2026年3月24日(火)、茨城大学令和7年度卒業式・学位記伝達式が、水戸市民会館グロービスホール(大ホール)にて開催されました。
学部、大学院、専攻科を合わせて、2,042人に学位記や修了証を授与しました。
令和7年度卒業式 学長告辞
本日、卒業式・修了式を迎えた2,042名の皆さん、誠におめでとうございます。
皆さんのこれまでの学業と研究に向かう努力に、心から敬意を表します。また、皆さんを支えてこられたご家族や友人の方々にも、心からの感謝とお祝いを申し上げます。
卒業・修了は学位授与の式典でもあります。本日は、学位授与方針、すなわちディプロマポリシーについて、改めて、皆さんと共に振り返ってみたいと思います。なぜなら、本学のディプロマポリシーには、本学の独自性を示す要素・能力が含まれているからです。
それは、第一番目に掲げられている「世界の俯瞰的理解」であり、自然環境、国際社会、人間と多様な文化に対する幅広い知識を基盤として、世界を俯瞰的に理解する力です。他大学のディプロマポリシーをみてみると、この「世界の俯瞰的理解」を明確に掲げている大学はほとんどありません。したがって、本学には、その能力をディプロマポリシーへ掲げるに至った歴史的な背景があるのだと思います。本日は、そのことについて、私なりの解釈を皆さんと共有してみたいと思います。
まず、皆さんは、本学の「五浦美術文化研究所」を訪ねたことがあるでしょうか?
この研究所の歴史を辿ってみると、その成り立ちは、近代日本画を代表する画家であり、日本美術院を率いた横山大観の申し出から始まったことが分かります。横山大観は、岡倉天心を顕彰する「天心偉績顕彰会」の理事長として、天心ゆかりの旧天心邸・六角堂・長屋門の寄贈を本学に申し出たのです。本学はこの申し出を受けて、1955年に「五浦美術文化研究所」を設立しました。
研究所の所在は、その名前の通り、茨城県北部、五浦海岸です。岡倉天心は、その海岸の、ごつごつとした岩が海面から顔を出している景色をこよなく愛したそうです。そのような景色の波打ち際に静かに佇む“六角堂”があります。
背に六角堂を感じながら太平洋を望むと、波の音に耳を澄ませ、窓越しに揺らぐ水平線や波の形の変化を楽しんで眺めている天心の気配が、時空を超えて伝わってくるように感じられます。六角堂の大きな窓には天心がアメリカで調達した吹き板ガラスが使われており、そのわずかな厚みの違いによって、水平線の見え方が微妙に揺らいで見えるのです。
六角堂の中では、水平線は常に真っ直ぐな線ではないのです。その体験からすれば、対象と自分の目の間に何があるかによって、見え方が変わるという哲学的な思索も生まれるでしょう。
岡倉天心は、インド、中国を旅した後、五浦に居を構えながら、ボストン美術館と五浦を行き来する生活を10年にわたって続けました。私は五浦を訪ねた時、六角堂は、天心がたどり着いた「世界の俯瞰的理解」の象徴だと感じました。天心が突き詰めてたどり着いた「東洋の美と文化」に対する俯瞰的理解を、世界に発信しようとしたのではないかと思いました。
そして、六角堂の前に広がる太平洋の向こう側にアメリカがあり、天心が勤務したボストン美術館で表現されている西洋の美と文化があるのと同じように、東洋のものを表現することが、この断崖の上に設計した意図ではないかと、私は想像しています。
人間は、学ぶことを求めながら、その結果として、学びで得たものを表現したいと切望する生き物です。その学びによって得たものが「世界の俯瞰的理解」であり、大学では、その形が、学位論文や著作、あるいは芸術作品になると思います。
六角堂をめぐっては、もう一つの物語があります。2011年3月11日の東日本大震災の津波によって流失したことです。現在の六角堂は、翌2012年に、世界中から寄せられた多くの支援によって、創建当時の姿に再建されたものです。当時、その再建は、辛い思いを抱きながらも、復興へ歩み出そうという人々の勇気のシンボルでした。あれから十数年経ち、建物のベンガラ色は時の流れとともに、色褪せましたが、今年の3月11日には、再塗装が完了し、ベンガラ色が鮮やかによみがえりました。天心の声が再び聞こえてきそうな場所として、そして、辛い思いを噛みしめながらも、歩み続ける誓いの場にもなったのです。
五浦の地から内陸に向かえば、交通量の多い国道6号線があり、常磐線の電車が走っています。そうした幹線を行き来することが、日常の状態とすれば、そこから少し逸れて、五浦の天心偉績を訪ねることは、普段とは違う世界に触れることです。そこで、何かを感じて、気づきを得たならば、そのような「寄り道」は、とても大事なものです。
おそらく、自分が変わろう、何か新しいことを始めよう、と思う切っ掛けは、幹線をまっしぐらに走るような日常ではなく、普段の道から少し逸れて、想像しなかったような景色の中で、だれかと出会ったり、思いがけない人と語り合ったりするような瞬間に生まれるのではないでしょうか。
その意味で、大学は、知識やスキル、技術を得る日常的な場だけではなく、今述べた“寄り道”が出来る場でもあります。そのような場とは、サークル活動、課外活動だけでなく、学外研修や、専門を越えて議論したことなど、皆さんたちが独自に活動し、様々に交流してきた経験そのものでもあります。
皆さんにとって、もちろん、私たち大学にとっても、「世界の俯瞰的理解」に終わりはありません。これからも究める道は続くでしょう。世界情勢が揺れ動いている時代だからこそ、私たちは学びを追究する心を持つこと、そして持ち続けることが、これまで以上に重要です。
これからの人生の中で、時には寄り道をしながら新しい景色に出会い、多くの様々な人と語り合う経験を重ねていってください。そして、もし歩みを振り返りたくなったときには、学生時代の様々な体験を思い出していただければ嬉しく思います。
以上で、茨城大学、令和7年度卒業式の告辞といたします。
本日は誠におめでとうございます。
令和8年3月24日
茨城大学長 太田寛行
日時:令和8年3月24日(火)10:00~
会場:水戸市民会館グロービスホール
対象:全学部・全研究科・専攻科