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工・大村助教がヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展に出展
-生成AIを通じて考える 人間と人間でないものの対話と建築

 工学部都市システム工学科/応用理工学野都市システム工学領域の大村高広助教が、2025年1123日までイタリア・ヴェネチア各地で開催中の第19回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展に、出展作家として選ばれました。大村助教に作品の狙いや、これからの時代の建築について話を聞きました。

大村高広助教

 イタリアのヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展といえば、世界でも有数の権威ある建築国際展だ。万博のように各国がパビリオンを持つ。今回の全体のテーマは『インテリジェンス-自然知能、人工知能、共同知能-』というもので、それを受けて日本館では「中立点(In-Between)」というテーマが設定された。
 日本館のキュレーターは磯崎新事務所で活躍した青木淳氏。大村助教は青木氏に声をかけられ、アーティストの藤倉麻子氏とのユニットでコンペに参加し、今回の展示が決まった。

大村 青木さんから与えられたお題は、「生成AIと建築」でした。生成AIによる最も本質的な変化のひとつは、データ分析やプログラミング、コンテンツ生成といった多様なタスクが、自然言語による対話的インターフェース(チャット)を通じて実行されるようになった点にあると思います。このような認識から、〈建物〉が生成AIの力を借りて自然言語で語ることが可能になったとしたら、彼らは人間といかなる対話を交わし、どのような論理や欲望に基づいて自己変容を志向するのか、という問いが立ち上がりました。

このような背景から私たちが制作したのは、建築の一部をアクターに見立てた、いわば「建築演劇」のようなもの。日本館の構成する要素──〈穴〉〈壁柱〉〈四周壁〉〈ペンシリーナ〉〈煉瓦テラス〉〈斜め軌道リング〉〈一位の木〉──が人格を持ち改修について語り合うという筋書きのもと、対話が展開し、そこに人間が介入していくというものです。展示空間には、そうした物質的であったり非物質的であったりするアクターの声が響いている。

日本館は中心部に穴があることが特徴。この穴はガラスなど入っておらず、外部と直接つながっているんですね。藤倉と僕のユニットは日本館の展示室内部を担当、対してもう一組の出展作家である「砂木」(木内俊克氏と砂山太一氏のユニット)が外部空間を担当しました。

展示の様子
撮影:高野ユリカ

 大村助教らが手がけた内部の展示では、左にCG映像、右に実写映像、真ん中に補足的なCG映像という3面(+字幕モニター)の17分間の映像を設置。左のCGは、建築のアクターが喋ると、その要素が現実化するという映像。たとえば「赤い壁」というセリフにあわせて実際に赤い壁が出てくる。アクターのセリフには、自らの物性に従って自然法則を捻じ曲げられるなどのルールを設定し、荒唐無稽な作り話にならないようにした。

映像の一部
藤倉麻子+大村高広《Construction Video》(2025年)より。「まさか…! オレンジ色のトゲトゲとした、こんもりとしたアレが手を広げて待ち構えるその中に…? 私はアレが怖いんです!」というセリフを映像化したもの。©︎Asako Fujikura + Takahiro Ohmura

大村 最初は、〈穴〉が〈壁柱〉や〈四周壁〉と話しています。この穴、過去の展示でしばしば邪魔とされてきたもので、実際に塞がれていた時期もある。その〈穴〉が塞がれるべきかどうか自問自答している。会話は象徴的な仕方での〈穴〉の解釈を回避しつつ、4つの壁柱と動線リングを連動させた「回転建築」として日本館を捉え直します。〈穴〉は回転の軸となり、最終的に様々な「外」をこちらとつなぐ存在として位置づけられる。

会場である日本館は、4体のT字型の壁柱ユニットが風車状に回転接続される構成なのです。よくよく観察すると、この建築における中央の穴は、床や天井に「意図的に開けられた」ものではなく、構造体の回転運動の余白として「結果的に残された」ものであることがわかる(4畳半の中心の炉のようなものですね)。対話のシナリオはこの日本館の「回転性」を演劇的に開示・共有する一種のチュートリアルになっているのです。

映像の一部
日本館の構造体の「回転接続」を示した映像。藤倉麻子+大村高広《Object Video》(2025年)より。©︎Asako Fujikura + Takahiro Ohmura

 右の映像では5人の男女が食事をしている。5人は時折、左の映像のアクターの会話に反応して、ばっと観客側に振り返って反応する。観客には、モノと人間の対話が成立しているように見える。

大村 ここで表現しているのは、人間が(自然環境やAIを含めた)非人間をコントロールすることでも、非人間が人間をコントロールすることでもないということです。異なる存在らが、それらの通訳不可能性を温存したまま「共にある」ことの可能性がテーマでした。ここでの「共にある」は、接合でも断絶でもなく、「ずれたままつながる」という選択によって支えられている。

生成AIの出現をディストピア的に考えると、建築や都市の設計・施工が半ば自動的に進展し、統計的に「正しい」ものがどんどん作られていくという未来。そうではなく、AIと人間が共存するということはどういうことなんだろうか、そういう価値観を作品としてどう展開できるか、と考えました。

 生成AIの登場が建築にどのような影響をもたらすかは、建築研究者・実践者にとって大きな問いだ。大村助教は、自然言語(人間が日常で使う言語)が設計のインターフェースになることが最も大きいと言う。

大村 そもそも、建築の創造は様々なコミュニケーションのかたちに根ざしています。基本は図面ですが、スケッチしたり、メモしたり、言葉で指示したり。しかし生成AIが出てくると、自然言語を使ってプログラミングもできちゃうわけですね。では、自然言語が設計のインターフェースになることで何が起こるでしょうか。

自然言語は、情報としてはとても貧しいのです。「木が揺れている」という言葉はデータ量としては数バイトにも満たない。が、それを受け取る側が、自らの身体の経験や実感に即して、情報を「解凍」するわけですよね。ではそのとき、受け取り手の身体が人間ではなかったら何が起こるか。コンクリートの壁と会話して、僕が何か言っても、その言葉の意味を考える身体が僕と全然違いますから、意味の誤読や誤配は免れ得ない。生成AIは、自然言語の圧縮・成形がものすごくパターン化してしまう可能性があると思います。それに対し、違う身体同士が言語でコミュニケーションするときには、本来的には、そこで思いもよらなかったクリエーションが生じるはずなんです。少なくともその可能性はある。

ヴェネチア・ビエンナーレ日本館
ヴェネチア・ビエンナーレ日本館。撮影:高野ユリカ

 生成AIの進化にとって、自然言語の使用がボトルネックになっているという人工知能・人工生命の専門家もいる。反対に、自然言語を使っているからこそある種の創造性を持てていると考える専門家もいる。基礎的な実験では、自然言語を経由せずに情報をAI同士で受け渡すよりも、AI同士に言語を使わせて対話させた方が情報のやりとりがうまくいったという結果もある。「だから自然言語は必ずしもボトルネックではなく、AIが人間に合わせて自然言語を使うことによる、人間とAIの共創関係もありうるかもしれないのです」。

大村 今回の展示では、「展示空間=日本館」そのものを題材に、人間と非人間(AI)のそうした、ずれているからこそ生き生きしている関係性みたいなことを示そうとしている。すべてが尤もらしさで決まっていく世界のなかに、「ひとまず対話を続けること」を、ひとつの知性と創造性の、あるいは生と生成の枠組みとし、投げ込んでみたかったわけです。

 本作でおこなわれている対話は、物語や明確なメッセージを伝えることを目的としたものではないんです。映像から床へ。穴から外へ。音がもたらす散り散りの方向へ。そして再び映像へ……と、観客の注意は常に横滑りします。フィクショナルな映像経験と、目の前の日本館そのもの。観客の意識が両者を行ったり来たりするよう、映像の配置から16chのスピーカーを使ったサウンドデザイン、スツールのデザインなど、さまざまな工夫を凝らしています。作品を経験することが、建築と人間の出会い方、それ自体を変容させるようになっている。映像インスタレーションというかたちではありますが、だからこそここで自分がやっているのは、建築家の仕事だと思っています。

 建物に物理的に手を加えずとも、人間と人間でないものの対話を通じて、建物についての認識をリノベーションする。それは、かつての企業城下町ながら人口減少に見舞われる日立のような街の中で、どのように希望を見出すかという議論、研究にも接続する視点だ。
 AI
の存在が当たり前になっている今、工学部都市システム工学科で学ぶ学生たちや、建築の興味がある中高生たちに伝えたい、建築の魅力とは。

大村 今は過渡期ですね。カンブリア紀のように、いろいろな可能性が爆発的に増えている状況なので、これから大学に入学してくるのはAIを当たり前に使っている世代の学生たち。彼ら/彼女らがどういった建築と都市を創造するのか、僕自身楽しみです。価値感が急激に変わる只中に自分がいるんだ、と思ってほしい。それによって必ず、建築のあり方、家のあり方、都市のあり方は変わりますから。変えていくのは、ほかでもなく自分たちであると、思っていてほしいです。

展示の一部
いる場所によって映像の見え方や音の聞こえ方が変わる。「中立点に立つ」という感覚を実感した、という反応も寄せられているという。撮影:高野ユリカ
出展メンバーの集合写真
ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展 2025の出展メンバー。左から大村高広助教、藤倉麻子氏、青木淳氏、家村珠代氏、木内俊克氏、砂山太一氏。撮影:高野ユリカ

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