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日本海拡大後に棚倉断層帯は右横ずれ運動をしたことを発見
-地質調査が明かす棚倉断層帯の運動の逆転 列島形成史の解明の手がかり-

 茨城大学基礎自然科学野の細井 淳助教らのチームは、国内最大級の大断層の一つである棚倉断層帯を対象とした地質調査と分析により、棚倉断層帯は日本海拡大後に生じた本州と伊豆―小笠原弧の衝突によって、右横ずれ運動を起こしたことを明らかにしました。

 棚倉断層帯は茨城県北部から福島県へのびる断層で、日本列島の地質を二分する巨大な断層とも考えられています。しかし、断層運動史には諸説あり、いつ、どのような方向にずれたのか、未解明な点がまだ多くあります。そこで本チームは棚倉断層帯の断層露頭や断層周辺の地層の調査、解析を行うことで、断層の運動センスとその運動時期の特定を試みました。結果、棚倉断層帯は約1600万年前以降に右横ずれ運動をしたことが判明しました。棚倉断層帯周辺の地殻の応力を考慮すると、この右横ずれ運動の原因は、日本海拡大後に生じた本州と伊豆―小笠原弧の衝突による影響が最も妥当であると考えられました。

 棚倉断層帯は日本海拡大の際には左横ずれ運動だったと考えられています。したがって、日本海拡大後、伊豆―小笠原弧が本州に衝突を開始することによって、棚倉断層帯は左横ずれから右横ずれ運動に逆転したことが考えられました。この成果は、今の日本列島(特に関東周辺)の地形や地質構造の形成史の解明の手がかりとなります。

 研究内容は、2025930日付で地球惑星科学系の国際英文誌『Progress in Earth and Planetary Science』に掲載されました。

背景

 棚倉断層帯は茨城県北部から福島県へのびる国内最大級の大断層の一つで、日本列島の地質を二分する断層とも考えられています(1、風景写真)。棚倉断層帯の運動史解明は、今の日本列島の地形や地殻構造の形成史、地殻変動の歴史を解明する手がかりになります。しかし、その運動史については、諸説あり、議論の決着がついていません。

 そこで研究グループでは、棚倉断層帯とその周辺の地質の調査、分析を行い、棚倉断層帯の運動史解明を目指して研究を行いました。

図1 棚倉断層帯の地形写真。鍋足山から撮影。断層に沿って直線状の谷(断層谷)が形成されている。
図1 棚倉断層帯の地形写真。鍋足山から撮影。断層に沿って直線状の谷(断層谷)が形成されている。

研究手法・成果

 棚倉断層帯の運動史を解明するために、3つのアプローチを用いて研究を行いました。1)棚倉断層帯の断層露頭そのものの調査(断層面上や断層破砕帯を調べることで、断層の運動センスがわかります)。2)断層沿いに分布する変形した礫(砂利より大きな石ころ)の解析(変形様式から断層の運動センスを推定できます)。3)地層の年代測定による断層の運動時期と地層の後背地(地層を構成する砂や礫をもたらした供給地)推定(断層の活動時期と運動センス推定が可能です)。

 これらの調査、分析の結果、いずれのアプローチにおいても、棚倉断層帯は右横ずれ運動をしたことが判明しました(2)。すなわち、断層面上には水平にずれたことを示す、水平方向の傷が残されていました。加えて断層破砕帯には、右横ずれ運動を示す特徴的なズレや粒子の配列(リーデル剪断面)、非対称なS字形の砕屑物がありました(2)。地層中には、調査地から南南西方向に約10~20 km離れた位置にある日立変成岩類の粒子を含まれていました。これにより、調査地は元々日立変成岩類の分布地域近傍に位置しており、それが断層の右横ずれ運動によって日立変成岩から遠く離れた今の位置まで移動したことが考えられました(3)。以上より、棚倉断層帯は右横ずれ運動をしたことがわかりました。また、断層運動の時期は約1600 万年以降であることも判明しました。

 棚倉断層帯は約1720~1660万年前頃、日本海拡大に伴って左横ずれ運動をし、棚倉断層帯周辺では急速な沈降と地殻の回転が起こったと考えられています(関連記事1)。したがって、1600万年前以降、棚倉断層帯は左横ずれから右横ずれ運動に逆転したことがわかりました。

 日本海拡大後、伊豆―小笠原弧が本州に衝突を開始したことが知られています。日本海拡大後の棚倉断層帯周辺の応力を考えると、棚倉断層帯の右横ずれ運動は、伊豆―小笠原弧の衝突が原因である可能性が妥当だと考えられました。

 以上のことから、棚倉断層帯は日本海拡大後、伊豆―小笠原弧が本州に衝突を開始することによって、左横ずれから右横ずれ運動に転換したことが考えられました(4)。

図2	棚倉断層帯西縁断層の露頭写真 当該断層の右横ずれ運動に伴った構造(リーデル剪断面:R1やP、写真cの非対称構造)が発達する。図は本成果論文の図を引用・改変。
図2 棚倉断層帯西縁断層の露頭写真 当該断層の右横ずれ運動に伴った構造(リーデル剪断面:R1やP、写真cの非対称構造)が発達する。図は本成果論文の図を引用・改変。
図3 日立変成岩類の粒子の供給と棚倉断層帯の右横ずれ運動の概略図。 スケールはなし。図は本成果論文の図を引用・改変。
図3 日立変成岩類の粒子の供給と棚倉断層帯の右横ずれ運動の概略図。 スケールはなし。図は本成果論文の図を引用・改変。

今後の展望

 棚倉断層帯周辺では、日本海拡大時に沈降しましたが(関連記事)、その後に隆起に転じたことが明らかになっています。この隆起運動は、本研究で明らかになった棚倉断層帯の運動の逆転によるものかもしれません。この関係を明らかにするためにも、棚倉断層帯周辺における古応力の変遷について解析を進めています。これによって、日本海拡大~伊豆―小笠原弧衝突による棚倉断層帯の運動史とその周辺地域の地殻変動史を結び付けることができ、今の日本列島(特に関東周辺)の地質構造形成史の解明につながることが期待されます。

 また、研究代表の細井は棚倉断層帯周辺の詳細な地質図(5万分の1地質図幅「大子」、産業技術総合研究所発行)の整備を進めており、今年度内に刊行予定です。この地質図は棚倉断層帯周辺地域における学術資料としてだけでなく、土木建設や防災減災、観光、資源探査など幅広い分野で利活用される基礎地質データになります。

図4 日本海拡大~伊豆―小笠原弧の衝突の概略モデル 日本海拡大はJolivet et al. (1994, 1995) とHosoi et al. (2023)、伊豆―小笠原弧の衝突は本成果論文の図を引用・改変。
図4 日本海拡大~伊豆―小笠原弧の衝突の概略モデル 日本海拡大はJolivet et al. (1994, 1995) とHosoi et al. (2023)、伊豆―小笠原弧の衝突は本成果論文の図を引用・改変。

研究助成等

本研究の一部は、JSPS科研費の若手研究(19K14822)および基盤研究C23K03538)(いずれも代表者は細井 淳)による助成を受けています。

論文情報

  • タイトル:Miocene dextral movement on the Tanakura Fault Zone, Japan: Strike-slip fault inversion due to arc–arc collision
  • 著者:Jun HOSOI, Tohru DANHARA, Hideki IWANO, Takafumi HIRATA
  • 雑誌:Progress in Earth and Planetary Science
  • 公開日:2025/09/30
  • DOI:10.1186/s40645-025-00762-y

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https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2023/pr20230626/pr20230626.html
(国立研究開発法人産業技術総合研究所HP

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