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FAST材を適用した熱電発電モジュールで小電力路車間通信に成功
照明器具などの排熱を利用した自立電源の実用化と普及に見通し

 茨城大学理工学研究科(工学野)の池田輝之教授とNIMS(国立研究開発法人物質・材料研究機構)、アイシン高丘(株)、岩崎電気(株)のグループは、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の先導研究プログラムで、希少金属や毒性を有する元素を使用せず環境性能に優れる鉄(Fe)・アルミニウム(Al)・シリコン(Si)系熱電材料(FAST材)を適用した熱電発電モジュールの高性能化・低コスト化に取り組んでいます。今般、本事業で構築した低コスト製造プロセスで熱電発電モジュールを製作し、照明器具の排熱を利用して発電した電力による小電力無線路車間通信に成功しました。
 今後、照明器具や路側構築物などの小さな温度差を利用して発電することで、将来の自動運転を補助する路上のセンサーネットワークの電力供給を担う自立電源の実用化と普及が期待できます。
 なお本研究成果は、2023年2月1日から3日まで、東京ビッグサイトで開催される「nano tech 2023」で、IoT機器の試作機のパネルとともに展示されます。

熱電発電図1 開発したFAST材からなる熱電発電モジュール(2cm角サイズ)

IoT機器の試作機図2 IoT機器の試作機
(人感センサーと小電力無線通信機器および照明器具排熱発電システム)

 詳しくはプレスリリースをご覧ください。

概要

 近年、さまざまなデータを活用する超スマート社会の実現に向け、バイタルセンサー・温度センサー・人感センサーなどさまざまなIoT機器の爆発的増加が予想されており、多数のIoT機器に電力を供給する小型自立電源の開発が求められています。とりわけ、モビリティ分野では、自動運転技術の進展と並行して、車両にとっての死角をなくす道路側センサーによる安全サポート技術、道路側と車両(路車間)センサーなどとの情報交換を行うための自立電源技術が強じんなインフラ構築という面から重要になります。中でも温度差を利用する熱電発電はその一翼を担う発電技術として期待されています。
 このような背景の下、NEDOの「NEDO先導研究プログラム」(以下、本事業)でNIMS、アイシン、茨城大学は、2018年度から超スマート社会を支えるIoT機器用自立電源に向けて、低コストかつ希少金属や毒性を有する元素を使用せず環境性能に優れる鉄(Fe)・アルミニウム(Al)・シリコン(Si)系熱電材料(FAST材:Fe-Al-Si Thermoelectric Materials)の高性能化とモジュール化の技術開発に取り組みました。その結果、2019年度に低温熱源を用いてIoT機器の駆動やBLE通信に適用できるFAST材を用いた小型熱電発電モジュールを世界で初めて開発しました。
 FAST材は、[1]室温から200℃までの低温熱源を利用した発電が可能、[2]大気中で650℃まで優れた化学的・熱的安定性、耐酸化性を保有、[3]長期耐久性に必要な機械特性と小型発電モジュール作製に必要な加工性を兼備、という優れた特性を併せ持っています。一方で、路車間通信を行うIoT機器に取り付けて安定的に駆動させるためにはFAST材のさらなる高性能化と膨大な設置数量を鑑みた発電モジュール全体の低コスト化の両立が必要です。さらに、通信機器も含めた回路設計技術の確立が、社会実装に向けた課題として残されていました。
 そこで2021年度からアイシン高丘株式会社、岩崎電気株式会社を再委託先に加え、本事業の「新産業創出新技術先導研究プログラム/次世代交通システムを支える基盤自立電源の開発」で、より多くの発電量や高い信頼性が求められる発電モジュールの路車間通信への実装を見据え、FAST材の高性能化と製造プロセスの低コスト化の両立に取り組みました。今般、本事業で構築した低コスト製造プロセスで熱電発電モジュールを製作し、道路照明器具の排熱を利用して発電した電力による小電力無線路車間通信に成功しました。
 今後、振動や温湿度の変動が大きい屋外環境に適用でき、将来の自動運転を補助する路上のセンサーネットワークの電力供給を担う、照明器具や路側構築物の温度差などの小さな温度差を利用した自立電源の実用化と普及が期待できます。
 なお本研究成果は、2023年2月1日から3日まで、東京ビッグサイトで開催される「nano tech 2023 第22回国際ナノテクノロジー総合展・技術会議」で、IoT機器の試作機(図2)のパネルとともに展示されます。

今回の成果

【1】FAST材の高性能化と低コスト化の両立
 FAST材は容易に入手できる汎用元素のみで構成されるため、従来のビスマス・テルル(Bi-Te)系化合物による発電モジュールに比べて材料費を5分の1以下と大幅に削減できる可能性があり、また、毒性元素を一切含まないために、社会実装に適した新しい熱電材料として期待されています。今回、NIMS・茨城大学・アイシン高丘(株)が中心となり、材料合成過程における粉砕化工程の見直しとアニール(熱処理)条件の最適化により、FAST材の高性能化と低コスト化の両立に成功しました。

【2】高信頼性発電モジュールの開発
 (株)アイシンが保有する既存のBi-Te系冷却用ペルチェモジュールの製造・評価技術を応用し、開発に成功したFAST材の小型熱電発電モジュールの信頼性がBi-Te系既存モジュールに比べて高いことを各種耐久試験により明らかにしました。例えば、冷熱サイクル試験(85℃/-40℃、各30分保持)では、500サイクル後のFAST材を用いた発電モジュールはセラミックス基板、低コスト化につながる樹脂基板ともに、Bi-Te系モジュールの規格上限値である5%を大きく下回る結果を得ました(図3)。

比較

図3 冷熱サイクル耐久試験(500サイクル)の結果:FAST材からなる発電モジュール (セラミックス基板と樹脂基板)と既存Bi-Te系発電モジュールの規格上限値との比較

【3】路車間通信に成功
 開発した小型熱電発電モジュールは、2cm角のセラミックス基板に200対(計400個)のFAST材で構成されています(図1)。岩崎電気(株)が中心となり、この開発された熱電発電モジュールを熱源となる照明器具に設置し、数時間発電した電力をコンデンサーに蓄えて、人感センサーと通信モジュールに電力供給するシステムを構築しました。これにより、疑似的な路車間通信に成功しました(図4)。
 本成果により、センサー・自立電源一体型システムの構築が大きく前進し、超スマート社会を支える電源技術としての社会実装が期待されます。

路車間通信の概要

図4 路車間通信の概要

※道路脇の人感センサーと送信機から発せられた「人あり」を示す電波信号を走行車内で受信します。

今後の予定

 NEDOと実施5者は、FAST材の合成プロセスの最適化や組成・組織制御を通して、さらなる高性能化を図ります。また、モジュールの安定性や耐久性向上のため、接合技術を改善し、モジュール構成部材について、さらなる小型化、低コスト材の採用検討を進めます。これらにより、将来、日本国内で1兆個ともいわれるIoT機器の駆動を支える自立電源としての普及と使途範囲の拡充に貢献します。