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シン・農医連携―「未病」を早期に検出し、「食」で予防・治療につなげる最新研究
農学部で報告会

 「農」=農業・食と「医」=医療・健康をつなぐ取り組みは、「農医連携」と呼ばれます。茨城大学農学部(阿見キャンパス)は、近接する茨城県立医療大学や東京医科大学茨城医療センターと、「農医連携」を掲げた研究協力を続けてきました。
 予防医学や「未病」への関心が高まる中、「農医連携」のあり方にも深化が求められています。そこで茨城大学農学部では3月19日、「シン・農医連携研究の展開—農と食でこころとからだをより健康に!」と題してシンポジウムを開催。学生や研究者など約100人が駆け付け、会場のフードイノベーション棟の講義室は熱気に包まれました。

講演の様子

 茨城大学農学部、茨城県立医療大学、東京医科大学茨城医療センターによる「農医連携」の取組みは、2013~2015年 の文部科学省特別経費プロジェクトの採択を受けてスタートしました。
 それから10年以上の間に、茨城大学農学部では食品メーカー等の企業や自治体との協働の取組みも加速化。さらに「環境」の視点も加わって、持続的な健康社会に向けた高度な先端研究へと進展しつつあります。
シンポジウムの冒頭、豊田淳教授(2026年4月より農学部長・農学研究科長)は、「2040年における農学と食と環境に関する教育と研究を深く考える機会にしたい」と、意気込みを語りました。

 「シン・農医連携」はどこへ向かうのか―基調講演を務めた東京科学大学国際医工共創研究院の安達貴弘氏のお話には、そのヒントがたくさん詰まっていました。

基調講演を務めた東京科学大の安達氏
基調講演を務めた東京科学大の安達氏

 安達氏が企業とも連携しながら研究に取り組んでいるのが、「未病制御学」という独自の分野です。「未病」とは炎症が起こる手前の状態。ウイルス感染などによって細胞が損傷すると、炎症性のサイトカインを出し、それが発熱などの症状を起こします(免疫反応)。これは体を守る上で重要ですが、慢性化すると生活習慣病の原因となり、たとえば妊娠中の人が炎症になると早産や流産のリスクが高まります。したがってその手前の「未病」の状態、あるいはさらに前段階の「前未病」「超早期未病」の状態を検出し、予防や治療によって制御できれば、健康寿命を延ばすことにもつながるのです。

 検査では異常があっても自覚症状がない、あるいは自覚症状はあっても検査では異常がない。そのような超早期未病を検出するセンサーとして、安達氏のチームが開発したのが「カルシウムバイオセンサー」です。「サイトカインが出ると細胞組織内のマクロファージ(白血球の一種)が活性化します。細胞内のカルシウムの濃度が変化をシグナルとして注目したところ、その状態を従来よりも早く検出できることが分かったのです」と安達准教授は説明しました。現在、指に取り付ける小型のセンサー機器も開発中だそうです。

免疫細胞内のカルシウム濃度の変化が微細な異常検出のシグナルになる
免疫細胞内のカルシウム濃度の変化が微細な異常検出のシグナルになる

 未病制御においては、未病を早い段階で検出することともに、どのような食事が免疫を高め、症状を予防するかという研究も重要です。安達氏のチームでは、腸内に多く存在するIgA(免疫グロブリンA)という抗体に着目して、特定のアレルギーに対する食の効果などを調べています。

 安達氏は、「乳酸菌は腸内環境によいとされていますが、実際には一括りにはできず、個々の健康状態やライフステージによって異なります。したがって正確な評価が必要です」と語り、個人ごとに異なる食と健康の最適な組み合わせを見出すことが、将来の健康増進に貢献するというビジョンを示しました。これはまさに、「シン・農医連携」の方向性を示すものといえるでしょう。

 安達氏の基調講演に続く5人の報告にも、未病状態の検出や、予防・治療に有効な食品成分の探索のアイデアがたくさんありました。

 産業技術総合研究所の大石勝隆氏は、唾液から睡眠不良を検出する手法について紹介しました。睡眠障害のモデルマウスを使ったこの研究は、茨城大学農学部も共同で取り組んでいるものです。大石氏によれば、グリシンの減少に注目することで、「唾液は睡眠障害のマーカーになり得る」ということでした。

唾液から睡眠障害を検出する手法を紹介した大石氏
唾液から睡眠障害を検出する手法を紹介した大石氏

 また、群馬大学大学院食健康科学研究科の薩秀夫氏は、ヒトのiPS細胞由来の腸管上皮細胞株を利用して、生活習慣病の原因となる糖の吸収を減らすような食物の検出を進めていることを報告しました。

 さらに茨城県産業技術イノベーションセンターの飛田啓輔氏は、納豆菌の免疫調節機能の研究について報告しました。納豆が名産である茨城の特性を踏まえて、同センターでは納豆菌のストックを多く保持。ウイルス感染時と類似したモデル細胞をつくった上で、それらの納豆菌の機能を評価したそうです。その研究の蓄積から見出した「IBARAKI XF36」という納豆菌では、肺に関わる遺伝子の増強や、盲腸内の細菌叢にも影響することがわかったとのこと。飛田氏は「企業と連携してサプリメントや次世代飼料添加物の開発につなげたい」と語り、会場内の学生や企業関係者に協力を呼びかけました。

 また、本シンポジウムでは、微生物由来の材料物質に関する研究報告もありました。

 群馬大学大学院食健康科学研究科の粕谷健一氏は、「海洋生分解性プラスチックの開発:海の微生物を味方に―プラスチックを生分解させるための新戦略」と題して報告。一般的な化学合成のプラスチックが海洋生物や環境に与える影響が問題になっている中、注目されるのが、微生物によって分解される海洋生分解性プラスチックです。粕谷氏の研究チームの実験では、海洋生分解性プラスチックは複数の細菌同士が協働しなければ分解できないということが明らかになり、現在、適切な微生物の共生系の探索を進めているということでした。

群馬大学大学院食健康科学研究科の研究科長も務めている粕谷氏
群馬大学大学院食健康科学研究科の研究科長も務めている粕谷氏

 そして、茨城大学応用生物学野の菊田真吾准教授は、ネムリユスリカという生物の細胞の材料開発の可能性について報告しました。ネムリユスリカは何年間も仮死状態を保つことができ、その間は極端な高温や低温の環境でも細胞が破壊されず、放射線耐性も高いそうです。そのネムリユスリカ由来の細胞を培養し、その細胞の内外にトレハロースを満たして乾燥させ、約1年後に水をかけて戻したところ、3割程度の細胞が生き残っていたということです。菊田准教授は「生きている細胞においては、酵素が100%保護できた」と語り、「将来的には、冷凍庫が使えないような場所へのワクチン輸送の材料などとして利用できれば」という展望を示しました。

菊田准教授は、東日本大震災が細胞保存の研究の契機になったと語る
菊田准教授は、東日本大震災が細胞保存の研究の契機になったと語る

 6人の報告後は、会場を移し、懇親会を兼ねたポスター発表も行われました。ここでは農学部や農学研究科の学生たちが、日ごろの研究成果を発表しました。農医連携の最先端の研究に触れたばかりの学生たちは、モチベーションも高まった様子で、来場者と活発に交流をしていました。

学生たちによるポスター発表交流も盛況
学生たちによるポスター発表交流も盛況

 茨城大学農学部では、今後もさまざまな企業、研究機関、自治体などと協力しながら、農医連携の先端研究に果敢に挑み、学部・大学院のあり方も展望していきます。

研究者の情報

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