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令和4年度茨城大学学長学術表彰、農・髙瀬唯講師が奨励賞受賞
―日本における緑地保全活動での市民参加促進のために

 1129日、令和4年度茨城大学学長学術表彰の表彰式・受賞記念講演会を実施しました。今年度は、農学部の髙瀬 唯 講師が奨励賞を受賞しました。

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 茨城大学学長学術表彰は、本学において先進的・独創的な研究を実施している研究者の特筆すべき成果をたたえるものです。学会賞や文部科学大臣表彰等を受賞するなど優秀な研究成果があった者に贈られる優秀賞と、若手研究者を対象とした奨励賞があります。

 今回優秀賞を受賞したのは、農学部の髙瀬 唯 講師です。髙瀬講師は造園学、ランドスケープ科学を専門とし、昨年(2021年)、「日本における緑地保全活動での市民参加促進の方針決定に関するプロセスモデルの構築」という論文により日本造園学会賞(論文部門)を受賞しました。

受賞記念講演「日本における緑地保全活動での市民参加促進の方針決定に関するプロセスモデルの構築」

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 このたびは栄えある賞をいただきありがとうございます。

 私は誰にでも緑や自然を享受する権利があると考え、その実現の障壁になっていることや、その解決策を見出したいと考えています。過去には環境系NPO法人にてボランティアコーディネート業務に携わっており、その経験も踏まえて市民参加型の景観、緑地マネジメントの計画手法について研究しています。

 地域における生物多様性保全の実現には、市民の方々による緑の保全活動が重要ですが、活動継続にあたっては参加者不足や活動メンバーの高齢化といった難しい状況に直面しています。私は市民による緑化保全活動への参加について定義を定めた上で先行研究を比較検討するとともに、市民や自治体などへのインタビューやアンケート調査を行ってきました。

 20132月に行ったアンケート調査では、全国の10代~60歳代以上の各年代の男女を対象に、緑地保全活動への参加経験と参加意欲の有無、参加動機と参加障壁に関する意識を調査しました。これまで活動メンバーの高齢化などが課題とされてきましたが、この調査からは、「今後保全活動に参加してみたい」という意欲は、年齢層や就労状況との関係が薄いことがわかりました。また、「いい運動になりそう」「自然について自分なりの新しい発見ができそう」といった参加動機や、「活動場所が遠い、交通の便が悪そう」「汚れそう、虫に刺されそう、暑い、けがしそう」などの参加障壁は、どの層でも多くの人が意識していました。
 一方、10歳代や学生だけが「活動中1人ぼっちになりそう、他の人とうまく会話できるか心配だ」という人間関係の参加障壁を強く感じており、50歳代以降や非就労層は体力不足を心配している傾向が見られました。これらの結果からは、共通した参加動機、参加障壁を意識した計画づくりとともに、どの年齢層をターゲットとするのかを明確にした参加促進が必要だということがいえます。

 次に、行政による活動参加促進のアプローチについて、全国の緑の基本計画策定済みの市町村を対象としたアンケートを行いました。自治体では保全活動へ携われる場の提供、資金や物品の補助、人材育成とその支援といった面でさまざまな支援、助成を行っています。一方、市民へのアンケート結果と比較してみると、自治体職員が考える「市民の保全活動参加への意識」と、実際の市民ニーズとの間では、参加障壁としての「活動意義(本当に自然を保全できるのか)」「活動場所(遠い、交通の便が悪そう)」に関する認識に大きなギャップがあることがわかりました。

 行政が対応しきれない市民ニーズに対応できる可能性があるのが、中間支援組織のボランティアコーディネートです。本研究では、市民個人が複数の地域の緑地の中から参加したい場所を選択できて、各地域の保全活動団体と協働して活動に携わることを可能とする「広域ボランティアコーディネート」を事例に、私自身もボランティアリーダーを経験してアクションリサーチを行いました。
 広域ボランティアコーディネートについては、参加者からも「気軽に参加できることがわかった」「達成感や充実感が得られた」といった声が聞かれた一方、団体への入会にまではなかなかつながらないということが課題なっているようです。また、ボランティアリーダーはそれぞれの地域にボランティアを引率し、参加者同士のコミュニケーションを促したり、作業の安全・進行管理をするのが役割ですが、「安全管理への配慮と場の雰囲気づくりの両立が大変」「自分自身が地域住民ではないので、雑談などに入っていきにくいときがある」といった悩みを抱えていることがわかりました。ボランティアリーダーには、これらに対応する高度な調整能力が必要だといえます。

 今後は、参加可能な時間・場所にあわせて活動できるような中間支援の仕組みの構築や、自治体における実活動へのコーディネートを含めたリーダー育成、各ターゲットの状況を踏まえた参加障壁の解消などが必要になってくるといえます。緑地保全活動の参加人口拡大に向けて、引き続き研究や活動に取り組んでいきたいです。

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