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水戸市長を招き人社・行政学ゼミの学生が調査報告&議論
―「移住・定住促進」「コンパクトシティ」の政策効果を検討

 水戸市における移住・定住促進に関する政策について、人文社会科学部で行政学を学ぶゼミの学生たちが「PR政策」と「コンパクトシティ」の2つの観点から調査・検討を行い、その結果を高橋靖・水戸市長や市職員に向けて報告しました。217日に水戸キャンパスで行われた「水戸市行政懇談会」の模様をレポートします。

 人文社会科学部の川島佑介准教授のゼミの学生たちが、水戸市からの依頼を受けて調査に取り組み始めたのは、約1年前の2021年春。「具体的なテーマにどう落としていくか悩んだ」(川島准教授)ようだが、検討の結果「PR」と、コンパクトシティへの若者の意識にフォーカスすることにした。

 移住・定住促進に関する自治体のPR策についての調査報告を行ったのは、3年生の中西佑斗さんと高貫圭介さんの二人。まず、国内の中核市の移住関連のホームページ、移住相談窓口、SNSを確認し、その充実度を点数化した。その結果、対象とした48都市のうち、水戸市の総合点は下から2番目の21点(平均点:77.1点)。これは水戸市における移住・定住促進策の本格的な検討が「始めたばかりでまだ自慢できるものがない」(高橋市長)状況なので、当然かもしれない。

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 しかし、今回の調査で重要なのは、外形的なPR策の充実度が、実際の人口増という効果をもたらしているか、という点だ。対象都市の各点数と、RESAS(地域経済分析システム)で得た人口データとの関係を計量的に分析したところ、その答えは「NO」。実際、対象都市の中で社会増のポイントが最も高かった兵庫県明石市は、PR点数では36点で下から5番目という低さだ。報告した高貫さんによれば、「明石市はおむつ無料、高校生までの医療費無料などの政策が口コミで広がっている」ようで、「PRだけ力を入れても効果はない」。今後本格的に移住定住促進策を進める水戸市にとっては、後発のアドバンテージを活かした効率的・効果的な政策運営が求められそうだ。

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 「コンパクトシティ」については、大学生の意識調査からそのポテンシャルや政策の優先度を検討することにした。報告者は、岡村駿佑さん、篠崎光紀さん、塚田樹一郎さんの3人。
 コンパクトシティとは、中心部の都市機能や住居を集約させ、既存の社会インフラを活用するとともに、新たなインフラ投資を抑えるような都市構想。社会の持続可能性を高める施策として重視される。水戸市も「コンパクトシティ」を市の方針として掲げているが、高橋市長によれば、「コンパクトシティを強調しすぎれば、郊外の住民には疎外感を感じさせてしまう。住民ニーズを踏まえたバランスが現実には大きく問われ、いろんな面での妥協が必要となる」。
 では、実際に若者はどんな意識をもっているのか。ゼミでは、茨城大学を中心とする大学生にWEBアンケートを実施。553件の回答が得られた。このうち、水戸市に住みたいと「強く思う」「思う」と答えた大学生はあわせて約17%。回答者の多くが茨大生だと考えるとややショッキングな数字かもしれない。一方、コンパクトシティに対しての評価は全体的に高めだった。
 さらにアンケートの自由記述からテキストマイニングを行ったところ、物価の安さや買い物の利便性などの住環境の良さが水戸市の強みとして評価された一方、交通機関の不便さを多くの人が指摘し、なおかつ関心も強かったという。ここから岡村さんたちのグループは、「公共交通の整備と利便性向上が最重要」とし、居住地域周辺のバスの運行本数の増加や若者の交通費用の補助などを提言した。

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 学生たちによる調査報告を踏まえ、川島准教授は、「将来的に親と同居したくないという大学生が多いことなどからも考えると、親と同居→車を購入→結婚して郊外に家を建てる、というライフスタイルが時代遅れになっているのではないか。一人暮らしで車をもたないとしたら、公共機関に頼らざるを得なくなる」と指摘。また、「平地が多く、宅地開発を広げやすい地理的条件がある中で、具体的にどのようにコンパクトシティの実現や空き家対策を進めていくべきか」と、高橋市長に質問した。

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 こうした報告や質問に対して高橋市長は、「公共交通と道路というのは、まさにドンピシャな問題」と応答。一方、他の市町村で導入されているような乗り合いバスやデマンドタクシーについては、「バスが整備されている水戸でそれらを導入すると、結果的に路線の減少につながり、若い人たちが困ることになる」として、既存の路線バスの活用に重点を置いていると説明した。

 また、コンパクトシティといっても、水戸市の場合は既存の郊外も生かした「多極ネットワーク型のコンパクトシティをめざしている」とも語った。赤塚、内原、笠原といった地域で生活圏をつくり、それらの複数の生活圏と中心市街地を公共交通で結ぶというものだ。ただし、現在のような市街地を中心とした放射状の公共交通網だけでは不十分で、周辺の生活圏同士をつなぐ「環状線」も必要とのこと。「都市核とそれぞれの生活拠点を公共交通でつなぐという理想を追究、充実させていきたい」と語った。

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 また、学生から、県内の他の市町村と人口の奪い合いになってしまうことについての見解を問われると、「県央の市町村と連携中枢都市圏構想を進めているが、そうした都市間連携と同時に、実際には都市間競争もしっかりやっていかなければならないことは残念ながら事実だ。パイを奪い合うことは避けられない」と、複雑な心境を示した。そして、教育、子育て支援、医療、福祉、社会保障といった「安心の社会インフラをしっかり整える」ことを水戸の売りとして発信していきたいという意気込みを表明した。

 意見交換を経て高橋市長は、「みなさんからいただいた計量分析の結果を第七次総合計画の参考にもしていきたい。有意義な懇談会ができたことに感謝申し上げたい」と述べた。

 報告者の一人となった篠崎光紀さんは、「公共交通が肝心という視点を身につけることができた。市長のお話を聞ける貴重な機会をいただいたので、今後自分たちの活動に存分に生かしたい」と語った。

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(取材・構成:茨城大学広報室)