茨城大学五浦美術文化研究所、70周年記念事業を実施

 茨城大学五浦美術文化研究所は、2025年に設立70周年を迎えたことを記念し、六角堂や長屋門の修繕など4つの事業を実施します。

記者会見で記念事業について説明する片口所長(右)と下山田理事
記者会見で記念事業について説明する片口所長(右)と下山田理事

 美術思想家・岡倉天心(覚三)は、1905年に現在の北茨城市五浦に六角堂を構え、その後日本美術院を移すなど、五浦の地を拠点に日本美術の振興や国際的な活動を展開しました。その後六角堂などの文化財が財団法人岡倉天心偉績顕彰会の理事長・横山大観から茨城大学に寄贈され、それを契機に、1955年に五浦美術研究所を設立、その後名称を五浦美術文化研究所に変更して現在に至ります。
 岡倉天心は日本の文化財保護の基盤を作った人物です。研究所では、天心ゆかりの文化財を守りながら、展覧会や催しを通してその魅力を伝える活動を続けています。70周年を迎える今年は、そうした取り組みをさらに発展させる記念事業を行います。

①六角堂建屋の「ベンガラ」彩色

 六角堂は、2011年の東日本大震災における津波によって太平洋へ流失しましたが、翌2012年に1905年の創建当時の姿に再建され、今や復興のシンボルとして親しまれています。しかし、東日本大震災から15年を迎えるにあたり、木壁は塩害や経年による劣化が進んでいます。創建当時の姿を後世に継承すべく、70周年記念事業として、ベンガラで再塗装することとなりました。資金は茨城大学が開発しサザコーヒーが商品化した「五浦コヒー」の売上を活用します。塗装は本年度中に実施する予定です。

2012年再建当時の六角堂(左)、2025年の六角堂

②クラウドファンディングによる「長屋門」屋根の葺き替え

 五浦美術文化研究所の“顔”として訪問者を迎えるのが「長屋門」です。長屋門の屋根は杉皮茅葺きです。前回の葺き替えは5年ほど前でしたが、予算の都合で屋根全体のうち半分のみの補修にとどまりました。その影響で、未補修部分の劣化が進み、現在一部で雨漏りが生じています。
 茨城大学においては、国から措置される運営費交付金の減少や物価高などによる財務状況の厳しさから、天心遺跡の最低限の維持(安全確保など)のための予算を確保するので精一杯なのが現状です。そうしたことから、今回、長屋門修繕に係るクラウドファンディングを実施することといたしました。
 実施期間は12月23日(火)23時まで。こちらの特設サイトからご寄附をお願いいたします。

長屋門
長屋門

③観月会2025「特別展示 手塚雄二展 ―棗―」

 岡倉天心は、各界の名士を招待した「仲秋観月会」を開催していました。このことを偲び、研究所では、長年にわたって「観月会」の名を冠した展覧会などの多彩な催しを開いています。「観月会2025」では、岡倉天心ゆかりの日本美術院に在籍され、平山郁夫氏に師事した日本画家・手塚雄二氏の作品を展示いたします。手塚氏が蒔絵を施した茶器「棗」や、六角堂の「スケッチ」などが天心遺跡に並びます。また、観月会の期間中は、平櫛田中作「岡倉天心先生像」を六角堂内に展示します。

  • 会 場:茨城大学五浦美術文化研究所(茨城県北茨城市大津町五浦727-2

  • 会 期:2025年11月1日(土)~11月16日(日)

  • 開 館:午前8時30分~午後4時30分(入場は午後4時まで)

  • 休館日:11月4日(火)、10日(月)

  • 入場料:400円(中学生以下は無料)

観月会2025「特別展示 手塚雄二展 ―棗―」で展示される棗(左)、スケッチ
観月会2025「特別展示 手塚雄二展 ―棗―」で展示される棗(左)、スケッチ
六角堂内に展示された平櫛田中作「岡倉天心先生像」
六角堂内に展示された平櫛田中作「岡倉天心先生像」

④所員企画展2025 五浦美術文化研究所 所蔵品展「木村武山―秋から春へ―」(仮)

 岡倉天心が日本美術院を五浦に移した際、家族を連れて移住した日本画家のうちの一人であり、歴史画や花鳥画、仏画を多く残した木村武山ぶざんの作品展を開催します。出品は《紅葉小禽図》《秋景》《小春》《聖観音》のほか、木村武山が着用した東京美術学校初期制服、顔写真などを予定しています。

  • 会 場:茨城大学図書館本館1階展示室(茨城県水戸市文京2-1-1

  • 会 期:2026年2月17日~220日(予定)
    ※調整中のため、変更になる場合があります。

  • 開 館:午前10時~午後5

  • 入場料:無料

茨城大学五浦美術文化研究所 片口 直樹所長(教育学野准教授)コメント

 本研究所設立70周年を迎え、これまで支えてくださった皆様に感謝の意を込めて展覧会を開催いたします。観月会特別展示に合わせ、六角堂特別展示として堂内に天心像(平櫛田中作)と花器(荒川豊蔵作)を展示いたします。太平洋を背景に壮大なスケールで鑑賞をお楽しみいただければ幸いです。2月には学内で木村武山展(所蔵品)も開催いたします。
 所長を拝命してから4年間、それまでに気付かなかった課題を一つずつ解決してまいりました。その中には常に研究所施設(天心遺跡)の修繕がありました。五浦にお越しいただければ、岡倉天心が描いたヴィジョンを視覚的、体験的に感じていただくことができます。その為にも、天心遺跡は当時の姿を継承していく必要があります。なぜならば、天心こそが文化財の重要性を問い掛け、保護に邁進した人物だからです。今後、六角堂のベンガラ塗り直しをいたしますが、それに加え、長屋門(登録有形文化財)の屋根の修繕も行いたいと考えます。そこで、我々研究所はクラウドファンディングに挑戦いたします。これを機に、これまで研究所に馴染みの無かった方々に身近に感じていただきたいという思いがあります。修繕が叶った際には、美しく蘇った長屋門で皆様をお出迎えすることができれば幸いです。

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