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茨城大学&動物園でつくる「ZOO SCIENCE JOURNAL」創刊!
―日立市かみね動物園・千葉市動物公園と共同 農・小針大助准教授に聞く

 茨城大学と日立市かみね動物園、千葉市動物公園の3者が、学術紀要「ZOO SCIENCE JOURNAL」を共同で創刊することになりました。3月25日には記念シンポジウムも開催されます。茨城大学と日立市かみね動物園の共同の取り組みが始まって約10年。その経緯や、共同で学術活動を進めることの意義、今後の展望などを、キーパーソンの農学部・小針大助准教授に聞きました。

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―「ZOO SCIENCE JOURNAL」はどんな雑誌?
小針「日立市かみね動物園、千葉市動物公園、茨城大学の3者でつくる学術紀要です。これから年1回発行して、WEBサイトで公開していきます。本学の学生や教員、各動物園の飼育員さんや獣医さんによる論文が中心ですが、それ以外にも飼育員さんたちが1年間の仕事で気付いたことなどを自由な文字数で振り返る報告記事も載せ、研究者だけでなく動物園が好きな方々が気軽に手に取ってもらえるようなものになっています」

―第1号にはどんな記事が?
小針「事例報告が多いですね。たとえば『人工保育となったチンパンジーの早期群れ復帰事例3例』とか、『給餌方法の変化によるアカハナグマの行動への影響』、あるいは日立市かみね動物園らしいものとしては、『飼育下雌ウミウにおける血液生化学検査値』という獣医さんの報告もありますね。学生が関わったものとしては、『獣舎改装工事による運動環境の変化が飼育下のキリンの行動に及ぼす影響』というテーマもあります」

―両動物園と茨城大学の関係は?
小針2014年に日立市で開催された動物園関係のシンポジウムの場で、かみね動物園の生江信孝園長にお会いし、『何か一緒にできたらいいですね』という話になったのが始まりです。その後2015年から本学の推進研究プログラムや茨城大学研究拠点事業に採択いただき、2020年からはZOO SCIENCE HUBZSH)という名前で共同でのプロジェクトを発足し、千葉市動物公園も加わった形です」

―具体的にはどんな共同の活動を?
小針「ひとつは学生の教育、研究のフィールドとして動物園を活用させていただいています。何十年と動物を飼育している動物園のスタッフの知識や経験が、学生たちが調査を進める上でとても大事なものになるんですよ」

―飼育員の方からはたとえばどんな助言がありますか?
小針「動物管理の専門家として長年の知識と経験に裏打ちされた指導を、いろんな場面で的確に与えてくださるんですよね。その助言は、たとえば動物の行動のデータを取るにあたって『この個体は警戒心が強いから、こういうふうにカメラを取り付けると警戒されてうまく撮れないよ』というような、一見些細な場面でさりげなくあらわれる。こうした言葉ひとつひとつが学生にとっては耳を傾けるべきプロの至言であり、その言葉の背景にある専門知の深みを意識する、大事なきっかけとなっています」

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―動物園側にはどんなメリットが?
小針「現場で抱えている課題を一緒に解決できればと思い、普段から情報交換をしています。そうした日々のコミュニケーションから発展した例として、サシバエという吸血昆虫の対策があります。ただ駆除するだけでは単なる対処療法に過ぎないので、一緒に検討をした結果、動物園の中のどこで発生し、季節的にどう繁殖しやすいかを調べ、制御できないかと考えました。この研究には工学部の北野誉先生にも分析に参加してもらい、現在では他の動物園も一緒に加わった一大研究プロジェクトとして育っています」

―時間をかけて良好な関係をつくってきたのですね。
小針「最初学生たちを連れて動物園へ行った頃は、現場のみなさんも緊張された様子でしたが、それから10年近く経って、今では『あ、こんにちは』みたいな感じで自然体でお付き合いできています。事前にしっかりアポをとって会いに行くというだけでなく、ふらりと行って雑談しているうちに相談やアイデアにつながるような、そんな関係づくりを目指してきました。今はSlackでも気軽に情報交換しています」

―飼育員さんや獣医さんと一緒に学術的な研究・発信に取り組む意義は?
小針「それを考える上では、日本の動物園の危機意識を知っておく必要があります。日本はアメリカ、ドイツなどとともに世界で3本指に入るくらい動物園が多い国ですが、全国どこの動物園に行ってもゾウのような動物やゴリラなどの大型類人猿が見られる現在のような状況は、長くは続かないかもしれないのです」

―どういうことですか?
小針「そもそも飼育下での繁殖自体が難しいということもあるのですが、ゴリラなどは国内の動物園で協力して交配をしてきた結果、みんな『いとこ』同士のようになってしまい、系統保存が難しくなってきているということもあるんですよ。かといって、いまや野生から連れてくるわけにもいかないのです。2030年後には動物園にニホンザルやタヌキしかいないということになってもおかしくありません」

―存在意義を問われている?
小針「まさにそういうことです。動物園とは何か、本当に必要なのか、と。ですから動物の展示ということだけでなく、保護や管理の拠点として知見を重ね、さらにそれを地域の環境保全にも活かしていくようなアプローチが大事になってきています。かみね動物園が日立のウミウの保護・管理にも携わっているのもその例ですね」

―飼育員さんや獣医師さんの研究発信活動はまだ限られている?
小針「熱心に学術論文を発表している飼育員さん、獣医師さんももちろんいますが、実際にはみなさんかなり忙しいんです。アメリカやドイツに比べると専門分化が進んでいなくて、飼育員さんが日々の飼育管理からエデュケーター、リサーチャーの役割まですべて担わないといけないですから。
 研究や教育でお世話になる中で、現場の飼育員さんや獣医さんが培ってきた暗黙知や技術といった知的資源には、いいものがたくさんあると感じてきました。それらは口伝や徒弟制度の中で受け継がれてきたものの、途絶えてしまったものも全国的に多いんですね。それをちゃんと形にして残さなければという想いが、今回の創刊の最大のきっかけになっています」

zoo_science_journal03 ―飼育員さんたちの学術活動をどのようにサポートしている?
小針「まずは気軽に学術の世界に親しんでもらえればと思い、コロナ禍前は、かみね動物園へ行って、34か月に1度のペースでカジュアルな勉強会を開いていました。学内のいろんな先生に協力してもらい、動物の話だけでなく経済の話や工学の話など、いろんなことを学べる場をつくったんです。
 また、2年ほど前に国際環境エンリッジメント会議という国際会議があった際は、うちの学生たちとともに飼育員さんにも英語での発表にチャレンジしてもらいました。一見ハードルが高そうですが、私も英語のサポートなどをしながらエンカレッジしました。そこでの成功が自信になれば、次のステップにつながっていきます。
 また、今回のジャーナルにおいて、論文だけでなく短い活動報告のコーナーを設けたのも、動物園のすべてのスタッフのみなさんにこのジャーナルに関わってほしいという想いからです。『私は研究まではちょっと...』という方も含めてどうつないでいくか。成果ばかりを求めるのではなく、ひとりひとりの声に耳を傾けながら、そういう方も巻き込める仕掛けをどう作るかが大事だと思います」

―ジャーナルを今後どのように育てていく?
小針「まずは今の3者で無理なく始めていきたいと思いますが、将来的にはもっとオープンなジャーナルにしてもいいですよね。あるいは今回の取り組みを、地方国立大学と近隣の動物園の共同での活動のひとつのモデルと捉えてもらえて、他の地域でも同じような仕組みが生まれてきたらな、とも思います」

ZOO SCIENCE JOURNAL創刊記念シンポジウム 開催決定!

 Zoo Science Journalの創刊を記念したシンポジウムが、325日(月)13:0016:15、茨城大学阿見キャンパスで開催されます。小針准教授が創刊の趣旨を説明する他、(公社)日本動物園水族館協会の村田浩一会長による基調講演、茨城大学・かみね動物園・千葉市動物公園からの報告などで構成しています。入場無料です。

ZOO SCIENCE JOURNAL創刊記念シンポジウム

動物園から未来をつむぐ~持続可能な社会に向けて記録して伝えること~

【日時】2024325日(月)13:0016:05
【会場】茨城大学阿見キャンパス 講義棟100番教室
【参加費】無料
【主催】ZOO SCIENCE HUB
【後援】公益社団法人 日本動物園水族館協会
【協力】茨城大学・日立市かみね動物園・千葉市動物公園

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