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茨大発ベンチャーの(株)Dinowが
令和4年度いばらき宇宙ビジネス事業化実証プロジェクトに採択

 大学院理工学研究科博士後期課程在学の高橋健太さんが代表を務める茨城大学発ベンチャー「株式会社Dinow」が提案した事業が、令和4年度いばらき宇宙ビジネス事業化実証プロジェクトに採択されました。昨年度の「いばらき宇宙ビジネス支援事業」の補助事業に続く採択で、事業への期待がますます高まります。代表の高橋さんに、同社の取り組みについて伺いました。

 2020年3月に設立された株式会社Dinowは、DNAの傷を可視化できるγ-H2AXアッセイという手法を利用し、放射線によるDNAへの影響評価、損傷の修復能力の評価、生活習慣評価の3つの評価サービスを軸としたヘルスケア事業を展開して、人びとの「健康」と「安心」を実現することを目指している企業です。理工学研究科(理学野)の中村麻子教授が共同代表を務めています。

 そのDinowの事業がなぜ「宇宙ビジネス」につながるのでしょう。
 宇宙空間には地上とは異なる種類の放射線を含む宇宙放射線が存在しているため、民間宇宙旅行者や宇宙ステーションのようなところで働く方々にとって、それらの放射線による健康への影響というのは重大な問題になりえます

 「様々な方からの助言もあり、昨年度から宇宙ビジネスに力を入れています。私たちの事業は『東日本大震災で被災された方々の放射線による健康不安を取り除きたい』という思いに端を発していますが、宇宙という広い視野で問題解決に取り組むことが、地上の方たちの不安の解消や期待にもつながるのではないかと思いました。2021年は民間宇宙旅行元年とも言われますが、宇宙旅行をするにも宇宙放射線による被ばくのリスクをはらんでいて、そこに対してのケアもいち早く行いたいのです。これまで取り組んできた「地上」と新しいビジネスである「宇宙」の2つの軸で健康不安を解消していきたいと思っています」と、高橋さんは宇宙ビジネスに参入したきっかけを話します。

 茨城県が宇宙ビジネスの発展に注力していることも、高橋さんの事業を後押ししました。ロケット、人工衛星製造の民営化や民間企業が手掛ける宇宙旅行など、国主導の宇宙に関わる様々な取り組みが進められている中、茨城県は平成30年に「いばらき宇宙ビジネス創造拠点プロジェクト」を始動。宇宙ベンチャーの創出や誘致のほか、県内企業の宇宙ビジネスへの参入を促進しています。同プロジェクトにおいて県では、コロナ禍においても宇宙ビジネスを海外へ展開しようとする企業を支援する「いばらき宇宙ビジネス支援事業(以下、支援事業)」及び、事業構想の事業化をサポートする「いばらき宇宙ビジネス事業化実証プロジェクト(以下、事業化実証プロジェクト」の2事業を公募し、これまで多くの企業を支援してきました。後者は「いばらき宇宙ビジネス創造コンソーシアム(以下、コンソーシアム)」の会員企業等を対象としたものです。
 同社は昨年度(令和3年度)初めて両事業にエントリー。結果、「いばらき宇宙ビジネス支援事業」の補助事業に採択され、提案した「宇宙旅行等における放射線の健康影響を評価する自動DNA損傷評価装置の開発」に取り組んできました。

 従来の技術では、血液の採取やDNA損傷の評価に研究室の設備が必要で、現場で評価することが困難であったり解析に習熟した技術者が必要であったりしていましたが、同社では、これらを簡便にするための技術開発に取り組んできました。茨城県からの支援やビジネスプランコンテストでの受賞などを通じて資金を得て、指先から血液を採取するシリコンゴム素材のチップ(PDMSチップ)の開発や、評価用デバイスの試作に成功してきました。

 では、この装置を無重力空間の宇宙でどのように使うのか。
 今年度採択された事業化実証プロジェクトでは、令和5年度以降に宇宙でこのデバイスを使用した実証実験を行うことを目標に、完成した試作品のアップデートを重ねることに加え、デバイスの"宇宙仕様化"に取り組んでいます。昨年の支援事業では、プレート上に各部品・ユニットを並べたような状態の試作品を作成し、要素検証を行いましたが、宇宙に持っていくため、長辺が60cmぐらいの大きさの箱型のデバイスへとその形を変化させる工程に入っています。

Dinow_SpaceLink_exhibit 今年8月に都内で開催された総合宇宙イベント「Space LINK」へ出展。
展示したデバイスと高橋さん。

 一方で「試作品を宇宙仕様デバイス開発に習熟した技術者にみてもらったのですが、宇宙で使うには懸念すべき事項が無数にあることがわかりました。自分たちだけでそれらを解決するのは難しいと思いました」と高橋さん。国際宇宙ステーション(ISS)で稼働させることを前提とすれば、動作時における騒音やデバイスへの電力供給、エラー発生時にもISS内で対処が可能かなど、解消すべき課題は多くあります。また、試薬の飛散リスクなどもあり、"宇宙仕様化"のための設計・開発には高い専門性が必要です。
 そのような中、昨年の支援事業をきっかけに、コンソーシアムの会員である県内の企業のほか、同社のビジネスに興味を持った専門家が、メンターや顧問としてチームに加入。宇宙におけるノウハウをもった複数の専門家が加わったことで、体制が整ってきました。高橋さんは「連携企業を県内で見つけられているというのは大きい」と言います。

 「宇宙仕様にするために見ていかないといけない領域はものすごく広いんです。宇宙業界では時間的なコスト、重量に対する運搬コストが大きく、また、地上と異なり、デバイスを直接操作するのは宇宙飛行士です。なので、必然的にデバイスの軽量化や間違なくデバイスを操作できるように作業工程をできるだけ簡易にするなどのUI(ユーザーインターフェース)の高さが求められます。したがって、宇宙仕様での開発によって得られるデバイスの特徴は、宇宙以外で使用するユーザーにとっても大きなメリットとなります。宇宙で使うために開発した有用な機能を、地上向けにブラッシュアップすればよいですから」と、宇宙ビジネスに求められる高い技術開発のノウハウが、今後のビジネスにつながっていくという期待を示しています。

 「宇宙に関わる市場はどんどん成長していくと思います。市場が大きくなるまで、まずは企業としていかにして生き残るか。まずはできるだけ早く宇宙での実証をしたいですね。宇宙市場の準備が整ったときに、確実に我々の技術を投入していきたい」と高橋さん。
 「宇宙という軸足を新たに据えたことで、協力してくれる企業も増え、Dinowが公のものとして認知されるようになってきたと実感します。茨城大学発ベンチャーとして、また、水戸に所在する企業として、福島県で被災した方々のためにも頑張っていきたいです」と、意気込みを語ってくれました。

 同社が採択された「令和4年度いばらき宇宙ビジネス事業化実証プロジェクト」は、今年6月から来年2月末日までの期間で実施されます。

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株式会社Dinow
【NEWS】茨大発ベンチャーの(株)Dinowが「いばらき宇宙ビジネス支援事業」補助事業に採択

(取材・構成:茨城大学広報室)