今回の作品は仲間との「共同創作プロジェクト」で作られたと紹介されていますね。これはどういうものですか?

横山「高校の同級生や大学で知り合った友達に声をかけて、6~7人ぐらいのチームを作って書いていったんです。僕がまず執筆をして、その粗削りのものをLINEで共有したりZoomで話をしたりして、迷っているところを全部公開して、意見をもらいながらひとつずつ決めていくという方法です。もともとオリエンタルラジオの中田敦彦さんが自叙伝をオンラインサロンのメンバーと共同制作したという話を知って、確かにみんなで作る楽しさがあるし、独りよがりにならずに客観的な視点も得てより万人に届く作品になるといったメリットがあるなと思って、試してみたんです」

―手応えはどうでしたか?

横山「めちゃめちゃ良かったです。この物語の根幹となっている要素もメンバーのアイデアがあってのもので、そこに僕が補填していってまとめていきました。僕ひとりでは見ることができない景色を見ることができたと思います」

message04―さきほどのnoteにせよ、共同創作というスタイルにせよ、「書く」こと自体やメディア、あるいは作家のあり方が最近は広がっているように思います。その中で横山さんにとって「作家」「書く」というのはどういうものなのでしょう?

横山「表現方法にも作家のなり方にもいろんな選択肢があるからこそ、自分がおもしろいな、価値がありそうだなと思ったことは試していきたいです。
 今回の本もAmazonのセルフ・パブリッシングというサービスを知って試してみたものなんですが、出版社を通さなくても今こうして生協の書店とか水戸キャンパス近くのブックエースとかで置いていただいてるんです。イレギュラーな方法ですが、いつか本屋さんに自分の本が並ぶといいな、という夢をかなえたというのは同じで、それに意味がないわけではなく、そこから新しいつながりや結果が生まれたりすると思うんです。これまではこうだったからとか、わからないから蓋を閉じようとか、そういうことでなく、いろんなことを試しながら、『書く』『作家』ということを追究してみたいです」

「作家なら、命尽きるその瞬間まで言葉を操るべきだ。自分の人生最後に、1番伝えたいことを遺そう。」(終章 メッセージ)

20年分の人生の思考実験としてこの本を書き終え、次に横山さんが向かっていくのは?

横山「いろいろありますが、今こそ書ける話というと、やっぱりコロナの話です。僕らは今歴史の教科書に載る事象の上に立っているので、これを物語にしないわけにはいかないなと。僕自身、入学式のない学年だったし、たくさんの方がコロナで亡くなり、その点では失ったものは多いですが、一方で得たものもあったと思うんです。Zoomでの共同創作もそうですよね。この時代を肯定できるような物語をつくりたいです」

―『Message』の中では、遊馬は受験日を勘違いした結果、第一志望だった大学に入れず、やむなく茨城大学に入学したという設定になっています。これも横山さん自身の経験を踏まえたものとして、その後の茨大での約3年間をどう捉えていますか?

横山「結論としては、後悔はないですし、良かったと思っています。試験日間違えたというのはホントの話なんです。一人暮らししたいわけでもなくて、むしろ地元にいたかったんですけど、茨城に来て、一人で生きるとはこういうことかと思ったし、この大学でいい出会いもあって、バイトでもいい経験をしてプラスになっています。こうして本も出せましたし。
 仮にずっと東京に住んでいたとして、その先にどんな未来が待っていたかはわかりませんが、試験日の間違いから始まったにせよ、今ここまで歩いてきて正解だったなと思っています」

横山黎(よこやま・れい)
2001年、東京都北区に生まれる。現在、茨城大学教育学部3年生。2019年1月、「マイナビ 第5回全国高等学校ビブリオバトル決勝大会」に東京都代表として出場。同年3月、『秘密を夜に閉じこめて』で第17回北区内田康夫ミステリー文学賞奨励賞を受賞。noteで主に創作に関する記事を投稿中。『Message』は、茨城大学生協書籍部(水戸)、ブックエース茨大前店の他、Amazonで購入できる。

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取材を終えて

今回の取材には、茨大広報学生プロジェクトのメンバーの横山廉さん(理1年)が同行しました。横山廉さんの取材後記です。

横山さんはなぜ作品を書き続けていくのか?
「誰かの心を動かすことが幸せだから。」だそうだ。より良い作品をつくり、より人の心を動かすため、プロの気に入った表現をメモすることや毎日noteへのアウトプットを欠かさない姿勢に刺激を受けた。
横山さんが20年分の思いを込めて書いた『Message』。1月に成人式を迎える私は誰に何を伝えたいのか、これからどう生きていくのか。この作品と取材を通して、改めて自分と向き合うきっかけになった。

(取材・構成:茨城大学広報室)