茨城大学大学院人文社会科学研究科は今年度、専攻・コースの枠を超えて履修できる「ダイバーシティ地域共創教育プログラム」を新たに開設しました。各分野の地域のリーダーに必要とされるダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の概念や政策、課題を総合的に学修できるプログラムで、目玉の一つに、学生が企業や自治体、NPO等と連携しフィールドワークや共同研究をする「実践演習」があります。1月28日、その成果報告会が開催されました。
同プログラムは、ダイバーシティ経営や持続可能な地域経済の発展に貢献する人材の育成を目指しています。茨城大学・宇都宮大学・常磐大学の3大学で運営しており、茨城大学が代表校を務めています。実践演習Ⅰ~Ⅲのほか、3大学の教員や企業・自治体・NPO等で活躍している実務家の講義を通じてダイバーシティに関する俯瞰的視点を養う「ダイバーシティ地域共創概論」「ダイバーシティ地域共創最前線」がコア科目に設定されています。人文科学専攻、社会科学専攻のどちらの学生も履修することが可能で、サブメジャーという位置づけとなっています。
成果報告会の開会あいさつでは、原口弥生人文社会科学研究科長が「本研究科としては、学外で演習させるのは珍しい。そして複数の大学や地域の方々が連携した意義は非常に大きい」と協力への感謝を述べました。修士課程の学生へは、指導教員のみが指導する場合が多いですが、このプログラムでは演習ごとに主/副担当が割り振られていて「教員にとっても刺激のある取り組みでした」と振り返りました。
続いて、学生による報告です。修士課程1年の9人が、演習先の方々を前に実践の成果を発表しました。宇都宮大学大学院の古山裕崇さんは「多文化共生はいかに始まるか」というテーマのもと、とちぎ蔵の街自主夜間中学などで演習を行いました。年齢や国籍の壁を越えて学ぶ生徒と過ごす中で、翻訳ツールやイラストカードなどの手段を用いれば「言語の壁を超えることは容易いと感じました」。むしろコミュニケーションを阻んでいたのは「心理的な障壁」だったと言います。「言語がわからなくても、一緒に歌って手をたたけば同じように盛り上がれた」経験から、「『共通項』の存在に気付いた」と言います。多文化共生を考える上では「『みんな違って、みんないい』からのアップデートが必要」と話し、違いを接続するのりしろとなる「共通点」を重視し「『異質』だけではなく『同質』であることの尊重が不可欠」とまとめました。
茨城大学大学院の滑川友理さんは、外国ルーツなど多様な子どもたちが多く在籍する「はじめのいっぽ保育園」で演習。「どのような場面でどのような文化的側面が顕在化されるのか」を明らかにするため、参与観察やインタビューを行いました。パニックに陥った園児が、母語や発達特性を理解してくれる保育者らからの対応で落ち着きを取り戻した様子を目の当たりにし、調査をもとに、さまざまな事例から「平時に比べ、そうでないとき(有事)に文化的側面が顕在化する」と結論。そして、有事では「事情をわかってくれている人に助けを求める」と考察しました。
成果報告会には、演習先の方々も多く参加しました。関彰商事株式会社は、茨城県ダイバーシティ推進センターを通して、「アスリート社員の雇用とダイバーシティ推進に関する調査」に取り組んだ生井沢英志さんを受け入れました。担当者は「アスリートだから、外国籍だから、ということではなく、一般社員であっても生まれも育ちも違う仲間が集まって目的を達成するという意味では同じ。それぞれが目的や役割、使命に対して誠実に取り組んでいることが、互いを認め合うことの土台になっています」と同社の雰囲気を語ります。その中で、「アスリート社員は応援してもらう、助けてもらうためには何をすれば良いのかということも考えていて、そういうことからD&Iが進んでいっていると思う」と話しました。
ベトナムでの演習で学生を受け入れてくれた常陽銀行からの出席者は、「個々の調査が深堀されていることはもちろん、報告会でさまざまな研究をまとめて見ると、それぞれのテーマがつながり多層的に見えてくると感じた。そういった意味でもこうした機会は有意義」と述べました。
各大学の同プログラム担当教員からは、所属学生以外に向けた講評をしました。常磐大学の長谷川幸一特任教授は「実際に行かなければわからないことをよく観察できている。観察から研究は始まるので、すごく良い体験をされた。多文化共生を考える上で子ども教育が最も基本で、そこを経験してきたのは非常に重要ですね」と評価しました。
閉会にあたり、佐川泰弘理事・副学長 (総括・財務・企画・評価)があいさつに立ち、「文系の枠内でも多様な専門性を持つ方々が集まって、面白いことが起きているという認識を新たにした。院生は学部生とはひと味違うなと、院生の自主性自立性のある研究を感じていただけたなら幸い」と語りました。
現在のプログラムを継続しつつ、令和9(2027)年度からは、より専門性を深めた修士課程のコースを新設する予定です。
(取材・構成:茨城大学広報・アウトリーチ支援室)


