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土木技術に関わる産学官の関係者が研究交流
身近な工事の事例などを報告

 茨城県内で土木の事業や研究活動に取り組む大学、行政、産業会のメンバーが一堂に会し、最新の土木工事や調査についての報告・交流を行うイベントが、12月2日(火)、日立キャンパスのJX金属ホールで開かれました・産学官それぞれの関係者の他、工学部都市システム工学科の学生たちも含む200人近い参加者で会場はいっぱいになりました。茨城大学広報・アウトリーチ支援室の山崎一希主幹専門職のレポートです。

土木の現場と研究が交わる初の発表会

 この発表会は、茨城大学工学部附属都市・地域デザイン教育研究センターと土木学会茨城会の主催で初めて行われました。「茨城県内で土木という同じフィールドで活動している産・官・学のメンバーに学生も交えて話し合える場がほしかったんです」と語ったのは、応用理工学野の桑原 祐史 教授。その言葉どおり、ホールには学生や工学部の教員たちはもちろんのこと、さまざまなデザインの作業服をまとった多世代の社会人の姿も多く見られました。

茨城県土木部の大森さんによる茨城県の土木事業の紹介 会場はほぼ満席に
茨城県土木部の大森さんによる茨城県の土木事業の紹介 会場はほぼ満席に

 発表会は、茨城県土木部の大森 満 次長兼総括技監による茨城県の土木行政の概要を紹介する基調講演に始まり、その後は行政、産業会、大学のそれぞれの代表者が最新の実践や研究を紹介するという構成でした。

若手技術者が語る道路整備の舞台裏

 印象的だったのが、茨城県土木部に勤める2名の若手技術者による、ご自身が手がけた土木事業の事例報告です。水戸土木事務所の飯村 諒さんは水戸市内における都市計画道路 中大野中河内線 酒門工区の整備に伴う周辺道路の渋滞緩和、土浦土木事務所つくば支所の吉田 恵斗さんはつくば市における「つくばスタイル」を踏まえた自転車・歩行者道路橋(諏訪南橋)の事例を紹介しました。

 飯村さんが紹介した旧「酒門六差路」周辺は、筆者の自宅からも近く、よく利用する道路です。アスタリスクの記号「*」のように交差した六差路は、信号待ちの時間も長く、斜めの方向に曲がる際も危なく感じることが確かにありました。最近になって道路がつけ替わり、運行がだいぶスムーズになったと実感していただけに、その舞台裏の話には興味が湧きます。

水戸土木事務所の飯村さんは国道六号の旧酒門六差路の付け替え工事のプロセスを報告
水戸土木事務所の飯村さんは国道六号の旧酒門六差路の付け替え工事のプロセスを報告

 「ろっこく」の通称でおなじみの茨城の大動脈のひとつである国道6号周辺は、日中の交通量が多く、工事は夜間に行うことが条件となります。複雑に道路が付け替わるので、周辺住民への丁寧な説明も必要です。「何度も足を運び、進捗のお知らせも密に配布しました」と飯村さん。

 報告は、道路計画、工事、地元との調整、事前周知、供用開始、そして事業効果の検証と、順を追ってわかりやすい構成でした。身近な道路について、誰がどのような考えから道路計画をしているのか、どんなアイデアがあったのか、メリット・デメリットは何か、実際に効果があったのかという話は、自分ゴトとして聞くことができます。学生たちにとっても、卒業・修了後の仕事のイメージが具体的に湧いたのではないでしょうか。

 続いて入庁2年目という吉田さんも、「2年目でも地域に貢献できるおもしろい工事に携われるということを学生に伝えたいんです」と宣言して事例発表に臨みました。橋梁を設計した箇所の地質がどうなっているのか、「つくばスタイル」という地域ビジョンをどう設計に落とし込むか、利用者に愛されるためにどんな工夫をしたかといった話を聞くと、いつも見ている都市インフラの姿が違って見えてきます。

つくば市内の自転車・歩行者道路橋を担当した県庁2年目の吉田さんの発表
つくば市内の自転車・歩行者道路橋を担当した県庁2年目の吉田さんの発表

 発表後に吉田さんに話を聞くと、「研究者の方や民間の方がいる場で発表するのは初めてでした。県庁内での説明ではどうしても発注者目線になってしまいますが、今回は学生や受注者さんも聞いているということで、どう興味を持ってもらえるかを考えました。受注者さんがあっての私たち自治体の仕事なので、その目線で発表し、学べる機会は大事ですね」と話してくれました。立場を超えた研究交流の場を地域の大学がコーディネートする意味を強く実感させられる言葉です。

官民協働で進めるまちづくりと防災

 産業会からは、茨城県測量・建設コンサルタント協会と茨城県建設コンサルタンツ協会という2団体からそれぞれ1社ずつの代表者が登壇しました。この2団体の「競演」も見どころです。

 茨城県測量・建設コンサルタント協会からは、株式会社ミカミ代表の三上 靖彦さんが、市と連携しながらNPOやまちづくり会社など民間が主導して行ってきた、中心市街地活性化実践の20年のあゆみを紹介。官民連携の取組みのプラットフォームとして「水戸のまちなか大通り等魅力向上検討協議会」が2020年に発足した際は、「年長者が出しゃばらず、現場の若い人たちがどんどん進められるような体制をつくった」と三上さんは説明します。その後何度も行われた「水戸まちなかデザイン会議」では、市民参加のワークショップや社会実験を展開。

株式会社ミカミの三上さんは官民連携の水戸市中心市街地活性化の活動を紹介
株式会社ミカミの三上さんは官民連携の水戸市中心市街地活性化の活動を紹介

 三上さんは最後に、「中心市街地の地元の方たちがそこに共感し、乗り出してこなければ次のステップへ進めません。ローカルな当事者意識が重要」と強調しました。

 茨城県建設コンサルタンツ協会からは、株式会社明和技術コンサルタンツの猿田 悠真さんが、茨城県内のある小学校の敷地を支える盛土の法面工事の事例を報告。豪雨災害の後にどのような調査・復旧を行ったのかを、地盤についてのデータや設計プラン、施工写真などを示しながら詳細に説明しました。

明和技術コンサルタンツの猿田さんは小学校の敷地を支える盛土法面の工事事例を説明
明和技術コンサルタンツの猿田さんは小学校の敷地を支える盛土法面の工事事例を説明

最新技術による「土木遺産」の保存・継承

 最後は茨城大学応用理工学野から、桑原教授と伊藤 大知講師の2人が研究報告を行いました。桑原教授は「那珂川大橋アーカイブ~茨城大学・国際航業株式会社・(公社)土木学会茨城会共同研究」、伊藤講師は放射性廃棄物の安全な地中処分を念頭に置いた「廃棄物処分に資する低透水性土質材料の透水試験に関する技術開発紹介」という演題の発表でした。

 このうち桑原教授は、常陸大宮市の御前山地域にある那珂川大橋の姿を、空間情報工学の知識・技術を用いて記録・保存するプロジェクトの経過を紹介するものです。那珂川大橋は、関東大震災後に隅田川の永代橋などの設計を手がけた田中豊氏が設計したもので、1949年(茨城大学の創立年!)に完成しました。こんもりとした山を背に立つ堂々とした美しい橋の景観は、京都の嵐山にもたとえられるほどですが、老朽化により架け替えが予定されているそうです。

那珂川大橋の記録プロジェクトを紹介した桑原教授
那珂川大橋の記録プロジェクトを紹介した桑原教授

 桑原教授らは、歴史的・文化的な価値をもつ土木構造物を「土木遺産」と位置付け、ドローンやライダーなどのリモートセンシング技術を活用した保存と継承の観点から、企業や学会との連携のもと、那珂川大橋の記録に取り組んでいます。

 ドローンやライダーを使って上空から形状を記録し、地形データと重ね合わせることはもちろんのこと、ユニークなのは、周辺の地域を回って、橋の景観を臨むことができる視点場も丁寧に記録をしていったところ。これらの作業を経て3Dモデルの作成も順調に進んでいます。参加者からは完成後の活用方法についての質問がありました。桑原教授は「アーカイブがきれいにできたら、近隣の道の駅に置いて、みなさんに見てもらいたい」と語るとともに、「従来の知識や技術を活かしつつも、最新のデジタル技術を活用しない手はありません。こうしたことを産学官の壁を超えてみんなで勉強する場所をつくっていきたいです」と意気込みました。

モデル化・解析は順調に進んでいる
モデル化・解析は順調に進んでいる

今後も交流を続けたい

2025年4月に茨城大学に赴任した伊藤講師による発表
2025年4月に茨城大学に赴任した伊藤講師による発表

 産学官の関係者が集まり、自分たちの仕事やプロジェクトについて紹介して、意見や知識を交換する取り組み。桑原教授は「初回ということでやや硬かったかもしれない」と話したものの、参観者の一人としては、今後に向けた期待感を抱かせるものだと感じられるものでした。学生たちにとっても、大学卒業後も自分たちの仕事や実践について学術的な側面から自由に議論し、交流できる場があるというのは、学業や就職のモチベーションになると思います。

 土木の技術の研鑽と関係者間の信頼の構築は、私たちの生活を支えるインフラの安全に直結するものです。「今後年1~2回のペースで開いていきたい」と話した桑原教授。これからの発展を期待しています。

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