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カーボンリサイクルエネルギー研究センター、キックオフシンポ開催
―自動車に焦点あて産・学の第一人者と議論 寄せられた茨大への期待

 茨城大学が今年4月に新設した「カーボンリサイクルエネルギー研究センター(CRERC」。そのキックオフシンポジウムが62日に日立シビックセンターで開催されました。平日にも関わらず会場には約100人の参加者が駆け付け、オンラインでも約300人が参加するなど、注目の高さがうかがえました。

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 カーボンニュートラルの実現に向けては、二酸化炭素(CO2)の排出抑制の取り組みとともに、大気中のCO2を直接〈回収〉するDACDirect Air Capture)や、回収したCO2を使った新たな燃料の〈合成〉・〈利用〉といった「カーボンリサイクル」の技術も注目されています。
 茨城大学カーボンリサイクルエネルギー研究センター(Carbon Recycling Energy Research CenterCRERC[クラーク])は、これらの〈回収〉〈合成〉〈利用〉という3つのプロセスを一気通貫して研究できる国内随一の拠点として、今年4月に設立されました。
 今回のシンポジウムは、そのキックオフとして企画されたもので、脱炭素化社会の実現に向けた重要なターゲットのひとつである運輸、特に自動車に焦点を当てた議論が展開されました。

 はじめに講演を行ったのは、自動車技術・行政に詳しい早稲田大学名誉教授の大聖泰弘氏です。大聖氏は、「車は100年に一度の大変換期を迎えている」とし、産業自体の変革の必要性を強調。日本におけるこれまでの産学連携の取り組みの歴史を紹介した上で、ハイブリッド車、バッテリーへの外部充電の機能を持たせたプラグインハイブリッド車(PHEV)、100%電気で走る電動車(BEV)、さらには水素を使った燃料電池自動車(ECEV)といった自動車の燃料形態ごとのメリット、デメリットについて詳しく説明しました。

早稲田大学名誉教授 大聖泰弘氏 早稲田大学名誉教授 大聖泰弘氏

 その上で、産学官の枠を超えた最新の議論では、「BEVが主流になるが、それを補完する役割としてPHEVが有力。エンジンも動力源としてまだ生き残るのではないか」と述べ、さらに「水素という選択肢も含めて、今後10年ぐらいで絞り込みが進むと見ている」という見解を示しました。

 続いて、燃料化学を専門とする東京大学名誉教授の越光男氏が講演。越氏は、「脱炭素は今の技術では達成できずイノベーションが必要とされているが、日本のエネルギー基本計画では、どういうイノベーションかはわからないからひとまず全部やりましょう、ということになっていることが問題だ」と指摘。一方で、「最終的にDACが必要ということは、あらゆるシナリオに共通して書かれている」と述べました。

東京大学名誉教授 越光男氏 東京大学名誉教授 越光男氏

 越氏によれば、日本では「年間2050メガトンのCO2回収が必要になるのでは」とのことですが、国内でのDACの研究・開発はまだまだ進んでいません。課題となっているのは、貯蓄するにせよ再利用するにせよ、DACのシステムで一旦吸着させたCO2をもう一度脱離させるのにエネルギーが必要となる点だと言います。一方、CRERCのセンター長を務める田中光太郎教授らが研究を進めている「湿度スイング法」(後述)というDAC技術は、エネルギー負荷がきわめて低いという点で「大いに期待している」と話していました。

 ステージのプログラムは、その田中教授によるCRERCの説明へと移ります。

センター長を務める田中光太郎教授 CRERCセンター長を務める田中光太郎教授

 田中教授は、「電動化や水素自体が大事なのではなく、どうやってCO2の量を減らすかが大事」と、改めて研究の意義を強調。また、島国である日本においては、エネルギー備蓄のしやすさという観点から「合成燃料を液体でもつことが必要」と述べ、それらを含めた研究と社会実装を進め、5年以内に回収・合成・利用という「三位一体の実証研究」をキャンパス内で実現したいと宣言しました。

湿度スイング法

 その際、大きなアドバンテージになりそうなのが、前述の「湿度スイング法」というDAC技術の研究です。これはポリスチレン系陰イオン交換樹脂という物質をCO2の吸着材として利用するもので、乾燥→湿潤→乾燥というサイクルを繰り返すことで、外部エネルギーをほとんど用いずに常温でもCO2の吸着・脱離をすることが期待されています。既に研究室内の反応管のレベルでは吸着・脱離が確認されていることから、今後は規模を拡大しての実装を目指します。
 田中教授は、「運輸部門から排出されるCO2を回収するのに必要な吸着材は、東京ドーム8個分。それに必要な電力は日本の水力発電量の0.15%と見積もっている。がんばれば作れるし、川やダムに設置すれば実現は充分見通せる」と力を込めました。

 最後はパネルディスカッションとして、トヨタ自動車株式会社カーボンニュートラル開発部部長の中田浩一氏が加わり、今後注力すべきポイントなどについて議論が交わされました。
 ディスカッションに先立ち、自社の取り組みを紹介した中田氏は、「ひとつの方法だけではカーボンニュートラルは実現できず、マルチなパスを持っておく必要がある」と述べ、植物の非可食部分を活用した「第二世代」のバイオ燃料の開発・普及の取り組みなどを紹介しました。

トヨタ自動車株式会社 中田浩一氏 トヨタ自動車株式会社 中田浩一氏

 ディスカッションでは、今後の課題として、水素の調達方法や、炭素と同様に環境に大きな影響を与える窒素化合物の排出の問題などがとりあげられました。田中教授は、「ネックはやはり、燃料合成に必要な水素をどう確保するか。水素はその辺に落ちているわけでもない。まだ自分自身も回答は持ち得ていないが、そこを考えていかなければならない」と話しました。

ディスカッション

 それに対し、大聖氏からは「大学にCRERCのようなセンターが設立されたことは大きい。若い人がエネルギー分野で有能な力を発揮していただくことは大事。興味を持ってもらうような仕掛けを大学が発信してほしい」、また越氏からも「企業でできない研究を大学でやるというのは大きい。若い人の能力をどんどん高めてほしい」とエールが贈られました。

 最後に閉会の挨拶を述べた金野満副学長(研究・産学官連携)は、「脱炭素化は文明の大変革といえるが、生活、環境、エネルギーに気を配りながら、なるべく混乱を起こさずに進めていかなければならない。自動車は日本の経済の屋台骨。今日のシンポジウムで多様な選択肢があることがわかったが、それらの選択肢を世界に先駆けて持っておくことが日本の産業戦略の上で重要になり、本学としてはまずはカーボンリサイクルの技術開発を進めていく」と話し、大学や産業界の枠を超えた多様な人たちの参加を呼びかけました。

(取材・構成:茨城大学広報室)