躍進する茨大発ベンチャーとスタートアップ 
新たな拠点をつくり、事業創出を加速

 大学の現場は新たな技術・産業につながるシーズの宝庫です。近年、大学の研究シーズを活かした大学発ベンチャー、大学発スタートアップの起業が、全国でさかんになっています。茨城大学でも2023年、2024年と立て続けにスタートアップを創出。今後も複数の起業の事業が動き出す見通しです。大学発ベンチャー&スタートアップ創出を加速させるため、茨城大学では起業を促進するための制度の変更や、東京都内の拠点形成などの取組みを進めてきました。
 勢いづくその現状と未来について、本学研究・産学官連携機構(iRIC)の副機構長を務める酒井宗寿教授に話を聞きます。

CIC Tokyoに入居する企業・個人のロゴが並ぶボードの前で、茨城大学のロゴに手を添える酒井教授

Profile

茨城大学研究産学官連携機構 教授・副機構長 酒井 宗寿 (さかい・むねとし)

2004年、筑波大学大学院地球科学研究科修了。博士(理学)。2018年、茨城大学研究・産学官連携機構に着任し、研究成果の技術移転や他大学等と連携した研究者育成プログラムのコーディネート、大学発スタートアップの創成などに注力。茨城大学原子科学研究教育センター(RECAS)にて社会/地域課題共考解決室室長も兼務する。

スタートアップ促進のための環境を整備

 大学の研究シーズをもとにしたスタートアップ創出の動きは、イノベーションの振興と、大学の運営資金の獲得といった目的から、近年ますます加速しています。国では、国立大学の株式取得に関する規制を緩和するなど支援策を推進。本学でも教員の大学外での仕事の収入の上限規制を撤廃したり、大学の住所を大学発スタートアップの登記上の住所にできるようにしたりといった、スタートアップ促進のための制度の構築を進めてきました。

 こうした取組みが功を奏して、年1件ぐらいのペースで茨城大学発スタートアップが生まれるようになってきました。本学の教員規模からすれば大きな進展だと思います。その新たな流れを作ってくれたのが、2020年の株式会社Dinowの創業です。学内の機運醸成という点で、共同創業者の中村麻子教授がファーストペンギンとして挑戦してくれたことは大きかったですね。

 起業といっても、たとえば学生が自身のプログラミングの技術を利用して主に地域向けのサービスを立ち上げるのと、急速かつ大規模な成長を目指すスタートアップでは、アプローチが違います。前者なら地域の企業や金融機関などとの密な連携が鍵となります。茨城大学は県内の企業や自治体などの共同研究の件数が多いのが特徴ですから、この支援も引き続き重要です。一方、ディープテックやAIなどを使ったスタートアップとなれば、茨城だけではビジネスにならず、全国あるいは世界を見なければなりません。その競争から逃げてしまうと、いつまで経ってもベンチャーの会社として大きくなれないのが現実です。

 昨年(2024年)7月に東京都内に新たなオフィスを開設したのも、まさにこの理由からです。国内の投資の半分は東京からのものだというデータもあります。このオフィスが入っているCIC Tokyoは、業種の枠を超えた約300の機関が入居するイノベーションセンターです。他の国立大学や自治体のオフィスもいくつか入っています。共有スペースにはさまざまな国籍の人が集まっていて、毎日のようにピッチイベントが行われています。僕も英語でプレゼンをしました。この場にいると刺激を得られますね。ぜひ多くの教職員のみなさんに利用してもらいたいですね。

茨城大学東京サテライトオフィスの入り口
茨城大学東京サテライトオフィスの入り口

茨城の地域特性も後押しに。新たな連携も。

 茨城県自体もスタートアップ創出には力を入れていて、民間の投資を呼び込む仕掛けをどんどんつくっています。筑波大学との連携も強化していて、その意味で東京に近い茨城県の環境は、本学におけるスタートアップ創出にとって大きなアドバンテージです。政策的な流れもあって各地の大学でスタートアップのためのプラットフォームが形成されており、多くの場合は近隣エリアの大学や金融機関などと組んでいます。一方本学は、東京の大学が多く参加する「Greater Tokyo Innovation Ecosystem(GTIE)」という連合体に加わりました。昨年度はこのGTIEと連携したアイデアソンも、茨城大学の主催で2回開催。さまざまな領域の方に集まっていただいて、エネルギーや原子科学といった本学の強みとなる研究分野の社会実装について、かなり突っ込んだ議論ができました。

国による交付金を受け新拠点を創出。さらなる起業の活性化を促す。

 2023年創業の株式会社エンドファイトは、本学の成澤才彦教授と投資家の風岡俊希さんが共同創業したベンチャーです。風岡さんのような、いわばプロの経営者と、本学のニーズとをマッチングできたことは、やはり大きいですね。昨年は1.5億円の資金調達にも成功しており、当初予想していた以上にビジネス規模が拡大しつつあります。

 大学が大学発スタートアップを通じて収益を得る仕組みというのは、いわば「間接投資」なんです。大学は知的財産権を企業に提供する対価として、現金のかわりに、その企業のストックオプション(新株予約権)を取得します。その後、大規模な資金調達やIPO(新規株式公開)、M&A(企業買収)などで企業の利益が高まれば、ストックオプションの形でもつ大学の資産も高まる仕組みです。大学は各企業の経営には直接介入しませんが、IPOやM&Aという目標に向けては、伴走して支援していきます。

 そして、また新たな展開も見えてきました。今年4月、国による「中小企業産業技術・環境・産業標準政策推進事業費補助金(地域大学のインキュベーション・産学融合拠点の整備)」が本学へ交付されることが決まりました。これを活用して、日立キャンパスに「SAKURA BLOOM PARK」という新たな拠点がつくられる予定です。ぜひ期待していてください。

 あくまで個人的な展望としては、教員数の5%程度、30件程度の起業を目標にできればと思っています。今後は、原子科学研究教育センター(RECAS)における廃炉作業のためのデジタルツイン技術の研究やカーボンリサイクルエネルギー研究センター(CRERC)で開発に取り組んでいる、二酸化炭素回収のための新たなDAC技術の実装や、といったシーズが注目です。ここにきて次々に出はじめてきた芽を、着実に大きく育てていければと思います。

CIC Tokyoのエントランスで話す酒井教授

スタートアップ/茨大発ベンチャーに関するQ&A

Q.1 スタートアップとは?

A. スタートアップとは、革新的なアイデアから新たなビジネスを創出して、社会にイノベーションをもたらすような企業を言います。新規株式公開(IPO)や企業買収(M&A)といった出口(Exit)を早期に目指す点も特徴です。

Q2. 茨城大学発ベンチャーとは?

A. 茨城大学の研究成果または人的資源などを活用して起業したベンチャー企業に対しては、「茨城大学発ベンチャー」の称号を付与しています。これまで計10社(既に廃業している企業も含む)に称号を授与しています。

この記事は茨城大学の広報紙『IBADAIVERS(イバダイバーズ)』に掲載した内容を再構成したものです。

構成:茨城大学広報・アウトリーチ支援室 | 撮影:小泉 慶嗣

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