茨城大学学術研究院応用生物学野の朝山宗彦教授の研究グループは、シアノバクテリアSZ2と根粒菌ST1という、自然環境において共生関係にある微生物ペアを用いた新規共培養システムを開発し、バイオマス生産性の向上に成功しました。
これまで、微細藻類の単一培養では窒素欠乏条件下でのバイオマス生産が課題となっていました。それに対し、共培養システムのほとんどは人工的に組み立てられた微生物の組み合わせに依存しており、安定性や屋外培養の拡張性に懸念がありました。本研究ではこれらの課題を克服し、天然のペアによる共培養によりバイオマス生産の増加に成功しました。特に根粒菌ST1が生成するアンモニウムイオンがシアノバクテリアSZ2の成長を促進する因子(BIF: biomass-increasing factor)として機能することを示しています。
このシステムは、バイオ燃料やその他の有用な物質(糖質、脂質、タンパク質、色素等)生産のための、より経済的で持続可能なバイオリファイナリープロセスへの応用可能性を提示しています。
この研究成果は、国際科学誌『Applied Biochemistry and Biotechnology』(Springer Nature社)に採択され、2025年 9月1日にオンライン掲載されました。
背景
微細藻類やシアノバクテリアは、その高い光合成能力からバイオリファイナリーの資源として広く利用されています。特に、シアノバクテリアや緑藻は、ジェット燃料や軽油の原料となるアルカン(炭化水素)やバイオディーゼルの原料となるトリアシルグリセロール(TAG: triacylglycerol, 中性脂肪)の合成に貢献します。しかし、藻類は有用な脂質や炭水化物などの高価値化合物の費用対効果の高い生産には有用である一方、単一培養においてバイオマス生産性が窒素欠乏条件下で低下するという大きな制約がありました。
そこで注目されてきたのが、微細藻類と非光合成微生物の共培養システムです。共培養システムは、バイオマス、脂質、糖、タンパク質、色素、水素ガスなどの生産を促進し、バイオレメディエーション技術を支援するなど、バイオリファイナリーの応用において効果的なアプローチとして報告されています。しかし、これらのシステムのほとんどは人工的に組み立てられた微生物の組み合わせに依存しており、大規模な屋外運用における安定性や拡張性に懸念がありました。そのため、自然に共存する菌株に基づいた共培養システムの確立が、バイオリファイナリーの効率向上と実用化に伴うリスク低減につながると考えられています。
また、アグロバクテリウム、アゾトバクター、リゾビウム、シノリゾビウム、エンシファーといった根粒菌は、窒素固定能力を持ち、植物にアンモニウムイオンを供給する「土壌」細菌として知られています。しかし、水生環境における根粒菌のアンモニウム生産能力やシアノバクテリアとの相互作用については、これまで報告がありませんでした。
このような背景のもと、研究グループは、自然環境から得られた「天然のペア」である糸状性のヘテロシスト非形成シアノバクテリアSZ2と根粒菌Ensifer/Sinorhizobium sp. ST1を用いた新規な「水生」共培養システムを開発してきました。これまで細胞同士の相互作用に関する因子などについては不明でしたが、本研究ではその一端を明らかにしました。これは、同じ環境由来のシアノバクテリアと根粒菌の天然のペアの特定と相互作用のメカニズムに関する初めての報告です。
研究手法・成果
本研究では、静岡県修善寺の石垣から湿った土壌サンプルを採取し、そこから糸状性のヘテロシスト非形成シアノバクテリアHalomicronema sp. SZ2と根粒菌Ensifer/Sinorhizobium sp. ST1を「天然のペア」として単離しました(図1)。SZ2はオリジナルで、ST1細胞が共存するシアノバクテリア画分で混釈重層法により一度プレート上で単離を試みて得られたSZ2をSZ2*、更に、もう一度同様の方法で単離を試みて得られたSZ2をSZ2-3*としましたが、SZ2*、SZ2-3*のいずれもST1が少量共存していました。これは、SZ2とST1同士が強い絆で結ばれており、容易には分離できないことを意味しています。
SZ2とST1の「天然のペア」を用いて、混合栄養条件(coMC: co-culture under mixotrophic condition)と独立栄養条件(coAC: co-culture under autotrophic condition)の両方で「水生」共培養システムを開発しました。coMCでは、SZ2*とST1を、窒素欠乏培地(BG11-N)と酢酸ナトリウムを含む5Lのタンクで22日間培養しました。coACでは、SZ2*またはSZ2-3*とST1を、BG11またはBG11-N培地(50mL)で7または10日間、連続光照射下で静置培養しました。それぞれの培養条件下で生産されたバイオマスならびに各種物質の測定と分析を行い、結果を評価しました。
その結果、窒素欠乏条件下において、以下の重要な成果が得られました。
【① 共培養の種類】 coMCおよびcoACいずれにおいても共培養は可能でした。
【② バイオマス減少の克服】 coACにおいて、窒素が枯渇した状況下でもバイオマス増加が確認されました。
【③ 高価値化合物の生産増加】 coACにおいて、バイオマス生産を損なうことなく、ヘプタデカン(C17H36)を含む脂質、細胞外多糖(EPS)を含む炭水化物、タンパク質、およびクロロフィルa色素の生産が増加しました。特に、窒素欠乏条件下でST1が存在することで、C17-アルカンの生産量が約1.3 mg/L-培養から約4.3 mg/L-培養へと増加しました。
【④ SZ2の細胞外多糖(szEPS)】 SZ2細胞は窒素欠乏下で大量のszEPSを生産し、SZ2バイオマス(糖生産)増加に貢献していることが明らかとなりました。
【⑤ アンモニウムイオン(BIF)の役割】 根粒菌ST1がアンモニウムイオン(NH4+)を生産し、これがSZ2のバイオマス増加に寄与するバイオマス増加因子(BIF)として機能することを発見しました。窒素欠乏条件下では、ST1は培養液中の溶存N2ガスを窒素固定によってアンモニウムイオンに変換している可能性が示唆されました。さらに共培養上清(coBG11-N)をSZ2培養に添加することで、バイオマスが1.64倍、クロロフィルaが2.32倍増加し、BIF効果が確認されました。アンモニウムイオンはBIFとして硝酸イオンよりも優れた効果を示しましたが、至適濃度(約1〜5 ppm)を超えて高濃度(約 > 20 ppm)になると、かえって成長阻害因子となる可能性も示されました。
【⑥ 共存メカニズムへの洞察】 窒素固定をする場合、ニトロゲナーゼという酵素が活躍しますが、この酵素は酸化的条件下を嫌うので、より嫌気的な条件が必要とされます。通常、根粒菌は植物の根に共生する時に “根粒(root nodule)” を形成し、その中の嫌気的な条件下で窒素固定をしてアンモニウムイオンを生産します。本共培養では、シアノバクテリアSZ2側から発生する酸素は、根粒菌ST1のニトロゲナーゼ能を低下させる要因となりますが、窒素飢餓下では細胞外多糖(szEPS)が豊富に生産されてSZ2の細胞表面が覆われることで、SZ2側から発生する酸素の水中拡散を防ぎ、ST1のニトロゲナーゼ酵素の窒素固定能への悪影響を緩和する可能性が考察されました。一方、SZ2から放出される有機化合物(szEPSを含む)が、ST1のアンモニウム生産活動を促進するエネルギー源となる可能性も考えられます。
このように、本共培養システムでは、これまで知られていなかったシアノバクテリアと根粒菌の水中でのユニークな相互作用により、窒素欠乏条件下でもバイオマス増産が可能になることが明らかになりました(図2)。
今後の展望
本研究で明らかにされた共培養生産システムは、窒素欠乏条件下での従来の単一種細胞培養の欠点を克服し、将来の経済的かつ実用的なバイオリファイナリーに適した基盤情報を提供しています。今後は、ST1の窒素固定能力の評価ならびに、窒素枯渇条件下でのSZ2の窒素固定能力の有無について検証し、より一層の窒素固定メカニズムの解明が望まれます。また、アンモニウムイオン生産経路を強化する戦略を追求するとともに、アンモニウムイオン以外のバイオマス増加因子 (BIF) についても探究していきたいと考えています。これらの取り組みを通じて、共培養ダイナミクスへの理解を深め、より効率的で持続可能な次世代バイオリファイナリー技術開発へ貢献していきたいと願っています。
論文情報
- タイトル: Co-Culture of Cyanobacteria and Rhizobia, Increasing Biomass Under Nitrogen-Starvation Conditions
- 著者: Akari Takagi†, Nanako Machida†, Misato Nagao, Yu Kanesaki, Munehiko Asayama* (†Contributed equally, *Correspondence)
- 雑誌: Applied Biochemistry and Biotechnology
- 公開日: September 1, 2025 (Online publication)
- DOI: https://doi.org/10.1007/s12010-025-05353-7
関連特許
(1)発明の名称 「混合液混合種培養によるバイオ燃料生産技術」
特許第6603305号
登録日 2019.10.18

