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インド科学大学から茨城大学助教に就任 バギラート・サイニ助教に聞く
日印連携による気候変動対策と茨大のカーボンリサイクル技術のポテンシャル

 世界トップレベルの研究力を誇る、インド最高峰の研究大学・インド科学大学(Indian Institute of Science(IISc))のフェローで、今年2月から茨城大学カーボンリサイクルエネルギー研究センター(CRERC)で研究員を務めていたバギラート・サイニ博士(Dr. Bhagirath Saini)が、8月1日付で茨城大学応用理工学野の助教に就任しました。
 CRERCを拠点としたCO₂回収や燃料合成の技術開発に対し、脱炭素化を加速度的に進めているインドからも熱い視線が注がれています。研究室にもインド出身の学生や研究員が増えてきました。インド出身者として初めて本学教員となったサイニ助教の存在は、総合気候変動科学の世界的な拠点の構築という本学のビジョンを象徴するものともいえます。
 インドにおける気候変動対策の状況や日本との連携に期待することなどについて、サイニ助教に話を聞きました。

茨城大学工学部の建物の前に立つサイニ助教

―インドにおいて気候変動対策や脱炭素化はどのような課題として捉えられていますか?

サイニ助教「インドでは、気候変動は未来の問題ではなく、既に直面している現実の問題と捉えられています。水資源や大気環境、気温に問題が生じており、熱波や洪水の発生も増えています。
 一方、インドは発展途上国として急速な経済成長を続けており、そのためには大量のエネルギーを必要としています。天然資源の利用も当然避けられません。
 こうした状況の中で、急速な経済成長と脱炭素、そしてネットゼロエミッション(温室効果ガスが排出される量と吸収・固定される量の差し引きがゼロになること)の実現とのバランスを取ることが最大の課題といえます。
 さらに、CO₂回収やCO₂利用などの技術開発と、それを支える投資や研究開発も重要です。脱炭素化を進めるためには、こうした先進技術の発展が不可欠だと考えています」

―インドでは脱炭素社会の実現に向けてどのような目標や戦略を掲げているのでしょうか?
サイニ助教「インド政府は2070年までのネットゼロ達成を国家目標として掲げています。また、2030年までにエネルギーの50%を再生可能エネルギー由来とする目標も掲げています。
 実は再生可能エネルギー設備容量は既に54%程度まで達しています。実際の発電量ではなくあくまで設備容量ベースですが、これが2030年には約60%にも達する可能性があります。
 国際的に見ても、太陽光発電で世界トップクラス、水力発電やバイオマス由来燃料の生産でも上位、さらに原子力発電分野でも主要国のひとつとなっており、総合的に見れば再生可能エネルギー分野では世界有数の国となっているのです。
 また地域レベルでも、農業への技術導入や産業界での脱炭素技術の活用が進められており、製造プロセスのカーボンフットプリント削減に取り組んでいます」

―電源設備容量で再エネ由来が既に半分を超えているというのは驚きました。再エネ導入が急速に進んでいる背景は?
サイニ助教「インドは非常に多くのエネルギーを消費しており、その一部をUEA(アラブ首長国連邦)など海外から輸入しています。
 そのためエネルギー安全保障の観点からも、再生可能エネルギーの拡大は重要です。海外への依存を減らし、自国でエネルギーを生み出せる体制づくりが強く求められているのです。
 こうした背景もあり、私が在籍していたIIScをはじめ多くの大学や研究機関が脱炭素技術の研究に取り組んでいます」

インタビューに応えるサイニ助教

―そうした特徴も踏まえ、気候変動対策におけるインドと日本との連携の強化にどのような期待をもっていますか。

サイニ助教「日本とインドは長年にわたる友好関係を築いており、重要なパートナーです。日本は高度な製造技術や先進的な研究力、そしてCO₂利用や脱炭素化技術の面で大きな強みを持っています。一方、インドには優れた研究者や技術者、豊富な人材と生産力があります。日本の技術力とインドの人材力が組み合わされば、世界規模の課題解決に貢献できるはずです」

―大きな土地が広がるインドでは、日本の研究者が様々なフィールド実験に取り組むこともできそうです。
サイニ助教「はい、大きな可能性があると思います。実際に多くの日系企業がインドで事業を展開しており、研究開発拠点も設置しています。自動車産業だけでなく社会課題の解決につながる研究開発にも取り組んでいます」

―CRERCを拠点に活動して約半年。本学のカーボンリサイクル研究のレベルや課題をどのように捉えていますか?
サイニ助教「CRERCでは非常に重要な研究が行われています。ご承知のとおり、大気中のCO₂の「回収」、回収したCO₂を利用したメタノールなど化学製品の製造(「合成」)、その合成燃料の安全な「利用」です。
 当面求められることは、新しい触媒やCO2吸着材量の研究開発です。そして企業との共同研究を通じて、実験室レベルの成果を産業レベルへと展開していくことが重要です。研究成果が社会実装されれば、実際の環境問題の解決につながる大きなインパクトを持つと思います」

―サイニ先生ご自身の研究分野についても伺います。CO₂から化学製品をつくる技術の研究ということですが、具体的にはどのようなものですか?
サイニ助教「私の研究テーマは、フィッシャー・トロプシュ(Fischer-Tropsch)合成法およびその改良プロセスを用いたCO₂の資源化です。ここでも重要なのは、化石資源由来の炭素を利用するのではなく、大気から回収したCO₂を再利用する点です。現在は主に、メタノールやディーゼル燃料、ジェット燃料、灯油などの合成燃料の製造を研究しています」

CRERCの田中センター長(左から2番目)らがIIScを訪れたときの様子。一番後ろがサイニ助教
CRERCの田中センター長(左から2番目)らがIIScを訪れたときの様子。一番後ろがサイニ助教

―茨城大学での研究・教育の経験は、今後のキャリアやインドの脱炭素化にどのように活かされると思いますか?
サイニ助教「既に非常に大きな影響を受けています。企業見学では、触媒がどのように機能するのか、フィッシャー・トロプシュ反応でCO₂と水素からどのように化学製品が製造されるかを実際に学ぶことができました。こうした経験を将来インドでも活かし、同様の技術を導入することで脱炭素化に貢献したいと考えています」

―サイニ先生と触れ合う中で、国際的なフィールドで気候変動問題の解決に貢献したいという思いを強める学生も増えると期待されます。そうした学生たちへアドバイスをお願いします。
サイニ助教「日本の学生は工学的な知識や技術に優れています。一方で、気候変動問題に取り組むためには化学的な視点も重要です。工学と化学を融合させることで、より良い研究成果を生み出せるはずです。
 また、国際的な舞台で活躍したい学生にとっては、英語によるコミュニケーション能力はとても重要です。日本の学生はとても努力していますが、世界中の研究者と交流する上では、大学入学後でもよいので積極的に英語を学び、たくさん話す機会をもってほしいと思います」

―最後に、茨城での生活、たとえば同僚との関係や食事などはいかがですか?
サイニ助教「とても快適です。インフラが整っていて空気もきれいですし、自然も豊かです。研究室の先生方や同僚はとてもオープンで、自由に研究できる環境を与えてくれています。学生たちも積極的にコミュニケーションを取ろうとしてくれます。
 食事については、私はベジタリアンなので来日前は食事を心配していましたが、日本には野菜や果物の種類が豊富にあるので、今は問題なく生活できています。日立市にはインド料理店もあり、何度か利用しました。日本食ではおにぎりがお気に入りです。同僚のインド人も、『日本の食事は衛生的で質が高い」と言っていますよ」

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