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学生たちが水戸市長へ向けてエビデンスに基づく政策提言
―人口減少を食い止めるためのアイデアを検討―

 117日(月)に水戸市役所で行われた「第2回 若者によるエビデンスに基づく政策提言発表会」。茨城大学からは今年も人文社会科学部の経済政策論ゼミナール(担当:後藤玲子教授)が政策提言を行いました。今年度のメインテーマは「『SDGs×地域×ジェンダー』~水戸市の未来を考える~」。学生たちの提言内容と高橋靖市長とのやりとりをレポートします。

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 後藤教授は、エビデンス(科学的根拠)に基づく政策形成(EBPM)についての研究に取り組んでおり、水戸市との間でもジェンダー政策などの面で研究・教育の両面で協働してきました。近年はゼミの学生たちが、水戸市から提供されたデータや独自の調査をもとに政策課題を検討してEBPMを実践し、市に提言をする活動を続けています。
 高橋市長も出席する「若者によるエビデンスに基づく政策提言発表会」もそうした流れを受けて一昨年度に始まったものです。その第1回でも茨城大学の他に常磐大学からも学生たちが政策提言に挑戦しました。
 今年の提言のテーマは「『SDGs×地域×ジェンダー』~水戸市の未来を考える~」。人口減少のトレンドに対して水戸市として持続可能なまちづくりをどう進めていくか。これは喫緊の課題であり、現在策定中という水戸市の第7次総合計画においても重要な視点となります。学生たちは年度のはじめに水戸市の職員の方から同計画についてのレクチャーを受け、これまで課題分析と政策立案に取り組んできました。
 同会にあたり、高橋市長は「生産年齢人口の減少で将来が本当に心配な状況。その中で若い方々がどうすれば移住、定住するのか。ここで子どもを産み、働き、好循環を生み出してくには水戸市がどういう環境を整備し、魅力的なまちにすればいいのか。ぜひご提言をいただきたいです」と呼びかけました。

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 茨城大学からは、「転出者を減らすため(転出グループ)」と「転入者を増やすため(転入グループ)」という2つの切り口で分けた2グループが政策提言を行いました。

 はじめは転出グループによる提言。このグループではまず、若者が水戸市ではなく都会に就職する背景について、都会の方が①選択できる職の幅が広い、②賃金水準が高い、③行政支援が充実している、④娯楽が充実している という仮説を立てた上で、地元就職に関する既存の調査データや行政の公表データをもとに検討。その結果、①、②には妥当性が認められた一方、④については参照できるデータが少なかったことから、学生へのアンケートなどを用いた独自の調査に取り組みました。

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 水戸市と似たプロファイルをもつ16都市の転出率と、民間企業が発表している各地の娯楽数のデータとを組み合わせ、相関を分析したところ、娯楽数が減るほど転出率は増加するという相関関係がありました。ここで興味深いのは、娯楽の具体的な内容分類のうち、「おしゃれ/ファッション」の施設数と転出率との関係は、全体のデータでは相関関係が弱いと出ていたものの、対象16都市から水戸市を抜いた分析では相関関係が強まるという点です。ここから、水戸市は他の都市に比べて「おしゃれ/ファッション」に関する施設数が極端に多いことと、その特徴を効果的に活用できていないという可能性が見えてきます。

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 ファッションに関する施設の多さが、若者の満足度につながっていないということは、大学生へのアンケート調査からも垣間見られました。茨城大学の学生へのアンケートでは、現状の水戸市の娯楽について約3分の2の学生が「不満」「やや不満」と回答。特に「遊ぶ場所」「おしゃれ・ファッション」に力を入れてほしい、という声が多かったようです。
 これらの結果を踏まえ、グループでは複合型アミューズメント施設のような遊ぶ場所の誘致と、ファッション施設の集積を活かした施策展開を提言。特にファッションについては、公園や空き地を利用したファッションに特化したフリーマーケットの開催や空き店舗を利用したポップアップストア、ファッション系に特化した紹介WEBサイトの制作などのアイデアを提案しました。

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 次に転入グループの提言です。こちらのグループでは、若者の雇用の状況についての分析から政策の検討を進めました。具体的には、水戸市への若者の転入者増加には、どのような特徴をもつ業界の企業増加が有効かという問いを立て、①規模の大きな企業、②正規雇用割合が高い業界の企業、③若者に人気の業界の企業 という3つの仮説を立てて検証しました。その結果、①と③については、該当する企業の数と若者の転入率との間に、はっきりとした正の相関がみられました。
 特に③については先行研究をもとに、安定している、給料が高い、若者がやりたい仕事、将来性がある、といった形でさらに詳しく検討。そこから、特に情報通信業は若者の転入率増加に関係していることがわかりました。
 そこでグループでは、水戸市の商工課の方にヒアリングを実施。情報通信業のような特定の業種に特化した企業誘致の現状や可能性などについて聞きました。それらの結果、地域内の産業のバランスから、企業誘致には第一次産業、第二次産業の誘致に注力せざるを得ない状況や、企業誘致に関するさまざまな支援制度への周知が課題として浮かび上がりました。
 これらの調査を踏まえ、グループでは、関連するWEBサイトのリニューアルや既存の建物を利用したレンタルオフィスの開設などを提案しました。

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 それぞれの提言のあと、学生たちは高橋市長らと直接意見を交換しました。
 娯楽施設の誘致などを提案した転出グループとの議論では、既存施設を活かした「ソフト」面の充実の必要性が話題になりました。学生から景観を活かした体験型のイベントの実施というアイデアが出されると、高橋市長は「観光客ばかりではなく、住んでいる人がここで遊んだり学んだりして、楽しいと思うようなことを考えたい。民間事業者の方が自分たちの商売を活かして、住んでいる人にも楽しんでもらえるようなことは何か。それに私たちがどんな支援や助成ができるか。それを学生のみなさんとも一緒に考えたいです」と述べました。
 転入グループは高橋市長に対し、「人口減少の問題に対して、自然増と社会増どちらに軸足を置いて政策を展開していくのか」と質問。それに対して市長は、「どちらも大事だが、まずは自然増への対応。これまでは自然増の不足な分を社会増で埋め合わせてきたけれど、それができなくなってきた」と回答。その上で、「子どもを生みたくても経済上できないという方がいる。一気に大風呂敷を広げられないが、先進的と言われるような環境整備、負担軽減の合わせ技で、そういう方にもっと寄り添いたい」と話しました。
 また、提言にあった、企業誘致が第一次産業、第二次産業に偏ってしまうという点については、「就職先としての農業というのをもっと発展できないかと考えています。水戸での多様な働き方につながるような企業誘致について、統計データを利用して戦略を考えていきたいと思います」と述べました。
 常磐大学の学生たちからの提案をめぐっても、福祉の問題などについて有意義な議論が展開されました。特に、要介護認定率が全国や茨城県の平均値よりも高いという指摘について、市長は「原因を分析したい」と述べた上で、「介護保険料が高いけれどいつでもサービスを受けられるのか、介護保険料は安いがいざというときに十分なサービスが受けられないのか、どちらが住みやすいまちといえるのかについては、ぜひ研究してほしいです。水戸は前者だが、これは価値基準の違いでどちらが正しいということはない。今日の議論もぜひ参考にさせていただきます」と話していました。

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 市長や副市長、担当部長といった方々との真摯かつ具体的なやりとりを通じて、自分たちの課題分析や提言が、市の総合計画に少なからずつながっていきそう―そんな手応えを、学生たちは感じていた様子でした。後藤教授も、「若者とエビデンスという言葉を入れた政策提言発表会を開いていただいていることが本当にありがたい。今回は『固定観念に縛られない政策提言』というミッションを立てて臨んだ。今後も、ここをもっと深掘りすれば良いと言ったご意見をいただけると嬉しいです」と謝意を示し、今後のさらなる展開に期待を寄せました。

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(取材・構成:茨城大学広報室)