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香港は、今。:現地の最新レポートと対話のワークショップ-率直に語られた葛藤

 香港では、逃亡犯条例改正案に反対する若者たちを中心としたデモが始まってから約半年が経つ。茨城大学のiOPラボでは、今の香港の若者の状況について対話を通じて理解を深める場として、1214日、「香港は、いま。―現地の最新レポートと対話のワークショップ」と題したイベントを開催。自身もデモの活動にかかわり、現地からTwitterを使って日本語で情報を発信しているレモンさん(仮名)が、率直な言葉で今の思いと状況を語ってくれた。

 2014年、香港の行政長官の選挙をめぐって中国政府から示された方針をめぐる大規模な抗議運動が起こった。当初から「和理非(平和的・理性的・非暴力)」を掲げ、中心街の道路に座り込む活動から始まったが、SNSを通じて若者を中心に参加者が広がり、ついに警察が催涙弾を発射する事態に。参加者たちが傘を開いて防弾したことから、このデモは「雨傘革命」と呼ばれた。

 そして今年6月、香港の犯罪容疑者の中国本土への移送を可能とする逃亡犯条例への反対デモが起こった。空港が一時封鎖されるなど、香港の観光や経済にも大きな影響が広がる中、警察と民主派の一部(武勇派)との武力衝突も起き、その様子は世界中で報道されている。

hk2.jpg中心街でのデモの様子(レモンさん提供)

 香港で10年ほど日本語・日本文化を学んだレモンさんも、「和理非」の理念のもと、「雨傘革命」のデモからかかわるようになり、今回のデモに際してはTwitterを使って現地のニュースを日本語に翻訳した情報などを発信する活動を始めた。「大学生だけでなく、小学生から高校生の人たちもデモに参加していて、その輪ができてきているんです。そこで語られている香港の人たちがどんなことを考えているかをどうしても伝えたくて、日本語に翻訳して発信する活動を始めました」(レモンさん)。

 レモンさんによると、デモが過激化する大きなきっかけになったのが、721日に香港の元朗駅で起きた市民無差別襲撃事件だという。白い服を着た何十人もの暴徒が突然、駅の利用者たちに暴行を加えたのだ。暴力によって混沌とした当時の様子を映し出した動画を見て、約20人のイベント参加者は皆、言葉を失った。この事件の真相はまだ分かっていないが、現地での警察の消極的な行動なども目撃され、市民が警察への不信感を強めることになった。

hk3.jpgレモンさん(左)と香港理工大学での講師経験ももつ全学教育機構の瀬尾匡輝准教授

 現在デモ隊は香港政府に対し、5つの要求を示している(五大訴求)。①条例改正案の撤回、②デモの「暴動」認定の取り消し、③警察の暴力に関する独立調査委員会の設置、④拘束したデモ参加者の釈放、⑤普通選挙の実現(行政長官の辞任から徐々に変更)の5つだ。このうち①については林鄭月娥長官が既に撤回を表明しているが、前述のような経緯もあり、民主派は③の警察に対する独立調査委員会の設置を特に強く求めている。5つすべての要求を実現するまでデモを続ける方針が前提ではあるが、レモンさんは市民の本音に関しては、「正直、5つ全部に政府が応えることはすぐには難しく、時間をかけて訴えていく必要があることは分かっています」と語る。警察に対する独立調査委員会がきちんと機能すれば、デモは収束に向かうという見解だ。

 しかし、デモの「ゴール」をめぐり、実際には民主派内でも複数の立場がある。残念ながらその調整は容易ではない。「非暴力」を掲げるレモンさんたちと、一方で武力を辞さない武勇派との間にも、そのアプローチ方法に大きな溝がある。「民主派内での対立も深まっているのではないか」と質問すると、「民主派内のグループ同士で、抵抗する方法については互いに干渉しないということを、デモ前から約束しているんです」とレモンさんは説明してくれた。この戦略は民主派内の各グループの自律性を高めるかも知れないが、全体での意志の統一を難しくさせる面がある。先は見通しづらい。

hk4.jpgイベントには学生から社会人まで約20人が参加した

 参加してくれた人文社会科学部1年生の学生が、「親中派はどのような主張に基づいているのでしょうか」という質問をした。レモンさんは、「親中というより、今のデモが起こしている混乱を懸念している人たちが、自分たちの親世代を含めてたくさんいるということだと思います」と語る。この世代間の溝が、デモに参加する若者と家族との対立として日常的に表面化しているのだ。ここにも静かな分断がある。

 11月の香港区議会選で民主派が多数の議席を獲得し、デモは少し落ち着いたようには見えるが、この先をどう見通すか。「香港のどんな未来を描いていますか?」という質問に、レモンさんはこう答えた。

「そこまで将来のことは考えられず、目の前に起きていることを伝えることで今は精一杯。ちょっと前までは、自分が×歳になったらこんな仕事ができたらいいなとか思っていましたけど、今は今月とか、年末とかが普通に平和で過ごせたらいいな、という感じです。クリスマスがもうすぐじゃないですか。今までのクリスマスみたいに普通に過ごせるのか不安なんです。だから将来のことは考えられない...というか、考えるのはちょっと怖いです」

 デモが長期化する中、経済の混乱、社会的な分断、警察への不信という状況が生まれている香港の現状。「こんなに長引くとは思わなかった」というレモンさんの率直な言葉が、会場に重くのしかかる。「海外にいる私たちにできることは何でしょうか?」という学生からの質問に、レモンさんは答えた。

「香港の現状について、日本政府は公式な声明を出していませんが、さまざまな国の政府が声をあげてくれていて、それは私たちにとっても大きな力になります。日本の市民のみなさんにも香港で起こっていることを周りの人に伝えていただき、ひとりでも多くの人に知ってもらうことが一番の願いです」

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(取材・構成:茨城大学広報室)