茨城大学グローバルエンゲージメントセンター(CGE)と茨城県立勝田中等教育学校(ひたちなか市)は、外国人との共生などの課題について理解を深める協働学習体験の取組みを行っています。
今年は、茨城大学に来ている留学生、日本語教員養成プログラムを受講している日本人学生、それに勝田中等教育学校の3年生(中学3年生に相当)が、フィールドトリップなどの校外プログラムも一緒に体験しながら、外国にルーツをもつ住民との共生のあり方について理解を深めています。
茨城大学と勝田中等教育学校の国際共修
茨城大学CGEと勝田中等教育学校との国際共修の取組みは2023年にスタートし、今年で3年目。今年は茨城大学の日本語研修コースレベル4(総合)を履修している留学生12人と、プラスIプログラムの日本語教員養成プログラム「日本語教授法Ⅰ」を履修する日本人学生13人、それに勝田中等教育学校の探究学習活動で「グローバルゼミ」を選択した3年生(中学3年生に相当)22人が一緒に学んでいます。
12月3日には、勝田中等教育学校に大学生たちが訪問。身近な「校則」の問題を取り上げ、文化の違いを尊重するためにはどんな対応が望ましいか話し合いました。
そして翌12月4日は、バスに乗って茨城県西の常総市を訪ねるフィールドトリップへ。
常総市は、外国にルーツをもつ住民の数が市の人口の1割以上を占める地域です。アジア各地の料理のレストランや宗教施設も多く、学校や行政における日本語支援などの対応も他地域より進んでいます。
まずは天守閣を模した「豊田城」(常総市地域交流センター)の目の前、石下総合福祉センターに到着。ここでは、多くの外国人材を受け入れている地元の企業3社の経営者と外国人スタッフの方から話を聞きました。
その後は、多様な国・地域をルーツとするレストランや雑貨店が並ぶ「亀仙人街」と、スリランカ寺院を訪問。身近な地域の中に存在する異文化のコミュニティとその暮らしぶりに触れることができました。
地域における外国人支援とは
再び石下総合福祉センターへ戻ってきた学生・生徒たち。フィールドトリップのラストは、茨城NPOセンター・コモンズのスタッフを務めるブラジル出身のフジモトユリコさんの話を聞き、ディスカッションを行いました。以下はそのレポートです。
フジモトさんはブラジル出身の日系3世。家庭の事情で11歳のときに来日。既にそれまでの倍以上の時間を日本で過ごしています。来日前も日本語を学ぶ機会があったそうですが、それでも日本語話者の中で生活するのは簡単なことではありません。しかし、ブラジル出身の周囲の他の子どもたちよりは日本語ができたため、「病院でも市役所でも、ポルトガル語の通訳をしてほしいとしょっちゅう頼まれていました」と言います。自身も不安を抱える中で他者のケアをしていた、その大変さが推察されます。
一方で、そうした経験から、社会のためになることをしたいという思いが膨らんだそうです。高校卒業後は飲食店に勤めたあと、派遣会社やハローワークで外国籍の人のサポートの仕事に従事。ハローワークでの仕事を通じて茨城NPOセンター・コモンズ代表の横田能洋さんと出会い、8年前に職員となって現在に至ります。
コモンズの支援の柱は、住まいや家族についての相談に応じる「生活支援」と、外国人が集中する学校での日本語サポートを中心とした「学習支援」。フジモトさん自身、県内の2つの高等学校でコーディネーターを務めています。
学習支援に関しては、とりわけ高校受験、特に16~20歳の「オーバーエイジ」の人たちの進学支援のニーズが高いそうです。国語や数学といった教科のサポート、外国人特例入学者選抜で課される面接の練習などを行っています。
高校に行きたいけれど…
フジモトさんの話を熱心に聞いていた学生たちからは、子どもたちだけではなく保護者にはどんな支援があるのか、質問がありました。
フジモトさんによると、ミスマッチの問題が大きいそうです。特に定員割れをしている高等学校などは、日本語を充分に習得していない状態でも入学できたりします。ところが日本語サポートの体制が整っていないと、授業についていけず、結局やめてしまうこともあります。「制服代などでたくさんの費用がかかりますから、経済的にも厳しいですよね。『日本語をよく学んでから進学したほうがいい』とアドバイスしますが、そのまま進学してしまう人は多いです」とフジモトさん。
後半のディスカッションでは、茨城大学の留学生、日本人学生、勝田中等教育学校の生徒たちの混合グループで、「地域で外国籍住民が安心して暮らすには、私達はどうすればいいのか?」をテーマに議論をしました。進行を務めた日本人学生は、留学生のメンバーにも理解できるよう、やさしい日本語を使ってゆっくり話します。また、中等教育学校のみなさんも意見を言いやすいくなるよう、言葉遣いを工夫している様子が伝わってきました。
「日本語がわからないということは、進学でもなんでもスタートダッシュでつまずいてしまうということだよね」
「進学の支援も、いつどこに進学するのかというのは家庭の問題。支援にも限界があるのでは?」
「まずは少しでも安心できる環境をつくること。日本語が充分にわからなくても、まずは気軽に触れ合って、地域の人たちに受け入れられているんだと思えるようなイベントを企画できるといいと思います」
「たとえばスポーツとか。学校にも留学生がいるけれど、クラスマッチを通して距離が縮まって、孤独感が薄まることがありますよね。でもスポーツだと苦手な人もいるかな‥?」
「保護者は子どもより日本語が苦手かもしれない。その意味では『パパ友』『ママ友』をつくるようなサポートができるといいかも」
カルチャーショックと自らのアクション
議論を踏まえてグループごとに報告。それに対してフジモトさんがフィードバックをします。印象的だったのは、同世代の子たち同士の関わりの大切さについての発表があった後、フジモトさんが話したエピソードでした。
フジモトさんはブラジルの学校では「成績はよかった」そうですが、家庭の都合で日本の学校に移ってからは、言葉の壁があって成績が下がってしまったとのこと。さらにフジモトさんを悩ませたのが、学校文化の違いでした。「ブラジルでは午前・午後・夜間に分かれていて、希望する時間にいけばよかった。それが日本ではみんなお揃いの黄色い帽子をかぶって、一列で学校に行き、給食や掃除もみんな一緒。刑務所みたいだと思って、ブラジルに帰りたくて仕方なかったんです」。こうした言葉は、前日に「校則」について議論をした学生・生徒たちの心にも響いたのではないでしょうか。
また、日本人の友達に誘われても、相手の家には「絶対に行かなかった」とのこと。「友達がウェルカムでも、向こうの親はどう思っているかわからなかったから」。
その後高校に進学することとなったフジモトさんは、「このままでは一人ぼっちになる」と感じ、自分から周りに積極的に声をかけたとのこと。その結果、「高校の3年間は一番学習が伸び、一番楽しい時期になった」と話してくれました。この授業を担当しているCGEの瀬尾匡輝准教授は、「フジモトさんはアクションを起こした。次は周りがそのアクションを受け入れることが問われますよね」と、学生・生徒たちの意識に働きかけます。
実践を踏まえたフィードバックで理解を深める
また、相互理解のきっかけをつくるために料理やスポーツのイベントが有効ではないかという意見が多数出ました。よく聞く意見でもありますが、それに対するフジモトさんの回答は現実の実践を踏まえたリアルなものでした。
曰く、実際にコモンズが関わったもので、飲食店を運営している外国人の人たちに声をかけ料理を出してもらったとことがあるそうです。「そうすると、その日はおいしいものを食べながら、『あなた、あそこのお店の人なんだね。今度行ってみますね』というふうに交流が生まれる」と語ります。瀬尾准教授も「交流イベントは楽しくても一回きりで終わってしまうことがあります。周りのお店につなぐという次のステップまでいけるといいですよね」と指摘しました。
大学生と中学生、留学生と日本人学生、外国人住民と、受け入れる地域の住民。それぞれの視点を交差させながら、「自分にできることは何か」という考えを深めることができた国際共修でした。この授業は今後も何度かにわたって行われます。来年(2026年)1月には、茨城大学の学生たちと勝田中等教育学校の生徒たちが話し合いの成果する予定です。




