茨城大学 学術研究院 応用生物学野の朝山 宗彦教授の研究グループは、糸状性シアノバクテリアLimnothrix sp. SK1-2-1株が生産する新しい生体高分子(細胞外多糖を含む高分子 skECS)の特性と機能(抗酸化能)を明らかにしました。また細胞外多糖 skEPSが、特に青色光の照射によりWzy依存性経路が活性され、短期間に合成されると細胞の自己凝集が誘導されるというメカニズムを提唱しました。光によるこの生産・回収の制御技術は、未来の持続可能な資源生産システム “藻バイオリファイナリー”の発展に貢献すると期待されます。
研究成果は、国際科学誌『Applied Biochemistry and Biotechnology』(Springer Nature社)に採択され、2026年1月22日付でオンライン掲載されました。
背景
シアノバクテリアを含む微細藻類は、高い光合成能と増殖力からモノづくり(バイオリファイナリー)の資源として広く利用されています。特に、シアノバクテリアは、ジェット燃料や軽油の原料となるアルカン(炭化水素)、抗酸化能に優れた食品添加物フィコシアニン(青色素タンパク質)、増粘剤や医療・化粧品素材として注目される細胞外多糖(extracellular polysaccharide, EPS)などの生産に貢献します。一方、これら物質の利用に関しては、生産メカニズムの解明、生産強化、回収・抽出・製造技術の開発が課題となっています。
本成果は、糸状性シアノバクテリアの一種Limnothrix sp. SK1-2-1株が持つ、非常に便利な能力と、その能力を操作する光のメカニズムについて研究したものです。以前の研究からSK1-2-1株は、産業的に価値のある2つの有用物質(C15アルカン、フィコシアニン)を同時に生産できる「多機能な微生物工場」であることが知られていました。本研究ではさらに、“酸性細胞外多糖(skEPS)を含む細胞外物質(skECS)” の抽出・精製に成功し、分子量や単糖組成などの特性を解析して抗酸化能について調査しました。またskECS生産では、青色光照射によるskEPS生産関連遺伝子群の発現パターンを解析し、細胞自己凝集への効果について考察しています。
研究手法・成果
本研究では、福岡県朝倉市の佐田・黄金川流域から採取し、糸状性のヘテロシスト非形成シアノバクテリアとして単離したLimnothrix sp. SK1-2-1株を用いています。一旦、遠心により細胞塊と上澄液に分離し、上澄液にNaClとエタノールを添加して、塩析によって細胞外生体高分子物質 skECSを抽出することに成功しました。このskECSの特性を解析したところ、分子量は1.46 × 106 g/molであり、糖:タンパク質の含有量の比は 28.2% (w/w) :30.2% (w/w) でした。一方、skECSに含まれているskEPSのうち、主要な単糖組成の比は、 グルコース (38.4 mol%):マンノース (35.3 mol%):ラムノース (14.8 mol%) であることが明らかとなりました。さらに細胞をアルシアンブルー染色した結果とskECSのFT-IR分析結果から skEPSは硫酸基を側鎖に有する新しい酸性グルコマンナン様多糖であることが示唆されました。更にskECSは、ネイティブPAGE(ポリアクリルアミドゲル電気泳動)およびAFM(原子間力顕微鏡)を用いて特徴づけられ、多糖とタンパク質が強固に結びついた状態になっていることも示唆されました。一方、0.25 から 1.00 mg/mLの濃度範囲の水性skECS溶液は、抗酸化能力を示しました。
さらに、SK1-2–1細胞への青色光照射は、skEPSの生産を増強し、細胞の凝集(flocculation)を同時に促進しました。青色光および白色光照射に応答したskEPS生合成に関わる候補遺伝子転写産物の蓄積は、青色光センサー物質である環状-di-GMPをコードする sesA (sk0924) の発現が、青色光によって誘導されることを示しています。さらに、sesA依存的に作用すると推定されたWzy依存性経路に関連する9つの遺伝子群からのmRNA蓄積量をsqRT-PCR法で解析したところ、青色光照射下で発現の程度が異なり一様ではない誘導を受けていました(図2)。
これらと以前報告されている結果を総合すると、本株が3種類の有用な物質を細胞内(C15アルカン、フィコシアニン)と細胞外(酸性グルコマンナン様多糖 skEPS)に同時生産できることを示しています。以上、これら研究成果は、生体高分子skECSの新規な特性と機能、光特異的な誘導生産、およびバイオリファイナリーのための有用な材料としての可能性を示唆しています。
今後の展望
Limnothrix sp. SK1-2–1株は、ジェット燃料に相当するアルカン、抗酸化作用を持つフィコシアニン、そしてプロテオグリカン様多糖 (skECS) という複数の有用物質を同時に生産可能であり、青色光照射により細胞の自己凝集が促進されるため、工業化において高コストな遠心分離工程を排除し、藻類バイオリファイナリーへの応用を通じてカーボンニュートラルや環境持続可能性に貢献する可能性を秘めています。今後の課題として、skEPSの収量向上のため接種サイズや培養期間の調整、大規模な野外培養の試験が必要であり、遠心分離以外の(例えば、膜ろ過などを利用した)効率的な回収方法の適用も検討されます。また、skECSの分子構造の不均一性の原因を特定するためのサイズ分画や、タンパク質成分をコードする遺伝子の特定(アミノ酸組成・配列の決定)が求められます。機能面では、skECSの抗酸化能力のpHおよび温度依存性の検証を加え、医薬品や化粧品への応用に関する試験等も期待されます。さらに、青色光照射下で短い多糖鎖が合成されるという仮説を検証するため、青色光および白色光培養で得られたskEPSの分子量比較を行うとともに、SK1-2–1の形質転換システムを開発し、sesA(sk0924)などの候補遺伝子を操作することで、skEPS生合成の光特異的な制御機構の解明を深化させる必要があります。
論文情報
- タイトル: Novel biopolymer in extracellular substances from the filamentous cyanobacterium Limnothrix sp.
- 著者: Kotaro Kido, Runa Koshikawa, Rise Katoh, Nguyen Thi Thuy Quynh, Yu Kanesaki, Morifumi Hasegawa, Akihiro Nakamura, Munehiko Asayama* (*Correspondence)
- 雑誌: Applied Biochemistry and Biotechnology
- 公開日: January 22, 2026 (Online publication)
- DOI: https://doi.org/10.1007/s12010-025-05409-8
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