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「コーオプ教育でつくる茨城の未来」
―地域未来共創学環の開設を前に産学官で親密・率直な対話を

 大学と企業・自治体との教育の「共創」――言葉で言うのは簡単ですが、お互いの課題や思惑が常に一致するとは限りません。ただ新たな仕組みを作れば良いわけでもなく、胸襟を開いた親密かつ率直な対話ができる関係性や環境が大切です。
 1122日に開催した茨城大学地域未来共創学環開設記念フォーラム「コーオプ教育でつくる茨城の未来」は、まさにそんな「親密かつ率直な対話」が実践され、「共創」の確かな足音が聞こえてくる場となりました。

 茨城大学では、2024年4月、新たな学部相当の教育組織である「地域未来共創学環」を開設します。入学定員は40名で、その最大の特徴が、企業や自治体での有給の就業体験をカリキュラムに組み込んだ「コーオプ教育」です。自治体も含む本格的なコーオプ教育の必修化は国立大学として初の取組みで、既に茨城県内の34の企業、20の自治体が実習先として名を連ねています。
 そうした企業や自治体のみなさんは、普段はどんな課題を感じていて、大学との「共創」に何を期待・要望しているのでしょうか。その本音を伺い、これからの具体的な「共創」の足場を築くべく、実習先となっている企業・自治体の代表者をお招きしてのディスカッションを開催しました。

会場・オンラインを合わせて100名超の方に参加いただいた会場・オンラインを合わせて100名超の方に参加いただいた

 フォーラムの前半では、茨城大学地域未来共創学環の概要と、同学環のコーオプ教育の詳しい仕組みや展望を紹介しました。
 まずは、同学環の設置準備室の福与徳文室長がプレゼンテーション。地域課題の解決には、文系・理系を問わず、分野を横断した学びと、それらの知識・能力を現場で駆使できる高度な実践力が求められると説明し、同学環で身に付ける基礎として、ビジネス(経営・経済)、データ・サイエンス、ソーシャル・アントレプレナーシップの3つを掲げ、具体的なカリキュラムを紹介しました。

地域未来共創学環の概要を紹介する福与設置準備室長 地域未来共創学環の概要を紹介する福与設置準備室長

 このうちソーシャル・アントレプレナーシップは、「起業家精神」とも呼ばれるアントレプレナーシップを社会課題の解決に活かす姿勢・資質を指します。福与室長は、雪の多い地域において雪かきを体験事業にすることで海外からのインバウンドの増加につないだといった事例を紹介し、「地域の課題からコミュニティのビジネスを立ち上げていく、そうした力を身に付けてほしいと考えています」と語りました。

 そして今回のテーマである「コーオプ教育」。こちらは、設置準備室のメンバーである鈴木智也教授と佐川雄太UEAが詳しく紹介しました。

鈴木教授は豊富な事例を紹介しながらコーオプ教育やデータ・サイエンスについて説明 鈴木教授は豊富な事例を紹介しながらコーオプ教育やデータ・サイエンスについて説明

 鈴木教授は、コーオプ実習に取り組む同学環の学生が基礎として学ぶ「データ・サイエンス」が、具体的にどういうものであり、それをビジネスにどうつなげるかについて、自身の取組みを交えて説明しました。
「(企業・自治体の)みなさん、それぞれデータをお持ちかと思いますし、なければ取得して、それをビジネスに活かしていきます。学生たちが初年次から学ぶデータ・サイエンスは、数学の基礎、プログラミングや機械学習、情報倫理といったもの。それらを道具としてデータを加工し、可視化、予測、最適化、省人化といったアウトプットにつなげます」と鈴木教授。その実践例として、既に理工学研究科で取り組んでいる常陽銀行との機械学習・AIを活用した有価証券運用支援ツール開発の共同研究の活動を紹介しました。
 また、横軸に「ビジネス」と「データ・サイエンス」、縦軸に「調査・分析」と「活用」を配置した座標を使い、仮説構築からデータ分析、モデル化・シミュレーション、そして生産性向上・地域活性化へというプロセス説明。そのプロセスと具体的なカリキュラムとの関連を示しました。
 その上で、サッカーの試合における最適なパスの回し方を画像解析するAIの例などにも触れながら、「データ・サイエンスというと堅苦しいイメージがありますが、実は範疇はとても広い。ぜひ地域活性化に役立てることができれば」と展望を語りました。

 続いて、佐川雄太UEAが登壇。「UEA」とは「University Education Administrator」の略。同学環では、コーオプ実習をコーディネートする専門職として、実習の企画・運営、実習先と学生のマッチング、専門科目の履修アドバイスなどを担当します。

コーオプ実習のコーディネートを担う専門職の佐川UEA コーオプ実習のコーディネートを担う専門職の佐川UEA

 佐川UEAはまず、「地域のステークホルダーの皆様に、学環の教育に関わっていただき、将来活躍する人材を共に育てていく」という、同学環の共創教育体制を詳しく説明しました。
 3年生の「コーオプ実習Ⅰ」の就業体験は180時間。実習先にもよりますが、6時間×週3回の実習を2~3か月間にわたって行うイメージです。ほとんどの企業や自治体にとって、有給で学生の実習を受け入れるのは初めてのことですが、佐川UEAは、「コーオプ実習は、既に実習先で行われている業務の一部に携わり、学生が学環で学んだことを実践させていただくものです。内容については、教員の教育的観点からのアドバイスも踏まえ、UEAが実習先のみなさんと共につくり、常に調整を図っていきます」と説明。最後に、「企業や自治体に丸投げをするのでもなく、大学だけでつくるのでもない。ぜひ一緒につくっていければ」と呼びかけました。

 フォーラムの後半はパネルディスカッションです。地域未来共創学環のコーオプ実習の受け入れを表明してくださっている新熱工業株式会社、茨城いすゞ自動車株式会社、水戸市から、それぞれ大谷 直子 社長、豊﨑 悟 副社長、高橋 靖 市長に登壇いただき、太田 寛行 学長も加わって議論を展開しました。モデレーターを務めたのは社会連携センターの中村 麻子 センター長。中村センター長は、パネラーのみなさんそれぞれと以前より親交があり、最初から打ち解けた雰囲気で率直な対話が行われたのが印象的でした。

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 まずは人材面での課題について聞いたところ、新熱工業株式会社の大谷社長は、「人手不足は本当に深刻。ワーカーも技術者も間接員も足りない」と、厳しい状況を吐露しました。特に重要だと語ったのが、「主力部隊である設計、開発、製造に関わる人たちの負担を減らすためのサポート部隊」。具体的には、市場調査や統計分析を販売促進につなぐシステムや、過去の設計事例を検索して新人の設計者でもベテランの経験を共有できるようなシステムを作り、運用できるような人材を求めているとのことです。「そこが進めば、外国人や高齢者の方も製造員としてもっと採用できます」と語っていました。

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 茨城いすゞ自動車株式会社にとっても、人材の採用は同様に大きな課題です。2015年に同社に入ったという豊﨑副社長も、入社時から多くの時間を採用活動に費やしていたそう。「人材の課題には、数、スキルマッチング、志向性の3つがあると思っています。志向性については、安定して働きたいという思いはみんな持っているとは思いますが、企業としては、言われたことだけをやればいいというのではなく、自ら考えて動いてほしいというニーズがある。その点で、アントレプレナーシップをもった人材を活かしていきたいし、そういう方と一緒に働き、日本をよくしていきたいです」と豊﨑副社長は語り、茨城大学の取組みに期待を示しました。

 水戸市の高橋市長は、まず、「市役所の2000人の正職員のうち11%が茨大の卒業生。その中で茨城大学が教育を多様化し、今までとは異なる価値観や技術・技能をもった学生を市役所に送っていただけるのではと思い、期待している」と語りました。他方で、特に民間企業との競争の中で、土木・建設分野などの技術職の採用に苦慮していると述べ、その実態を詳細に紹介。「人材採用も、公共だからというだけでは通用しなくなってきている。良い人材を採用できなければ、良い市民サービスはできません。選ばれる市役所にならなくてはと危機感を強めています」と語りました。

231128_pict07 茨城県内の企業・自治体のみなさんにコーオプ教育への理解・協力をお願いするにあたっては、約2年前、同学環の構想ができた頃から、太田学長らがそれぞれの代表者を訪問し、説明と相談を行ってきました。
 その中で多くの企業・自治体の協力が得られた背景には、各事業者における人手不足をめぐる強い課題意識と、それでも地域から日本を良くしていきたいのだという、トップのみなさんの思いがあったということが感じ取れます。

 とはいえ、コーオプ実習は教育の一環であって、そこでの学生と企業・自治体とのマッチングが、必ずしもそのまま就職・採用につながるというわけではありません。
 そのことについて大谷社長は、システムのプログラミングを担っていた優秀な元社員が東京のIT企業へと「巣立っていった」という例に触れつつ、「でもそれは、社会貢献だと思うようにしています。ですから、このコーオプ教育も、自社で人材を抱え込むのではなくて、日本中にそういう人材を輩出していく、そういう広い心で取り組んでいきたいし、茨城大学と協力して盛り立てていきたい」と語ると、会場から拍手が沸きました。
 豊﨑副社長も、「巣立つ」ことに共感を示しつつ、「そのときはぜひ起業してほしいし、その事業を茨城いすゞとしても出資などを通じて応援したい。そして失敗したら戻ってくればいい」と話し、「そのくらい自分の会社の魅力を作っていかないといけない」として、太田学長から以前聞かされたという、茨城大学の初代学長の「野心満々たれ」という言葉を引きながら、「茨城大学の挑戦を応援したい」と語りました。

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 また、高橋市長は、「茨城大学で新しい教育が始まるというのは、水戸市のイメージアップにもつながる。茨城大学で学んだ人がこういうところで活躍していると評価されるような人づくりを、大学と地域社会、行政が一緒になってやっていき、好循環が生まれれば、選ばれる大学、選ばれるまちになっていく」として、「『共創』の名のとおり、いい人材育成機能を一緒につくっていきたい」と呼びかけました。

 太田学長は、パネラーと参加者に謝意を示した上で、「人が集まれば、そこに教育への関心が生まれ、お互いに学ぶ場をつくっていったというのが人間の歴史。茨城という場でこうして集まり、一緒に教育をつくっていけるのだということを、今日は改めて確認できました。まさに『野心満々たれ』の精神で、これから進めていきたい。みなさん、ぜひよろしくお願いします」と、最後に力強く語り、こうした率直な対話の場を継続的に開いていきたいという考えを示しました。

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