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【動画あり】教育学部社会選修の「検地」再現
今回は農学部の附属農場でチャレンジ!

 教育学部では、社会選修の千葉真由美教授とゼミ生たちが中心となって、江戸時代の「検地」を古文書などの史料をもとに再現してみるという実践を続けています。2年前は水戸キャンパスの近くにある3000平方メートルの小さな圃場で挑戦。当時の様子が描かれた絵などを参照しながら道具も手作りし、半日かけて2つの区画の面積を測りました。

▼そのときの記事がこちら kenchi_pre.jpg

 技術選修や数学選修の教員も駆けつけて「教科横断」で取り組んだこの実践。このレポート記事は歴史ファンの界隈でちょっとした話題にもなりました。

教科横断

 しかし、千葉教授とゼミ生たちは水戸の小さな圃場での実践だけで満足することはありませんでした。実際、いくつかの課題が残されたのです。

 まず何よりも、検地に時間がかかり過ぎたこと。このときは1区画あたり少なくとも1時間近くはかかっていました。ところが検地について書かれた史料を見ると、1日あたり約300枚の圃場の面積を記録したものもあります。半日で2つというペースではとても間に合いません。
 また、もっと大きな区画を測りたいという欲求も生まれてきました。しかし、縦横の長さを測る際に使う麻縄は、あまり長くしてしまうと、ピンと張ろうとしても重みでどうしても弛んでしまいます。一度に測れる面積が限られるという、この問題をどうするか。
 そして、正方形や長方形に近いきれいな形ではなく、ちょっといびつな形状の圃場を測ってみたいという声も。そういう形の区画をどう補正して正確に測るか、そこに検地役人たちの知恵と手腕が問われているのです。

『羽陽秋北水土録』(秋田県公文書館所蔵)掲載の検地絵図図は「羽陽秋北水土録図絵」(玄福寺蔵)掲載の検地絵図

 これらの課題を検証するために、まずは水戸キャンパス内で数日間の実験を実施。その結果、広大な圃場については、適宜補正を加えつつ、複数の区画に分けて、測量→移動→測量→移動......というサイクルをもっとも効率的にこなせる工程を予め計画することが重要だとわかりました。試行を繰り返すうちに、1区画あたり2分以内のハイペースで測量ができるようになりました。

水戸キャンパス内での実験 水戸キャンパス内での実験

 また、実験を行ううちに、検地の際に使われる装飾のついた「細見竹(さいみだけ)」や「梵天竹(ぼんてんたけ)」の役割も見えてきたと言います。

左側が細見竹、右側が梵天竹 左側の竹ぼうきのようなものが細見竹、右側が梵天竹

「張った縄の長さを測る上で、なぜ梵天のような飾りが必要なのかと思っていたんです。でも広い区画で実践してみると、互いの距離感を身体感覚でつかむ上で、梵天のような目印はめちゃめちゃ大事なんだと気付いたんです」と千葉教授。
 当時の全国各地の検地帳は多く残されているものの、検地の方法を具体的に解説した資料はほとんど見つかっていません。しかし、実際に繰り返し「再現」をしてみることで、史料だけではたどり着かないような歴史の事実に迫ることも可能です。その意味でこの「検地」の取り組みは、歴史学の研究と歴史教育実践という両面で意義があります。

 さて、続いては検地をやらせてもらえるような広大な土地探し。どこか良いところがないかと探している中で、「阿見の農学部の農場を借りられないか」というアイデアが出てきました。その頃には検地再現実践のファンになっていた広報室員が間に入る形で、さっそく農学部附属国際フィールド農学センターのセンター長である農学部の佐藤達雄教授と、農場の管理を担当している技術職員の高田圭太係長に相談。するとすぐに興味を持ってくれて、「作付けに入る前だったら大丈夫!やりましょう!」と快諾を得ることができました。

 さらに、一昨年のように検地の様子をドローンで撮影したいと思っていると、話を聞きつけた工学部の齋藤修特命教授も協力に名乗りを挙げてくれました。ドローン(UAV)を使ったさまざまな研究をしている齋藤教授は、活動仲間であるドローンパイロットの廣瀬清一さん、写真家の小曽納久男さんを引き連れて、現場にやってきました(なんだか大がかりになってきました)。

 そして迎えた3月17日・金曜日。
「おはようございます」と、阿見キャンパスの農場の管理棟へ学生たちが続々と入ってきます。お揃いの羽織袴......ではなく、千葉教授が持参した実習用の黄緑色のジャンパーを羽織り、水戸から持ってきた検地道具を持って、いざ圃場へと向かいます。

いざ圃場へ

 今回検地を行ったのは、大きく括ると4つのエリア。3カ所は長方形に近い畑ですが、厄介なのが残り1カ所の牧草地。ワイヤーで囲われた土地は複雑な形状で、農場の職員も「正確な面積は特に測っていない」というような場所です。

 まずは農場の入口から見て奥に位置する畑で検地をスタート。全員で相談し、大きな土地は3~4区画に分けて計測します。さらに大きな土地は2×3の6区画に区分。これらの区画を一筆書きで回る最短のルートを決めます。
 奉行役の千葉教授が「はじめ!」と大きな声を発すると、学生たちが「はっ!」と返事をし、それぞれの持ち場に散らばります。その動きの鮮やかなこと!
 だいたいの位置、大きさを確認しながら、まずは細見竹持(さいみたけもち)が四隅に立って四角形を作ります。それとほぼ同時に(このスピード感がすごい!)、各辺の中点に梵天竹持(ぼんてんたけもち)が立ちます。あとは向かい合う梵天竹持同士を結ぶように2本の縄を張り、中央の十字木でだいたい直角になるように調整。竿を持って長さを測る「間竿持」役の学生が、それぞれの縄の長さを測って「5間半!」などと報告すると、帳面を持った千葉教授が「承(う)けたり!」と言って、その長さを記録します。

梵天竹持

 ここまでの1セットの作業にかかった時間をストップウォッチで計測すると、だいたい1~2分。その調子で6区画をスムーズに回り、大きな圃場ひとつを検地するのに要した時間は計約9分。ペースとしてはかなり良い感じです。

 問題の牧草地の方は、形状が複雑なだけでなく、ところどころに木も生えている(さらにウシさんの糞も落ちている)という難所。こちらも複雑な枠に小さな四角形をはめるように上手に区画を行って、牛舎のウシたちの熱い視線を浴びながら、木々を器用にかわすようにして測量していきます。こういうときは、まさに細見竹や梵天竹の飾りが大きな役目を果たしますね。

難所・放牧地

 1日の作業の様子をダイジェストとしてまとめたドローン動画がこちらです。

 取材者も疲れてしまうようななかなかの重労働ですが、学生たちの方はエネルギーに満ちていて、「あそこも測りたい」「もっとやりたい」とどんどん意欲が湧いてきていました。
 現代的な測量技術に長けている齋藤特命教授も、測量の長い歴史を体で学ぶこの実践には、「おもしろい!」と太鼓判を押していました。

 実際の面積との比較はこれからとのことですが、古文書だけではわからない検地の実際の姿に、これまで以上にまたぐぐっと迫れたのではないでしょうか。千葉教授たちの挑戦はこれからも続きます。

千葉教授たちの挑戦

(取材・構成:茨城大学広報室、ドローン撮影協力:齋藤修・廣瀬清一・小曽納久男)