大学の現場は新たな技術・産業につながるシーズの宝庫です。近年、大学の研究シーズを活かした大学発ベンチャー、大学発スタートアップの起業が、全国でさかんになっています。茨城大学でも立て続けにスタートアップを創出しています。注目の茨城大学発ベンチャーを4社紹介します。第3弾は株式会社KiAIです。
新興国や途上国に関するビジネス情報を独自の生成AI技術で収集・分析・報告。
株式会社KiAI
ケー・アイ・エー・アイ(通称:キアイ)
2023年9月設立。「すべての人にグローバルなリターンを届ける」を目標に、途上国・新興国に進出する企業を支援する事業に取り組んでいる生成AIスタートアップ企業。ビジネス情報配信サービス「KiAI」を提供している。https://kiaifund.com/
Profile
茨城大学応用理工学野教授 新納 浩幸 (しんのう・ひろゆき)
東京工業大学大学院情報科学研究科修了(修士)。富士ゼロックス株式会社、松下電器産業株式会社を経て、1993年茨城大学工学部に着任。1997 年博士(工学)を取得後、現在に至る。専門は自然言語処理、機械学習。
Profile
株式会社KiAI CEO 大場 一雅 (おおば・かずまさ)
これまで世界銀行グループ、三井住友銀行、OECD、在米日本大使館、国際労働機関、みずほ証券で活躍し、世界の各地域での駐在経験をもつとともに、データサイエンスとAIにも精通。フランスのパリ第一大学人文社会科学修了。
強力な人的ネットワークを駆使して収集した情報を、AI技術で最適化
2024年、株式会社KiAIに茨城大学発ベンチャーの称号が付与された。茨大の教員や学生・卒業生が創業者とならない企業への付与は初の事例だ。
国際機関などで働いた経験をもつ同社の大場一雅CEOは、茨城県による「茨城県北地域おこし協力隊【起業・複業型】(KENPOKU PROJECT E)」の事業をきっかけに日立市を拠点とする活動をスタート。2023年9月に株式会社DEVELOPTONIAとして同社を起業。その後、主力サービス名に合わせて株式会社KiAIに名称変更した。「人口減少が著しい県北地域でスタートアップを起こし、ビジネスを通じて地域にインパクトを与え、課題解決に挑めるのは非常にやりがいがあると思いました」。日立市のコーディネートにより同じ日立市内にある茨城大学工学部とつながり、ビジョンに強い関心をもった新納浩幸教授が協力に名乗り出た。自然言語処理・機械学習が専門の新納教授は、現在同社で最高AI責任者(CAIO)を務める。
同社が提供する「KiAI」というサービスは、海外の多様な国・地域でのビジネスに役立つような情報を、独自の生成AI技術によって収集・分析し、最適化して顧客にレポートするというもの。利用者は地域やカテゴリを選択して必要な情報をほぼリアルタイムに入手できる。現在、官公庁や商社、銀行、観光業界など幅広い業種から関心を寄せられているという。
情報源には現地政府がもっている公式データも含まれる。大場CEOは日々、世界中の新興国などを飛び回り、オフィシャル情報の提供と活用に関する協定を各国と締結している。
「途上国、新興国はリソースが足りていないため、外国からの投資や企業進出を呼び込むことが政府の優先事項になっています。一方、海外企業が投資や進出の意思決定をするには、それに足る情報が必要なのですが、新興国はそうした情報を出すのにもリソースが限られているのです。そこで我々が必要な情報を特定し、着実に成果につなげていく。各国ともそれに期待してくれています」(大場CEO)
とはいえ各国が出している情報は、様式も質もバラバラだ。それを最適化するのが、新納教授が手がけてきたAIの技術。「フォーマットにばらつきがあってもAIで必要な部分を取り出せるよう、裏側の仕組みを開発しています。一旦英語に翻訳してから前処理をして、さらにカテゴリと結びつけるプロセスももちろんAIがやっています」と新納教授。全国各地に国立大学があり、こうした技術をもった研究者や卒業生が身近にいるということが、地方でもスタートアップの活躍を可能にする。
KiAIの注目は加速度的に高まっている。アメリカのベンチャーキャピタルである「500 Global」やスタンフォード大学の「StartX」といったアクセラレーションプログラムにも採択された。同社の成長は世界とつながる「日立」の新たな光になりそうだ。
新納教授が語る、事業参加による研究・教育への好影響
KiAIのビジネスに関わることによって、研究にも教育にも明らかにポジティブな影響が出ています。
それまでは論文ばかりを追いかけてきたところがありますが、論文の場合はたいてい実験的にプログラムを動かしているだけなので、実際の社会の現場でどうなっているかは実は分かりません。ユーザーにどう届いているかというフロントエンドの部分は勉強したこともないですから。それが、市場のニーズを踏まえながらアルゴリズムを開発していくとなると、最先端のところを追いかけていかなければならない。トレンドとなっている製品だとか、今企業はこういうことをやっているということをウォッチできるようになって、そこから研究のヒントをたくさん得ることができています。学生に教える上でも、そうした知識があればもっと良い教育ができると実感しているところです。私の研究室の学生たちもインターンシップで参加して、「大学で学んでいることが社会で役立つという手ごたえをやっと感じることができた」と話しています。(談)
この記事は茨城大学の広報紙『IBADAIVERS(イバダイバーズ)』に掲載した内容を再構成したものです。
構成:茨城大学広報・アウトリーチ支援室 | 撮影:小泉 慶嗣