9月11日、茨城大学教育学部附属小学校で「令和8年度情報教育公開日」が開催されました。年1回の公開研究発表会とは別に、情報活用能力の育成に特化した校内研修を広く公開する取組として2年前から実施されています。今回は3つの授業公開に加え、ポスターセッションや講演会が行われ、茨城県内外の多くの教員のほか、教育実習期間中の学生も参加しました。授業参観と講演会を通じて見えてきたのは、「デジタルを活用すること」そのものではなく、子どもたち一人ひとりが自ら学び方を選び、他者と協働しながら学ぶ姿でした。広報・アウトリーチ支援室の山崎一希主幹専門職がレポートします。
デジタル一色ではなかった教室
附属小学校の直井裕紀教諭から情報教育公開日の案内を受け取ったとき、チラシに並んだ「デジタル教科書」「VRゴーグル」「AI」といったキーワードを見ながら、ICTなどのデジタルツールを子どもたちが自在に使いこなす教室の姿をイメージしていた。学習指導要領の改訂も見据えた先進的な実践として、その様子を広く発信する意義は大きいと考え、プレスリリースも用意した。
しかし公開日当日、そのイメージはよい意味で裏切られた。そこには子どもたちのタブレットをはじめとするデジタルツールが確かに存在していたが、それと同じように、教科書を拡大した大判の紙、多様な図鑑、机サイズのホワイトボード、ブロック教材などが並んでいた。そして、どの教材を使うか、誰と相談するかは、子どもたち自身に委ねられていた。
その様子を、公開された3つの授業から紹介したい。
紙もデジタルも活用する国語授業
菅原慎也主幹教諭による6年生国語の授業は、教科書教材「『鳥獣戯画』を読む」を題材に、「事実」と「評価」の表現の違いに着目しながら、自分たちでも批評文を書いてみようというもの。
子どもたちはタブレットでデジタル教科書を表示し、気になった部分を画面上で切り出して「マイ黒板」に整理していく。一方で、タブレットの横で紙の教科書を開いている子も少なくない。むしろ文章をじっくり読む場面では、紙の教科書に積極的に目を向けているようにも見えた。
教室内には、教科書を拡大コピーした大判の紙が掲示され、そこに直接鉛筆で書き込みをしている子もいる。また、教室中央では椅子を持ち寄り、小グループで意見を交わす子どもたちの姿も見られた。
VRもブロックも学びのリソース
続いて、金澤大輝教諭による4年生算数の実践。「VRを活用した立体図形の学習」である。
黒板には紙で作られた立方体の展開図が掲示され、「これは立方体?」という問いが添えられていた。平面上に描かれた図と、実際の立体としてのイメージを結び付け、「腹に落とす」ことを目指した授業だ。
教室内には磁石で組み立てる正方形のブロックや紙製の箱などが並ぶ。さらに教室の外には段ボール製のVRゴーグルが用意され、教育学部技術選修の学生たちが子どもたちをサポートしていた。
私も子どもたちと一緒にゴーグルをのぞかせてもらった。すると、立方体の内部に入り込み、内側から壁面を見渡しているかのような映像が現れる。頭の動きに合わせて視界も変化し、立体への理解を助けてくれる。このプログラムを開発したのは教育学部3年の本澤篤さん。金澤教諭との検討を重ねながら教材として磨き上げたという。
ただし、VRは数ある学習リソースの一つに過ぎない。ひたすらブロックを組み立てる子もいれば、そのブロックを使ってVRと同じ発想の動画を撮影してみた子もおり、その動画はクラスで共有された。
AIをテーマに考える総合的な学習の時間
直井裕紀教諭による5年生の総合的な学習の時間のテーマは、ずばり「生成AI」だった。
子どもたちはそれまでの学習で、生成AIの特性やリスクについて調べたり議論したりしてきたという。その上で、この日の授業では、生成AIについてさらに考えを深めたいテーマを子どもたち自身が設定する。
直井教諭が「どんなことを考えてみたいかな」と呼びかけると、子どもたちからは「質問の仕方」「AIの危険性」「得意なこと、苦手なことは」「実用性は」など、多様なテーマが挙げられた。印象的だったのは、それらのテーマを教師が整理しすぎたり、人数を均等に調整したりすることなく、子どもたちの問題意識をそのまま尊重していたことだ。
子どもたちはテーマごとのグループに分かれ、タブレットで複数のAIを活用したり、関連書籍を調べたりしながら、小型のホワイトボードに考えを整理していた。
公開授業の背景にある課題意識
授業公開後には、教材や資料に触れながら授業者と参加者が交流するポスターセッションが行われた。続いて、附属小学校と長年共同研究を進めている放送大学の小林祐紀准教授による講演があった。小林准教授は茨城大学教育学部の教員も務めていたことがある。
講演を聞く中で、先ほどまで見学した授業が何を目指していたのか、その背景にある考え方への私の理解はさらに深まった。
小林准教授は、OECDによる国際的な学習到達度調査(PISA)のデータを紹介した。学力面では日本の子どもたちは高い水準にある一方、自ら学習目標や課題を設定し、進み具合を評価・修正する自己調整能力については課題があるという。同様の問題意識をもつ附属小学校でも、自律的に学ぶ子どもの育成につながる授業づくりを研究テーマに掲げている。
問われる「自律的な学習者」の育成
もう一つの重要な課題が教育格差の拡大だ。
家にある本の冊数が少なく学力が低い傾向にある子どもの割合が増加しており、「格差が確実に広がっている」と指摘する。
「授業が難しすぎると思う子どもが3割以上いて、反対に簡単すぎるという子どもも15%いるという推計があります。中位層・上位層を対象とした一斉授業を行っているとすれば、半数近い子どもたちはその枠組みの外にいるということ。いつまで一斉授業を続けるのかが問われているのです」
こうした課題を背景に、日本の教育で重視されているのが「個別最適な学び」と「協働的な学び」である。
小林准教授は、「授業が効率的になりそうだからという観点で教師が教材を選ぶなら、それは教師最適です。『個別最適』における『最適』を判断する主体は、子どもたち自身でなければなりません」と強調する。また協働的な学びについても、「意味のない協働ではなく、自分の考えが豊かになるような協働が必要です」と語った。
「紙かデジタルか」の二択ではない
小林准教授曰く、そのために大切なのが、「デジタルの力でリアルな学びを支える」という考え方だ。
デジタル教材のよいところはいくつもある。
たとえば家族へのスピーチを考える課題であれば、それが困難な子どもが1~2人であれば教師がつきっきりでサポートできるが、数が増えると、教師によるモデル動画を用意しておけば、子どもが自分のデバイスで動画を少しずつ再生してそれを真似るように原稿を用意できるかもしれない。視覚に障害のある子どもにとっては、画面の白黒を反転させられるデジタル教科書の方が、アクセシビリティを確保できる。AIを使って何かを調べるとき、漢字が苦手という子どもは「ひらがなでこたえて」と命令すればよい。
だから、重要なのは「紙かデジタルか」という二項対立ではない。「紙もデジタルも」なのだ。
「一人で考えてみる。だめなら友達に聞く。先生に相談する。AIからヒントをもらう。そうした学習リソースがたくさんある環境の中で、子どもたち自身が選択し経験を積むことが、自律的な学びの第一歩になるのです」
自分で「めあて」をつくり、学び方を振り返る
小林准教授は、自身が研究で関わっている他の小学校の授業の例に触れた。そこでは、教科の学習において、単元や本時の目標を教師が開示した上で、子どもたち自身が目当てを考えて周りの友達と共有し、さらにそれを誰とどうやって学ぶか―プリント?ドリル?タブレット?あるいは先生と?―を決めさせる。
教室ではそれぞれの学び方のグループができて、学習が困難な子どもたちはきちんと教師のもとに集まり、学習の定着が図られる。そして振り返りにおいても、誰とどうやって学んでそれがどうだったか、もっとよく学ぶためには次はどうしたらよいか、ということを書かせる。
「自律的な学習者を育てるためにはこれが重要」と小林准教授は説明する。
学び方を選ぶ経験が未来をつくる
今回見学した3つの授業を振り返ってみると、国語で紙とデジタルを行き来していた子どもたちも、VRやブロックを使い分けながら立体を理解しようとしていた子どもたちも、自分で決めた課題に対してAIや書籍を活用して考えを深めていた子どもたちも、共通して「自分で学び方を選び、仲間と協働しながら学ぶ」姿を見せていた。
デジタルやAI、ICTの活用というと、最先端の技術教育や未来社会を支える人材育成をイメージしがちだ。しかし学校教育の根底にあるのは、今も昔も「誰ひとり取り残さない」という理念。社会における経済格差や分断が広がる中、その使命はむしろ重要性を増している。
だからこそ、「デジタルの力でリアルな学びを支える」という原則には大きな意義がある。
「小学生のうちから多様な学び方を知っておくことは大切です。さまざまな経験を通して自分の学び方の特性を理解し、その特性に応じたスキルを高めていく。こうした自己調整能力が、学びに向かう力の中核になるのです」
今回公開された授業は完成形ではなく、教員たちが試行錯誤を重ねながら取り組んでいる実践である。重要なのは、こうした実践を起点に議論を深め、それぞれの教育現場で自律的な学習者を育むための工夫を積み重ねていくことだろう。
附属小学校では今後も、そのための研究と発信が続けられていく。
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