茨城大学の学生を中心に構成する、干し芋残渣の削減を目指すプロジェクト「HZP(干し芋残渣削減プロジェクト)」が、未就学児を中心に幅広い世代が楽しめる絵本を作成しました。干し芋残渣から生まれた「はしっぽちゃん」が、さまざまな仲間との出会いを通し、自分や周りを大切にすることの素晴らしさを知る物語です。学生のアイディアをもとに制作しました。
HZPは、干し芋の一大産地である茨城県で課題となっている「干し芋残渣」の削減に取り組むプロジェクトです。教育学野の石島恵美子教授の研究分野に関心をもつ学生が参加しており、メンバーは教育学部家庭選修を中心に、教職大学院・理学部・人文社会科学部・地域未来共創学環の学生らで構成されています。
干し芋を加工する際、ふかしたサツマイモの皮をむく工程で約4割が廃棄されます。これらは肥料として活用されることもありますが、多くは放置され、悪臭や害虫などの問題につながることもあります。HZPは干し芋残渣を、親しみを込めて「はしっぽ」と名付け、協力企業が開発した「はしっぽペースト」を使用した「はしっぽレシピ」の開発や、小中高校での食品ロスに関する講演などの活動を続けてきました。
活動を通して、産地である東海村では認知が広がり、村の魅力を考える小学校の授業で「はしっぽ」が話題に上るほどになりました。しかし、未就学児に向けたアプローチはありませんでした。「環境問題に興味を持ってもらうなら早い方が良い。小さい子どもたちにも知ってもらうにはどうすれば良いだろう」。学生たちが話し合う中で生まれたのが、絵本制作という新たな試みでした。
干し芋残渣問題を語るには、まず干し芋がどのように作られるのかを知ってもらう必要があります。絵本では、サツマイモを洗い、蒸し、皮をむき、天日干しする工程を、「しゃっしゃっしゃ!」「しゅっしゅっしゅ!」――と小気味よい擬音に合わせて描いています。
皮むきの過程で捨てられたはしっぽたちは、ごみ箱の中で涙を流します。「ぼくたちがいるとほしいもがきれいな黄金色にならないんだって」「ぼくだって畑で太陽をいっぱい浴びて育ったんだ」。すると魔法をかけられ、はしっぽたちは「はしっぽちゃん」として生まれ変わります。自分を不要な存在だと思い込んでいたはしっぽちゃんは、多様な存在との出会いを通して、自分の価値を見出していきます。
廃棄されている食材にも活用の可能性があることを、子どもたちにも理解しやすい形で表現しました。
文章とイラストの配置や色味にもこだわって、半年以上かけて制作を進めました。そして先月末、紙の絵本が刷り上がりました。HZP委員長の森田琴弓さん(教育学部3年)はページをめくりながら、「ずっとデータで見ていたので、厚みがあって重さもあって感動しました」と話しました。
教育学部附属幼稚園で読み聞かせしたところ、園児からは「おもしろかった」「もったいない」といった声が寄せられました。森田さんは「捨てられてしまうお芋もおいしいものになるということが伝わったのだと思います」と手ごたえを語ります。読み聞かせは、子どもたちの年齢や発達段階によって受け止め方が異なることを実感する機会となりました。
絵本は、日本語版のほか、英語版と日英併記版も制作しました。翻訳を担当したのは英語が専門の石井凜佳さん(教職大学院2年)です。「英語選修の青田先生と相談しながら、幼児向けに韻を踏んで、リズム良く読めるよう心掛けました」。物語の裏テーマになっている多様性を尊重し、三人称の主語は登場人物の性別を限定しない表現として「They」に統一しました。
苦労したのは、干し芋という文化を海外の子どもにどう伝えるかでした。「“dried sweet potato”と言っても、あの『干し芋』のイメージはなかなか伝わりません。絵本では『黄金色にかがやく』とありますが、これもただの金色とは異なります」。そこで英語版では、「Golden」に注釈を付け、「Golden: shiny, sunny, and delicious, just like a treasure!」と補足しました。
家庭選修の学生が多いHZPの中で、石井さんは英語を専門とする少数派です。大学院の授業で石島教授の話を聞き食品ロス問題に関心を持ち、同じ頃、地域のパン店でHZPのコラボ商品を見つけて食べたことをきっかけに、今年度から活動に参加しました。
4月から中学校の英語教諭となる予定で、今回の絵本は「家庭科だけでなく、道徳や英語など、教科を横断した教材としても活用できる」と期待を寄せています。
「食品ロス問題だけでなく、『ありのままの自分でいい』という自己肯定感も育てられる絵本。子どもが成長する過程の中でくり返し楽しめる絵本になりました」と森田さん。絵本制作を含めたHZPの活動は、学外における主体的で優れた取り組みを表彰する今年度の「iOP-AWARD」では、優秀賞を獲得しました。
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