大いなる躍進が期待される茨大発ベンチャーを紹介④ 
エフシー開発株式会社

 大学の現場は新たな技術・産業につながるシーズの宝庫です。近年、大学の研究シーズを活かした大学発ベンチャー、大学発スタートアップの起業が、全国でさかんになっています。茨城大学でも立て続けにスタートアップを創出しています。注目の茨城大学発ベンチャーを4社紹介します。第4弾(最終回)はエフシー開発株式会社です。

燃料電池の研究開発支援に携わりすでに20年余り。世代交代をはかり、さらに先の未来を目指す。

エフシー開発株式会社

 燃料電池のセルの製造や性能評価、製作技術トレーニングを行っている。「エフシー(FC)」は「FuelCell(燃料電池)」の略。2003年、茨城大学と地元企業、英和株式会社の協力で設立。
https://www.fcdevelopment.co.jp/

鈴木社長と技術開発部の浅本グループリーダー
鈴木社長(左)。隣は、茨城大学で研究員を務めた経歴をもつ技術開発部の浅本グループリーダー

Profile

鈴木 朗弘 (エフシー開発株式会社 代表取締役)

1995 年茨城大学工学部システム工学科を卒業。1997年英和株式会社に入社。2006年12月よりエフシー開発株式会社の取締役に兼務し、2019 年9月より現職。

「研究・開発」「設計・製造」「販売」を完全に機能分担したことが奏功

 日立キャンパスのN5 棟の玄関をくぐり左に進むと、「エフシー開発株式会社」という看板が掲げられたオフィスに行きあたる。大学の構内に拠点を構える同社は、何を隠そう、茨城大学発ベンチャーの「老舗」ともいえる存在だ。
 創業は2003年。「セル」と呼ばれる燃料電池の評価に必要なデバイス装置を取り扱う。「その当時、企業や研究機関では、それぞれバラバラの仕様のセルを使って燃料電池の研究をしていたんです。日本の燃料電池研究の加速化を図るため、それを標準化しようという動きが出てきたんですね」。そう振り返るのは、現在社長を務める鈴木朗弘氏。茨城大学工学部の卒業生だ。
 この動きを受けて喫緊で必要となったのが、セルの基幹部品となる膜電極接合体(MEA)の調達だった。当時、茨城大学工学部の堤泰行教授がその技術を有していた。「ところが大学としてその技術や部品を販売するスキームがなかったんですよ」と鈴木氏。しかし、思いがけない時の巡り合わせが訪れる。国立大学の法人化などが行われた小泉政権の時代。政府は大学発ベンチャーを立ち上げる
支援に本腰を入れ始めており、茨城大学も産学連携のセンターをつくっていた。そのセンター長を務めていたのが、堤教授だった。「『それならベンチャーを立ち上げよう』ということになり、複数人の出資で設立されたのがこのエフシー開発です」。
 鈴木氏は三代目の社長で、当時は提携企業の社員という立場だった。大学発ベンチャーという形で果たしてうまくいくのか、やや懐疑的だったという。「口座を開いて取引契約を結び、納期までに製品を納める──そういうビジネスの慣習や仕組みが、大学にはなく、馴染みにくい側面がありますので。しかも技術に自信を持っている研究者は、お客様から寄せられる現場の声もなかなか聞かないですから(笑)」。この状況を突破すべく、研究・開発は大学、設計・製造はエフシー開発、販売は英和株式会社という形で完全に役割を分けた。鈴木氏曰く、これが功を奏したという。
 燃料電池は化学反応を利用した発電機だ。蓄電機能は持たない。ハイブリッド車が成功し、一躍脚光を浴びた時期は、燃料電池ではなく蓄電池の方に需要が傾き、閉業の危機にも直面したという。しかし東日本大震災がターニングポイントとなった。突如起こる大規模な停電。自ら発電できる燃料電池の価値が改めて見直されたのだ。さらに現在はクリーンなエネルギーとしての水素の需要が高まり、燃料電池の技術を応用して、電気を使って水素を生成する技術への引き合いが大きくなっている。「茨城大学も気候変動対策やカーボンリサイクルに力を入れているので、もっと連携を強めたい」と鈴木氏は語った。
 創業から20年あまり。課題は世代交代、技術継承だ。「創業時の技術者が80代になっても頑張っていますが、若いメンバーが必要です。大学構内にあるので学生のみなさんに興味を持ってもらって、一緒に働いてくれると嬉しいですね。私たちの顧客は博士号をもった大学や企業の研究者なので、専門的な話ができることが大事。技術をもった工学部の卒業生こそ、営業やマーケティングにも挑戦してほしいです」。

茨城大学で起業家精神を身に付けるなら!

  ベンチャーや起業に興味があるという学生のみなさんには、全学共通のiOPプログラムのひとつになっている「アントレプレナーシップ教育プログラム」がおすすめです。1年次はビジネスや経済への基礎理解を深める入門講義、2年次にかけて経済・経営・情報等の専門科目を履修するとともに、ビジネスプランコンテストへの参加などの課外活動を体験します。3〜4年次になるとiOP(internship Off-campus Program)としてインターンシップや新たなプロジェクトの企画立案に挑戦します。

この記事は茨城大学の広報紙『IBADAIVERS(イバダイバーズ)』に掲載した内容を再構成したものです。

構成:茨城大学広報・アウトリーチ支援室 | 撮影:小泉 慶嗣

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