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高価な赤外センサを身近な元素で低価格に
-資源が豊富なマグネシウムシリサイドを用いた赤外イメージセンサの開発に成功-

  茨城大学学術研究院応用理工学野の 鵜殿治彦 教授と 木村孝之 准教授らの研究グループは、資源が豊富な元素からなるマグネシウムシリサイド(Mg2Si)を用いて、波長2.1µmまでの近赤外領域に感度をもつ赤外イメージセンサを開発することに成功しました。
 本研究成果は、高価になりがちな短波長赤外域(波長0.9~2.5µm)の受光センサを、身近な材料と汎用の製造プロセスで作製できることを実証したものです。これにより、高感度かつ低価格なイメージセンサの普及促進が期待され、自動運転や非破壊検査など幅広い分野での応用につながる画期的な成果として注目されます。
 これまで鵜殿教授の研究グループでは、直径50mmサイズの高品質Mg2Si単結晶基板の開発や、熱拡散プロセスによるpn接合フォトダイオードの形成に成功していました。今回、同グループではフォトリソグラフィーによる微細加工プロセスを用いてMg2Si基板上に32画素のフォトダイオードリニアアレイを作製し、木村准教授の研究グループが設計したシリコン読み出し回路を使った信号処理技術によって赤外イメージを取得することに初めて成功しました。
 一連の研究成果は、国際会議「Photonics West 2026」(1月17日−22日、サンフランシスコ)および国内学会「第73回応用物理学会春季学術講演会」(3月15日−18日、東京科学大学)にて発表されました。

研究開発の背景

 波長0.9 ~ 2.5 µmの短波長赤(SWIR)は、夜間の低照度下や煙霧での周囲観察、生体認証や非侵襲生体センシング、水分の可視化などによる農作物や工業製品の非破壊検査、自動運転に関わるLiDARセンシングなど、幅広い分野での活用が期待されています。特に人の眼への負荷が比較的低いアイ・セーフ波長帯(1.4 µm〜)を含むため、近い将来の普及が見込まれるフィジカルAIにおける3D形状計測などでの需要も見込まれます。
 しかし、この普及に際しては、短波長赤外イメージセンサの「価格」が大きなボトルネックとなっていました。その主な要因は以下の通りです。

  • InPやCdZnTeなどの高価で希少な化合物半導体基板を使用する必要があること
  • 高度なヘテロエピタキシャル技術を使って赤外センサの受光層を成膜する必要があること
  • シリコン読み出し回路と受光部とを精密に接合する技術的難易度が高いこと

 これに対し、マグネシウムシリサイド(Mg2Si)は、波長2.1 µmまでの赤外域で受光感度を示す(禁制帯幅が約0.6eV)の半導体であり、短波長赤外用途の受光センサに適した材料として期待されています。特に以下の点から、低価格な赤外イメージセンサを実現できる材料として注目されていました。

  • 常圧下での融液成長法という工業生産に適した方法で直径50mm(2インチ)以上の結晶成長が可能なこと
  • 資源が豊富で低価格なシリコンとマグネシウムを原料とすること
  • 高度なヘテロエピタキシー技術を必要とせずに、汎用の拡散プロセスで受光センサに必要なpn接合構造を製造できること

 これまでに、Mg2Si基板上に簡易な熱拡散と微細加工プロセスを使ってpn接合型の高感度な赤外フォトダイオードが形成できることは報告されていましたが、複数画素を並べたフォトダイオードアレイ構造を使って「赤外イメージセンサとして活用できるか」についての実証はできておりませんでした。

今回の取り組み

 茨城大学の研究グループは、汎用のフォトリソグラフィー技術を用いた微細加工プロセスと熱拡散によって、Mg2Si基板上に画素サイズ50 µm角、画素ピッチ80 µmの32画素フォトダイオードリニアアレイ構造を試作しました(図1)。このセンサは、波長1.2 µmに感度ピークをもち、波長2.1 µmまでの明瞭な受光感度を示しました。
 続いて試作したアレイの各画素の出力を、独自に設計したトランスインピーダンスアンプ型のシリコンI/V変換回路を用いて読み出し、赤外イメージの取得を試みました。画像の取得は、フィルムにレーザープリンタで描いたパターンを透過させた波長1.31 µmの赤外光をセンサに入射させ、センサ部を機械的に並行移動することで32×32画素の画像を取得する手法で行いました。
 図2(a)と(b)に、それぞれCZPチャートの一部と「茨」の文字を透過させて取得した画像を示します。それぞれで鮮明な画像が得られており、特に「茨」の文字ではフィルム上の文字の濃淡まで明瞭に検出できています。このように、Mg2Siのフォトダイオードリニアアレイセンサを用いて、短波長赤外域の赤外イメージ取得が可能なことを世界で初めて実証しました。

図1 (a) Mg2Si基板上に作製した32画素フォトダイオードリニアアレイと、(b)画素部拡大写真
図1 (a) Mg2Si基板上に作製した32画素フォトダイオードリニアアレイと、(b)画素部拡大写真
図2 Mg2Si 基板に作製した32画素フォトダイオードリニアアレイセンサで取得した(a)CZPチャート部と、(b)「茨」の文字の赤外画像
図2 Mg2Si 基板に作製した32画素フォトダイオードリニアアレイセンサで取得した(a)CZPチャート部と、(b)「茨」の文字の赤外画像

今後の展開

 現在、同研究チームは、本技術を発展させた2次元フォトダイオードアレイセンサの開発および、多画素・微細化の研究を進めています。本研究の進展により、身近で資源が豊富な元素からなるMg2Siを用いた低価格な赤外受光イメージセンサの実現、さらには自動運転や検査分野における赤外センシングの普及に大きく貢献することが期待されます。

研究支援

 本研究は、JST 研究成果最適展開支援プログラムA-STEP(JPMJTR22R3, JPMJTR24R3)、文部科学省「マテリアル先端リサーチインフラ」事業(JPMXP1224NM0004,JPMXP1225NM0045)、科学研究費補助(23H01440)の支援を受けて行いました。

成果発表の情報

  • 発表題目: The first demonstration of SWIR imaging utilizing Mg2Si PD linear arrays
  • 著者名: H. Takei, Y. Tachimura, K. Shimano, H. Yamaguchi, S. Sakane, T. Kimura, H. Udono
  • 発表番号:13892-44
  • 国際会議名:Photonics West 2026(Jan. 17−22, San Francisco)
  • 国際会議論文:Proc. SPIE 13892, Optical Components and Materials XXIII, 138920R (5 March 2026); https://doi.org/10.1117/12.3077969

  • 発表題目: Mg2Si PD リニアアレイの作製とSWIRイメージング実証
  • 著者名: 飯野有紀、武井日出人、立村優弥、山口広輝、坂根駿也、木村孝之、鵜殿治彦
  • 発表番号:16p-W9_323-9
  • 会議名:第73回応用物理学会春季学術講演会(3月15日−18日, 東京科学大学)

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