株式会社神戸工業試験場日立南試験所の2階。自動研磨機の研磨盤上に、ダイヤモンドの砥粒の入った液体がポタポタと落ちる。研磨盤が回転をはじめ、金属の試験片は鏡のように磨かれていく。試験片を手に取った入社4年目の大戸桜子さんは、表面に薬品を垂らす。すると、木目のような模様が表れた。
薬品の温度や配合を工夫して 答えを出す。実験の面白さが 詰まっています。
主に金属材料の試験を担当しています。お客様から預かった材料を調べて、これから製品として使って問題ないかを確認したり、長年使われてきたインフラ部品の状態を調べたり、壊れた部品の原因を調査したりしています。試験といっても、決まったやり方で進めれば終わるものばかりではありません。規格で定められている材料であれば、「この薬品、この方法」とある程度決まっています。でも、開発段階の試作品だと、「いろいろ試してやってみてください」と渡されることも多い。答えがない状態からスタートするんです。
例えば金属組織試験。試験片を磨いて薬品で表面を処理すると、組織が見えるようになります。この「金属組織」は、混ぜ物や加工の方法が少し変わるだけで表情がガラッと変わります。同じ材料、同じ名前の製品でも、同じ表情はほとんどない。どんな表情が出てくるか、毎日ドキドキわくわくしています。入社2年目のころ、なかなか金属組織が出ない試作品を預かりました。上司たちにも相談して、夜遅くまで「ああでもない、こうでもない」って試して。薬品の温度や配合を少し変えたら、パッて答えが出て。あの瞬間はすごくうれしかった。実験の面白さが詰まっているなと思います。
材料工学の分野を選んだのは、数学と物理が得意だったこともありますが、親の影響も大きいです。親が某ロボットアニメ好きで、「そのロボットを作るには、今の金属では力が足りないんだ」という話を聞いていました。強度を保ったままあの大きさにすると、重くなりすぎて、自立できず沈んでしまうと。設計図と理論があっても、材料がないと実現できない技術がある。材料一つで変わるってすごく面白いと思いました。
大学では、金属材料の強さや硬さについて研究していました。試験片を作って、磨いて、組織を見て…、という流れは、今の仕事とかなり近いです。最初は研究職や開発職も考えていたんですが、論文を読むのも書くのも苦手で。実験だけやっていたかったんです。しかも知的好奇心だけはすごくあって、一つの分野だけ見て終わるのは、ちょっとつまらないなと思っていました。そんな中、大学の就職セミナーで初めて試験会社という仕事を知りました。自動車やインフラ、航空など、本当にいろいろな業界から仕事が来るし、世の中に出ていない技術を見ることもできる。私にぴったりだ! と思いました。
お墨付きを出す仕事なので、責任は重いです。手を動かして初めてデータが出るということは、その「手」が少しでも狂えば結果が変わるということですよね。だから、私は自分の手を一切信用していません。少しでも気になればお客様に問い合わせたり先輩に相談したりするし、資料も隅から隅まで確認してから手を動かします。機械も点検してから使う。全部疑っています。技術者全員がそうであってほしいですし、技術者がみんなそう思って仕事をしているから世の中が成り立っていると思います。
Profile
株式会社神戸工業試験場茨城試験課/茨城大学工学部物質科学工学科卒 大戸 桜子 (おおと・さくらこ)
土浦市出身。2022 年3月茨城大学工学部物質科学工学科卒業。同4月株式会社神戸工業試験場入社。県内の中学校や大学で試験業界に関する授業も行う。「検索で分かることって自分の視野の少し外側ぐらい。視野を広げるきっかけになれば、という思いです」
今、イバダイでは
女子中高生の理系進路選択を応援
工学部では、女性技術者のキャリア形成の多様化を推進するため、さまざまな事業を実施しています。
その事業の一つとして女子中高生の理系選択応援プロジェクト「ミライエ・ラボ」を実施しています。「夏休み企業見学バスツアー」では、茨城県内の女子中高生を対象に、ロールモデルとなる女性技術者の職場を見学し、交流する機会を提供しています。理系を選択した場合の不安を解消したり、女性技術者として働く未来をよりリアルに想像してもらったりする狙いがあります。
本当にユニバーサルな製品やシステムの企画、設計、開発のためには、多様な視点を持つ技術者の育成が重要であるという視点から、2025 年度入学者選抜からは「機械システム工学科」「電気電子システム工学科」「情報工学科」の学校推薦型選抜で女子枠を導入しています。
この記事は茨城大学の広報紙『IBADAIVERS(イバダイバーズ)』に掲載した内容を再構成したものです。
構成:茨城大学広報・アウトリーチ支援室 | 撮影:小泉 慶嗣