アリゾナ大学の猪俣健教授を調査団長とする国際調査団は、メキシコのタバスコ州にあるアグアダ・フェニックス遺跡においてマヤ文明最古(前1050年頃)かつ最大(長さ1413m、幅399m)の公共祭祀建築「巨大基壇」を発見し、2020年にNature誌で公表しました。それから5年が経過したこのほど、猪俣教授や茨城大学の青山和夫教授らが参加するアメリカ、メキシコや日本の国際調査団は、ライダー(航空レーザー測量)、発掘調査、放射性炭素年代測定によって、前1050年から前700年の間に建造された遺跡全体の文化的な景観を明らかにしました。
論文は、米国東部標準時2025年11月5日(水)午後2時(日本時間11月6日(木)午前3時)、Science Advances誌に掲載されました。
遺跡の中心に建造された巨大基壇の中央からは、十字状の遺構(5.9×5.6 m)が検出され、グアテマラ高地産の翡翠製の磨製石斧や、ワニ・鳥・出産する女性を象ったと考えられる翡翠製の装飾品などの供物が埋納されていました。その最下層には、方角を象徴する色の顔料(青、緑、黄色)と海の貝(赤、黄色)が、東西南北に配置されていました。実際の方角に埋納された顔料は、メソアメリカ最古(前900~前845 年)かつ最初の発見例となります。
巨大基壇の中心を通る、太陽の方角に関連した東西の中心軸7.5 kmと南北の中心軸9 kmに沿って、道路や水路が建造され、巨大な文化的な景観が生み出されました。水路は、幅35m、深さ5mほどで、湖の水を引くダムも設置されました。水路は未完成でしたが、遺跡全体の平面計画の規模は、後のメソアメリカの諸都市よりも大きいか、同等です。アグアダ・フェニックスは、周辺の広範な地域の人々を引き付けるコスモグラム、つまり世界観の象徴的な景観表現として設計されたと考えられます。
アグアダ・フェニックス遺跡では、権力者の石造彫刻は皆無であり、中央集権的な王は存在していなかったと考えられます。暦や天文学の知識を専有する初期の指導者は、コスモグラムとしてアグアダ・フェニックスを設計しましたが、強大な政治経済力や強制力を持ちませんでした。人々はおそらく自発的にコスモグラムを建造する共同事業に参加したと考えられます。大規模な共同建造事業が、定住生活の始まりという大きな転換点において、集団のアイデンティティを創生し、マヤ文明の起源・形成に重要な役割を果たしたのです。
アリゾナ大学 猪俣健教授のコメント
過去には諸王が神殿ピラミッドを建造させ、今日も大事業を成し遂げるためには権力をもつ人たちが必要だと一般的に考えられています。しかし実際の考古学データを見れば、必ずしもそうではなく、中央集権的ではない社会でも重要な事業を達成することが可能であったことがわかります。
茨城大学 青山和夫教授のコメント
アグアダ・フェニックス遺跡の調査成果は、マヤ文明独自の起源・形成を明らかにするだけでなく、人類の文明の起源・形成を探求する上でも重要です。
論文情報
- タイトル:Landscape-wide cosmogram built by the early community of Aguada Fénix in southeastern Mesoamerica(メソアメリカ南東部アグアダ・フェニックスの初期共同体が建造した景観コスモグラム)
- 著者名:猪俣健(アリゾナ大学)、ダニエラ・トリアダン(アリゾナ大学)、ベロニカ バスケス ロペス(ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン)、メリーナ・ガルシア・エルナンデス(メキシコ国立自治大学)、フアン・カルロス・ファルナンデス-ディアス(ヒューストン大学)、アーシュリー・シャープ(スミソニアン熱帯研究所)、クラウディア・アルバラード(メキシコ国立人類学考古学大学)、アタスタ・フローレス(ウスマシンタ川中流域考古学調査団)、シャンティ・セバージョス(アリゾナ大学)、ケルシー E. ハンソン(テキサス大学アーリントン校)、ラン・チェン(アリゾナ大学)、ティモシー・ビーチ(テキサス大学オースティン校)、、大森貴之(東京大学)、那須浩郎(岡山理科大学)、青山和夫(茨城大学)、山田圭太郎(山形大学)、北場育子(立命館大学)、中川毅(立命館大学)
- 掲載誌:Science Advances
- 掲載日:2025年11月5日(米国東部標準時)