2026年3月3日、茨城大学水戸キャンパスにおいて「第17回イバダイSDGsフォーラム」が開催されました。
茨城大学の大学生・大学院生に加え、高校生や附属中学校の生徒たちも参加し、持続可能な社会の実現に向けた研究や活動の成果を発表しました。
世界では国際秩序を脅かすような武力攻撃や衝突が起きている中、国際社会が「全会一致」で採択したSDGsの存在意義と、その先へ向けた自分たちの「一歩」の大切さを確認する機会となりました。
初めて中学生も参加
「イバダイSDGsフォーラム」は、「学生サステイナビリティフォーラム」として始まって以降、名称を変えながら毎年開催し、今回が17回目となります。当初は大学生・大学院生による研究発表・交流の場でしたが、昨年度からは地域の高校生が、さらに今年度からは茨城大学教育学部附属中学校の生徒たちも発表に参加しました。
初参加となる附属中学校の生徒たちは、同校の「グローバル市民科」での探究活動の成果を報告。このうち1年生の中澤理久さんは、異なる障がいのある人たちを含むすべての人が同じ情報を共有し、対等に話せる環境づくりを目指して、AIを駆使して臨機応変な会話補助機能を搭載したプログラムを試作したことを発表しました。また、2年生の吉中彩優奏さんは、最終的に水とCO2に分解される「生分解性プラスチック」の普及に向けて、「生分解性プラスチック・システムデザイナー」という新たな専門家の確立を提言しました。
附属中学校の生徒たちの発表を受けて、太田寛行学長は、「中学生がここまで考え、行動している。私たちはもっとがんばらなければなりませんね」と会場の参加者へ呼びかけました。
多彩な研究・活動の発表
今回のフォーラムには、茨城大学の全学部・学環から学部生18組、大学院生12組、高校生9組、附属中学校生4組が発表に臨みました。まずは大きな会場で1人1分間のプレゼンテーション、その後は会場を移してポスター発表・交流を行いました。
ポスター発表ではすべての参加者による投票が行われ、その得票数やフォーラムを企画した地球・地域環境共創機構(GLEC)による評価をもとに、賞が決定されました。
今回最優秀賞を受賞したのは、中国からの留学生である大学院人文社会科学研究科のLU JUNJIEさんです。LUさんは、中国・雲南省の人びとが太陽光発電導入をどのように受け止めているかについて調査を行い、同国における再生可能エネルギー普及の展望を示しました。
また、大学生の部で優秀賞を受賞したのは、人文社会科学部の勝又鈴奈さん、長谷川果音さんです。勝又さんたちは、干し芋を生産する際に発生する残渣を活用した商品開発や食品ロス問題の啓発に取り組んでおり、子ども向けのオリジナル絵本を制作した活動を紹介しました。
高校生の部の優秀賞は、茨城県立鉾田第一高等学校の山口はるかさん。山口さんは、校内のカウンセラー利用をためらう生徒への支援体制の整備を目的とし、心理的な安全性を高めるためのアプローチを研究しました。
そして、投票が多く集まった発表にSDGs賞も贈られました。
SDGs賞・大学生の部は、地域未来共創学環の前神夏音さん、村松真衣さん、高塚悠史さんが受賞しました。前神さんたちは、「茨城大学SDGsサークルLinking」を自分たちで立ち上げ、地域の人たちと連携しながらフェアトレードコーヒーの開発・販売などに取り組んでいます。
同賞の高校生の部を受賞したのは、牛久高等学校の板橋瑛太さんです。板橋さんたちは「地球を救う昆虫食」というテーマで発表。実際に昆虫食を取り寄せて食べた場面の写真が、参加者の関心を引き付けていました。
さらに、地球・地域環境共創機構長賞も発表され、大学院理工学研究科の岡本龍馬さんが、戸嶋浩明機構長から表彰状を受け取りました。岡本さんは、気候変動に伴って東京湾の奥部の海陸風が長期的にどう変動しており、それが飛行機の運用などにどう影響しているかを研究しました。
2030年はすぐそこ―「ビヨンドSDGs」は?
フォーラムの後半には、人文社会科学野の野田真里教授、蓮井誠一郎教授、そして太田学長、菊池あしな理事(ダイバーシティ・国際・SDGs)によるパネル討論も行いました。テーマは「ビヨンドSDGs」。会場で参加者から寄せられた疑問を受けながら、2030年の達成を目標とするSDGsを乗り越えるビジョンを探りました。
国際開発学・SDGsが専門の野田教授は、「SDGsの進捗はコロナ禍や紛争等によりグローバル、地域の両面で全体として遅れている」と述べつつ、ポストSDGsとして既にネット・ゼロなど2030年の先を見据えた取り組みが始まっていると指摘しました。一方で、「SDGsスタート時の想定を超えたAI等の新たな課題にむけたパラダイム変換が必要。地球規模課題への国民国家の取り組みという構造的な限界を超えて地域と地域がつながり、一人一人が変革に取り組むことが大切」と話し、「ビヨンドSDGs」のビジョンが必要という認識を示しました。
また、国際政治学・平和学が専門の蓮井教授は、SDGsが国連加盟国の「全会一致」で採択された意義を強調。加えて、SDGsに書かれたターゲットよりも、採択文書に書かれた「Transforming our world(私たちの世界を変える)」という方向性こそが重要だと言います。また、最近のウクライナ戦争やアメリカ・イスラエル両軍によるイランへの空爆などに触れ、「国連の『全会一致』なんてもう当分はないかもしれないと懸念されるが、それでもやっていかないといけない。そういう現実に直面している」と述べました。
次世代に対する責務を果たそう
ディスカッションは会場からの質問をもとに展開。茨城県立緑岡高等学校から参加したという高校生は、自身が参加しているという大手アパレル企業と連携したリサイクル衣料の途上国への寄附活動について、「現地の産業を奪っているという指摘も耳にした。自分たちの寄附活動が本当に役立っているのか」と不安を口にしました。それに対し野田教授は、「自国中心主義が広まる中で日本の国際協力への期待は大きい。他方そうした衣料は途上国でつくられており、複雑なグローバル化を考える必要がある」などと指摘しました。
それに対し、太田学長は、「まずは現場を見て確かめてみるといいよ。AIなどで情報は集められるようになったけれど、一番大事なのは自分で見て考えること」と語りかけ、菊池理事も「地域の人々がともに育っていく形につながっているか、最終的によくなっていくかを、現地で見ていくことは本当に大事」と重ねました。
また、理学部の学生からは、アメリカや中国、ロシアといった大国の動きに対する無力感を吐露しつつ、そうした世界のマクロな動向と、他方で個人ができるミクロな行動との間を、「どうつなげばいいか」という質問が出ました。
蓮井教授は、「選挙はもちろん、どの企業の商品を買うかも市民の一票。ただし一票では確かに世界は動かないから大きな集団や仲間をつくることが大事で、SDGsはその共通言語として考えられた。ロゴマークをつくったのも大きなことで、個人のできることをエンカレッジしている。社会的動物としての人間がどうやってつながっていけるか、そのための社会科学だと思っています」と応答。野田教授も「Think globally, Act locally」という言葉を紹介し、「イノベーションにより世界は一足飛びに変化・発展する。大切なのはイノベーションさえも、足元からの私たちの一歩一歩の積み重ねで起きるということ。ジェンダー、貧困、気候変動といった地球規模の課題はすべて人間がつくったものであり、人間が解決しなければならない。会場の皆さんを含む私たちは次世代に対してそれを解決する責務があるし、それは可能だと思う」と話すと、会場から自然と拍手が沸き起こりました。
ディスカッションで進行を務めたGLEC副機構長の田村誠教授は、「ここにいるみなさんの取組みが社会を変える基盤になる。これからも、地域と世界のサステイナビリティを同時に考えていくために、大学では今後もこうしてみなさんと会える場をつくっていきたい」と述べ、中学生から大学院生までが一堂に会したフォーラムを締めくくりました。
