水田からの温室効果メタンガスの排出を微生物で抑制 世界のメタン排出の3%以上の削減めざす
農・西澤智康教授らの研究プロジェクトに大規模助成決定
―ビル&メリンダ・ゲイツ財団から383万ドル 海外研究機関と共同―
このほど、茨城大学農学部の西澤智康教授を代表者とする研究プロジェクト「M4NCO: Microbe mediated methane mitigation, nitrogen cycle optimization(微生物が介するメタン排出緩和と窒素循環最適化)」に、アメリカのビル&メリンダ・ゲイツ財団から約383万ドル、日本円にして約5億円規模の研究支援が行われることになりました。インド、コロンビア、ドイツの大学・研究機関とともに取り組むこの助成プロジェクトは、2024年8月に始動しました。
世界の環境に対する関心が高まる中、昨年(2023年)12月に開催された国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)では、気候変動対策の強化とともに、食料・農業分野の持続可能な発展に向けた協力が呼びかけられました。温室効果ガスのひとつとして知られるメタンは、気候変動に与える影響リスクが同量の二酸化炭素の約27倍とも言われ、生態系から発生するメタンの約4割は水稲や畜産などの農業分野から排出されています。
東南アジア、南アジア、ラテンアメリカといった地域の小規模農家では、メタンの大きな排出源となるような伝統的な水稲栽培がさかんに行われています。気候変動の対策に向けては、これらの地域の農家において、品種改良や高度な灌漑システム、畑で育てる陸稲などの新たな技術を導入することが必要といえますが、コストの面などからそれはきわめて困難な課題です。
こうした課題の解決に貢献するものとして注目されるのが微生物の活用です。西澤教授とともにプロジェクトに取り組む迫田翠助教(農学部)らの研究では、イネの根と相互作用するKH32Cというバクテリアの株を用いました。イネ種子にKH32Cを接種したのち栽培すると、水田土壌のメタン生成(メタン生成古細菌)とメタン消費(メタン酸化細菌)の群集構造が低メタン生成・高メタン消費型へと変動することが確認され、無施肥および窒素施肥条件下でイネの収量を維持したままメタン排出量をそれぞれ約20%削減することが確認されています。
本研究プロジェクトでは、今後3年間の計画で、KH32Cなどの植物生育促進効果のある微生物をイネの栽培体系に導入することによるメタンの排出削減や窒素の土壌への貯蔵に係る効果を、アジア・ラテンアメリカの多様な条件下で実証します。それにより、技術導入の簡便さ、接種微生物が土壌で増殖しないことによる環境への負荷の少なさなどのエビデンスを集めるとともに、若い研究者・技術者の育成も進めながらこれらの技術の普及を図ります。それにより世界のメタン排出量のうち3%以上(CO2換算で年間2400万t)を削減することを目標とします。
西澤教授は、「日本国内とアジアの稲作への技術転換と実装を模索していたときに、私たちの研究がビル&メリンダ・ゲイツ財団のみなさんの目に留まり、研究助成をいただくことができました。それにより、私たちがめざす温室効果ガス排出量削減の実現に大きく近づくことになりました。世界中の研究から科学的なイノベーションの種を見つけ、社会の進展のための高度なエビデンスの生成を支援する同財団の取組みに、感謝と敬意を示したいです」と話しています。
参考論文
- タイトル:Mitigation of Paddy Field Soil Methane Emissions by Betaproteobacterium Azoarcus Inoculation of Rice Seeds
- 著者名:Midori Sakoda, Takeshi Tokida, Yoriko Sakai, Keishi Senoo, Tomoyasu Nishizawa
- 掲載誌:Microbes and Environments
- 公開日:2022年12月14日
- DOI:1264/jsme2.ME22052