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超伝導体に潜む量子臨界現象をより本質的に読み解く新たな手法を開発
物質自身が示す情報を「物差し」として利用 幅広い量子材料研究への応用に期待

ポイント

  • 超伝導体内部の量子臨界現象をより忠実に読み解く新しい実験・解析アプローチを開発
  • 試料全体の平均組成ではなく、物質自身が示す局所的な超伝導転移温度(Tc)を新たな「物差し」として利用
  • 局所Tcを基準に磁場侵入長を解析することで、元素置換による不均一性に隠れていた量子臨界現象をより鮮明に抽出
  • 化学置換を利用する幅広い量子材料研究へ応用できる可能性を提示

 スタンフォード大学上級研究員(研究当時)の井口雄介氏、茨城大学大学院理工学研究科博士前期課程(研究当時)の井能楓氏、同博士後期課程の小泉遼介氏、茨城大学学術研究院基礎自然科学野の横山淳教授の研究グループは、超伝導体の内部に潜む量子臨界現象を、物質自身が示す情報を利用して読み解く新しい実験・解析アプローチを開発し、これまで元素置換の不均一性によって見えにくかった量子臨界的な振る舞いを、より忠実に捉えられることを示しました。

 量子臨界現象は、新しい超伝導や磁性が生まれる仕組みを理解する鍵として世界中で研究されています。しかし、その研究で広く用いられる元素置換では、置き換えた原子が物質内で完全には均一に分布しないため、本来なら量子臨界点近傍で急激に変化する超伝導特性が平均化され、その本質を捉えにくいという課題がありました。
研究グループは、試料内部をミクロンスケールで調べ、場所ごとの超伝導転移温度(Tc)と磁場侵入長(超伝導を担う電子集団の密度を反映する量)を測定しました。そして、試料全体の平均組成ではなく、局所Tcをその場所の電子状態を表す「自然な物差し」として利用することで、元素置換による不均一性の影響を大幅に低減し、磁場侵入長に現れる量子臨界現象を従来よりも忠実に捉えられることを示しました。
 本研究は、一つの物質に限らず、化学置換によって電子状態を制御するさまざまな量子材料に対して、隠れていた量子臨界現象をより本質的に読み解く新しい道筋を示す成果です。

 本研究成果は、米国物理学会が発行する物理学分野を代表する国際学術誌 Physical Review Letters に掲載されました。

詳しくはプレスリリースをご覧ください

超伝導の仕組みを理解する鍵 ― 量子臨界現象

 超伝導は、電気抵抗がゼロになる不思議な現象として100年以上研究されてきました。物質の中では、私たちの身近な世界とは異なる「量子」の法則が支配しており、物質中の電子は互いに影響し合いながら、私たちの直感では捉えにくい集団的な振る舞いを示します。超伝導も、こうした量子の世界で生まれる現象の一つです。

 その量子の世界を理解する鍵の一つとして注目されているのが量子臨界現象です。量子臨界現象とは、絶対零度付近の極低温領域において、電子の状態が大きく変化する境界で現れる特異な量子現象で、新しい超伝導や磁性の発現と深く関係していると考えられています。超伝導状態の内部にも量子臨界点が存在すると考えられている物質では、超伝導の磁場侵入長(超伝導を担う電子集団の密度を反映する量)は量子臨界現象に敏感に応答することが理論的に予測されています。そのため、この量を詳しく調べることは、超伝導発現の仕組みを理解する重要な手掛かりになると期待されています。

元素置換が量子臨界現象を見えにくくしていた

 今回研究対象とした重い電子系超伝導体 CeCo(In,Zn)5 は、そのような物質の代表例です。
この物質では、インジウム(In)の一部を亜鉛(Zn)に置き換えることで超伝導状態の内部に存在すると考えられている量子臨界点へ近づくことができるため、世界中で研究が進められています。しかし、この方法には避けられない問題がありました。
Zn原子は試料全体へ完全に均一には分布しません。そのため、一つの試料の中でも場所によって電子状態が少しずつ異なり、本来なら量子臨界点近傍で急激に変化する超伝導特性が、試料全体では平均化されてしまいます。その結果、磁場侵入長に現れる量子臨界的な応答の特徴もぼやけ、本来の振る舞いを読み解くことが難しくなっていました。つまり、量子臨界現象を調べるために必要な元素置換そのものが、本来見たい量子臨界現象を見えにくくしてしまう。これは、化学置換を利用する量子材料研究に共通する長年の課題でした。

本研究の概念図
図1 本研究の概念図。走査型SQUID顕微鏡を用いて、ミクロンスケールで試料表面の局所的な超伝導特性を測定した。元素置換によって試料内部には場所ごとの電子状態の違いが生じるが、それぞれの場所で得られた超伝導転移温度(Tc)を物質自身が示す「自然な物差し」として利用することで、元素置換による不均一性に隠れていた量子臨界的な振る舞いをより忠実に捉えることが可能になった。

発想の転換 ― 「物質自身が示す情報」を物差しにする

 研究グループは、この課題に対して従来とは異なる発想を取り入れました。

 本研究では、走査型SQUID顕微鏡を用いて、人の髪の毛の太さのおよそ10分の1という細かさで試料表面を測定しました(図1)。その結果、一つの結晶の中でも場所によって超伝導になる温度(超伝導転移温度:Tc)がわずかに異なることを捉えるとともに、それぞれの場所の磁場侵入長を測定しました。

 研究グループは、この局所Tcがその場所の電子状態を反映する物質自身が示す情報であることに着目しました。そして、従来のように試料全体の平均組成を基準にするのではなく、局所Tcを「量子臨界点にどれだけ近い状態にあるか」を示す自然な物差しとして利用し、それぞれの場所で測定した磁場侵入長を整理し直しました。

 その結果、元素置換による不均一性の影響を大幅に低減し、これまで平均化によって見えにくくなっていた量子臨界現象を、従来よりも本来の姿に近い形で捉えられることを示しました。

新しいアプローチで何が見えてきたのか

 研究グループは、このアプローチをCeCo(In,Zn)5に適用し、超伝導状態の内部に潜む量子臨界現象を詳しく調べました。

 局所Tcを基準に磁場侵入長を整理すると、元素置換による不均一性の影響が大幅に低減され、これまで平均化によって見えにくくなっていた量子臨界現象を、従来よりも本来の姿に近い形で明瞭に捉えられることを示しました。さらに、この解析から得られた量子臨界点は、中性子散乱という全く異なる実験手法によって独立に得られていた結果とも高い整合性を示しました。

 異なる原理による二つの実験が同じ結論を示したことは、局所Tcを物差しとして利用する考え方が、超伝導状態の内部に存在すると考えられている量子臨界現象を、より忠実に反映していることを裏付けています。

なぜこの成果が重要なのか

 本研究の意義は、新しい超伝導体や量子臨界点を発見したことではありません。

 これまで、化学置換を利用して量子臨界現象を調べる研究では、元素置換による不均一性は避けられない制約と考えられてきました。そのため、「観測されている量子臨界現象は本来の姿なのか、それとも不均一性によってぼやけた結果なのか」という疑問が常に残っていました。

 研究グループは今回、この不均一性を単なる測定上の制約として扱うのではなく、物質自身が示す局所的な超伝導転移温度を利用することで、その影響を大幅に低減できることを示しました。つまり、物質自身が持つ情報を新たな物差しとして利用することで、化学置換を利用しながらも量子臨界現象の本質へより近づくための新しい実験的アプローチを示したことになります。

 この考え方は、CeCo(In,Zn)5という一つの物質だけに限られるものではありません。化学置換によって電子状態を制御する多くの量子材料に共通する課題に対し、新しい実験・解析の考え方を提示する成果です。

今後の展望

 量子臨界現象は、超伝導だけでなく、磁性や電気伝導など、量子材料が示すさまざまな現象と深く関係していると考えられています。

 本研究で示した「局所Tcを物差しとして利用する」という考え方は、化学置換によって電子状態を制御するさまざまな量子材料へ応用できる可能性があります。今後、このアプローチを他の超伝導体や磁性体へ展開することで、これまで元素置換による不均一性に隠れていた量子臨界現象の本質が明らかになり、新しい量子材料や超伝導の理解につながることが期待されます。

論文情報

  • タイトル:Magnetic quantum criticality inside the superconducting state revealed by penetration depth scaling with local Tc
  • 著者:Yusuke Iguchi, Kaede Inoh, Ryosuke Koizumi, and Makoto Yokoyama
  • 雑誌:Physical Review Letters
  • 公開日:2026年8月26日(米国時間)
  • DOI:10.1103/69mf-6r8f

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