茨城大学・宇都宮大学・群馬大学の北関東の3つの大学では、データサイエンス(DS)教育、数学(基礎)教育、英語教育の3つの分野で連携し、共通の教育コンテンツの開発などを行っています。その一環で、3大学の学生たちが参加する統計データ分析コンペティションが開催されました。3大学から10組13名の学生が、人口問題や地域産業などそれぞれの関心テーマに基づいたデータ分析に挑戦。このうち茨城大学から妹尾正義さんが最優秀賞(学長賞)、粂田悠希さんがインプレッシブ賞を受賞しました。
コンペティションの発表・審査会は、昨年(2025年)12月6日に、宇都宮大学峰キャンパスで行われました。学生たちには、独立行政法人統計センターが提供している教育用統計データ「SSDSE」をはじめとする公開データを利用することが求められ、それぞれが関心のある分野をもとに課題を設定し、統計の知識・技術をフル活用して分析に挑みました。各大学の教員とともに、大学とつながりのあるIT系企業からのゲストが審査を務めました。
学生たちの発表テーマは、「ごみの排出量・リサイクル率と暮らしに関する分析」(群馬大学理工学部 川﨑さん)、「ルッキズム時代における美容意識と生活習慣の乖離」(茨城大学農学部 神本さん・関根さん)、「都道府県別に見た投票率変動要因分析」(宇都宮大学データサイエンス経営学部 工藤さん)など、実に多様です。
各組8分のプレゼンテーションに臨み、審査の結果、茨城大学工学部の妹尾正義さん(「茨城県内市町村における高齢化率の違いに関する要因分析」)が最優秀賞(学長賞)、同じく粂田悠希さん(「茨城県市町村における人口の時空間予測モデルの構築」)と、群馬大学医学部の服部波留香さん(「中学生の体系を決定づける環境因子~男女別重回帰分析による知見と提言~」)がインプレッシブ賞を受賞しました。
1月14日、妹尾さんと粂田さんが茨城大学の学長室を訪れ、改めて表彰状を太田学長から手渡されるとともに、学長らを前にプレゼンテーションを披露しました。
電気電子システム工学科の妹尾さんは、「個人的に機械学習を勉強していたのでコンペに挑戦しました」とのこと。茨城県内で高齢化が進む自治体の傾向をつかむため、SSDSE内の市町村別統計データの中から、高齢化率に関連の強そうな特徴的な項目をLasso回帰という手法で選出しました。その結果、婚姻件数(人口比)、地方税(人口比)、総面積(1人あたり)、さらに歯科診療所数(人口比)という上位4つの特徴量を見出しました。この4つの変数で重回帰分析を行った結果、この変数だけで高齢化率を86%(R2=0.86)説明できることが確認できたということです。
「歯科診療所数が多いほど高齢化率が低いという関係があることは意外でした」と妹尾さん。妹尾さんによれば、実はコンビニエンスストアよりも数が多いという歯科診療所は若い患者もたくさん利用し、開業する上では周辺地域の人口などのマーケティングが行われることから、その数は生活利便性と直結しやすいとのこと。この結果には、歯学部に在籍したことのある太田学長も「歯科医は大病院に勤めるというより圧倒的に多くの人が開業するから、よくわかります」とコメントしていました。
ただし、今回選出した特徴量と高齢化率との間には、相関関係は確認できたものの、因果関係を表しているとは限りません。妹尾さんは「今回は時間がなくて因果関係の有無までは踏み込めませんでした。今後さらに詳細な分析もしてみたいです」と話していました。
インプレッション賞受賞の粂田さんも、茨城県内における人口問題に着目しました。機械システム工学科(フレックスコース)で、機械学習の研究室への配属を目指しているという粂田さんは、SSDSEのデータに、長期時系列人口データと、地理情報システム(GIS)から取得したデータを組み合わせることで、時間変化・空間的隣接性・社会指標を同時に扱う時空間人口予測モデルの構築を目指しました。
自身で導いたモデル式を用いて、茨城県の市町村における2030年及び2040年の将来人口を予測。その結果、人口が減少する市町村と増加する市町村との二極化がさらに進むことが予想されました。また、粂田さんが注目したのは、隣接する市町村同士との間で、増加と減少が二分されている点です。これは一定のエリア内の市町村間で人口の奪い合いが発生していることを示唆しています。粂田さんは、「人口の自然減を社会増でカバーするのには限界があり、基本的には自然増を増やしていく必要があります」とし、「今回のモデルを活かして、行政への助言につながるようなデータを集めていきたいです」と意気込みました。
この取組みを統括し、当日は審査員も務めた茨城大学の西川陽子副学長は、受賞者の発表について、「データサイエンスの基礎・基本を押さえたもので、プレゼンテーションもわかりやすかった」と評価しました。
また、今回の3大学間での連携の取組みは、コンペに参加した学生たちにとっても刺激だったようです。妹尾さんは、群馬大学の加藤さん・山田さんによる「群馬の発電可能性~統計で見る自然エネルギー発電~」という発表が印象に残ったそうで、「私自身も電気電子システム工学科なので、電気に関わるテーマは興味深かったです。自分も今後取り組んでみたいです」と話していました。
一方、参加者アンケートからは、コンペティションの運営や賞の種類などについて改善点もいくつか指摘されました。大学の枠を超えた連携の取組みには、環境の違いによる技術的な問題など乗り越えるべき課題が多くあります。西川副学長は、「今回勇気をもってチャレンジしてくれた学生のみなさんの声を活かして、北関東の大学間の絆を深め、よりよい教育につなげていきたいです」と話しています。