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「マインドを変えたい」―茨大のDXを担う情報戦略機構 羽渕副学長に聞く

 今年4月、茨城大学のDX(デジタル・トランスフォーメーション)を担う新たな組織として、情報戦略機構が立ち上がりました。機構長を務める羽渕裕真副学長は、「DXはマインド・トランスフォーメーションでもある」と語ります。これからの大学のDXをどのように進めるのか。地域への波及は?―羽渕機構長に聞きました。
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自分たちでDXの戦略をつくり、責任を担う

IT基盤センターを改組して情報戦略機構を新設したねらいは?

羽渕IT基盤センターは水道管や電線のようなインフラ整備という側面が強く、学内のみなさんから『ここがわからないんだけどどうすればいいの』という御用聞きのところがありました。でも、そこから脱却してもう一段階上へ行きたいと考えたとき、情報化ということではなくて、デジタルを使って大学として新しいことができないか―まさにDX(デジタル・トランフォーメーション)ですね、それを戦略的に考え、提言する役割にステップアップしたいと思ったんです」

―発足式では「情報推進機構ではなく情報戦略機構。誰かが作った戦略に従うのではなく、自分たちの手で戦略づくりをしていく」というお話が印象的でした。

羽渕「本当にそういう覚悟です。別の人が作った戦略を推進していくというと、それに従って進める自分には責任がないと考えてしまいがちですし、仮にうまくいったとしても達成感も喜びも少ないんですよね。大きな達成感を多くの教職員がもてれば、心が前向きに変わっていき、それで茨城大学が変わっていく。DXといいながらも、一番狙っているのはマインド・トランスフォーションなんですよ」

―マインドをどう変えるか、ということは改めて伺うことにしますが、まずは「戦略」を考える上でターゲットやゴールをどう見据えているのか教えてください。

羽渕「上位にあるのは『イバダイ・ビジョン2030』ですね。そこで研究、教育、業務という目標があるわけですが、それを2030年までの8年間で達成するには、そのためのDX自体はその半分ぐらいの期間で進めないといけない。つまり、第4期中期目標期間(20222027年度)での達成が大事なんですね。そのためには、今の業務で満足するのではなくて―もちろん仕事への満足感は大事ですが―、やり方や考え方を変えないといけないんです」


DSC_87793_r.jpg4月に行われた発足式でのプレゼンテーション

茨大のステータス

―今の日本の大学のDXの状況をどう見ていますか?また、その中で茨城大学はどういうステータスにあると捉えていますか?

羽渕「大学ごとに凸凹はありますが、総じて大学としては遅れていると思っています。DXの事例報告などを聞いても、単なるIT化、効率化ということに留まっている事例が多いように思います。つまり、手紙がメールになり、メールがチャットになったというのは確かにIT化なんだけど、形が変わっているだけでやりとりそのものは変わっていない。そうではなくて、そのやりとりが本当に必要か、ということを考えないといけないんです。茨城大学はそこに取り組んでいきたいんです」

―これまでもBYOD(学生が自身の端末で学修に取り組む体制、「Bring Your Own Device」の略)の推進、情報セキュリティの強化などはかなり進めてきた印象です。

羽渕BYODについては20204月に完成させるという見通しで、その5年前に計画し、学内のWi-Fi環境の整備などを進めてきたものです。それがコロナ禍のタイミングと偶然重なったことで、遠隔授業への移行をスムーズに進められたことを考えると、先見の明があったといえると思いますね。
 セキュリティについても、大学の情報セキュリティポリシーやサイバー対策等基本計画の更新は、他の大学と比べても割と早く取り組んでいる方ではないでしょうか。ただ、インシデント自体はゼロにするのは不可能ですから、起きたときにどう対応するかという準備も大事です。セキュリティ講習などはもっと構成員が手軽に取り組めるようなものにしたいですね」

BYODやセキュリティの面ではある程度進んでいる一方で、教務情報のシステムや会計のシステムなど、それぞれ仕様が大きく異なるシステムが学内で動いていて、しかも「ベンダーロックイン」(仕様上、他のベンダーに切り替えられない状態)に近い状況もあるように思います。こうした課題にはどう取り組みますか?

羽渕「本来は『情報システムマネジメント』という形で、施設マネジメントなどと同じように考えないといけないんですよ。それを情報委員会という全学の委員会で少しずつ進めていくことにしました。情報委員会はいろんな学部・部局の人たちがメンバーになっていますから、そこでシステムの更新予定の情報を開示して、リニューアルのときにはどういうシステムをどういう考えで入れられるかを共有してくことで、現場のいろんな声を聞きながらシステムの導入やメンテナンスができるようになると思います。最終的には多様なシステムを一本化したいですが、そこまでいくのはまだまだ時間がかかりますね。それでも各システムの認証基盤の統一はできたので、ここからどんどん進めていきたいです」

―各現場においても、情報戦略機構や情報委員会任せではなくて、自分たちで積極的にシステムの目的や仕様を提案できるようになることが大事ですね。

羽渕「そうです。委員会はあくまで共有の場ですから、たたき台は当事者となる部局がつくれるようになるのが一番です。もちろん機構はそれをサポートして、一緒につくっていければと思います」

情報の流通の最適化が大事

―その意味でもマインド・トランスフォーメーションや最低限のスキルの習得は必要ということかと思います。また、システムやプロダクトの話とともに、学内での情報のデリバリー、流通をどう最適化するかという視点も重要かと思います。そちらについてはいかがですか?

羽渕「今回情報戦略機構では、情報システム、情報セキュリティ、デジタル改革推進、データ戦略という4つの部門を立ち上げました。デジタル改革推進とデータ戦略が特に新しい部門なのですが、データ戦略の部門がまさに、データをどう流通させるか、データをどう収集して見せていくのか、ということを一連の作業として取り組んでいきます。大学戦略・IR室が毎回各部局からデータをもらいながら頑張ってファクトブックを作っていますけど、今後は各部局が決まった仕様のデータを一カ所に提供しておいて、IR室はそこにアクセスして利用する、あるいはBIツール(Business Intelligence tools)などを使って見せていく、ということができるようにしたいです。
 どういうデータをどうやって収集するかという入口側からの議論と、何をどんなふうに、誰に見せたいのかという出口側の議論の両方が重要です。今、情報戦略機構と広報室、IR室などが集まって議論していますが、それによって出口のイメージが見えてきたら、今度はそれに沿ってデータ基盤を整えていく。そうやってデータの流通がうまくいくと、同じ基盤、BIツールを使って、それぞれの目的に沿った解析ができるようになると思います」

―大学のような公的機関においては、公文書の作成と保存というのも大事な仕事です。公文書偽造なども問題になっていますが、公文書のデジタル化の課題、展望は?

羽渕「起案して決裁をとって文書として残していく、というプロセスは、本来はちゃんと業務フローをわかっていないと動かせないんですよ。実は紙の文書の決裁の方が、歩き回っているうちになんとなくできてしまったりして、一方で職員の認証と結びついたシステムを使ってデジタルでやろうとすると、最初からフローを組み立てて取り組まないとうまくいかない。そうすると、その過程で、そもそもこの文書はなぜ残すのか、とか、あとの人が再利用しやくするためにはどうしたらいいかとか、そういうことを考えざるを得ない。これこそがマインド・トランスフォーメーションへの良い入口になるのではないでしょうか」
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教育、研究のDX

―業務の話に続き、教育、研究のDXについても聞かせてください。

羽渕「教育については、どの内容の科目の単位を取得したかということや成績の情報と、出席状況とか資料をいつダウンロードしたかといった情報とを組み合わせて解析することで、教育の効果や改善の議論ができるようになるのではないかと思いますね」

―研究面はどうでしょう?

羽渕「オープンサイエンスということがいわれていますね。研究のさまざまな実験データ、メタデータをどう公開していくか、ということです。しかし、ただオープンにすれば良いということではなく、使う人がいないとオープンサイエンスにつながりません。どういうデータをオープンにするのか、分野ごとのコンソーシアムなどをどう組織してどうやってデータを流すかとか、そういうことを考えなければいけませんから、国の状況や他の大学、研究機関の動きと連動しながら、研究環境を充実させていきたいですね」

―まずはマインド・トランスフォーメーション、という話が何度も出てきました。これから具体的に取り組んでいくことは?

羽渕「学内向けのDX講演シリーズというものを企画しています。学外の講師の方に講演いただく、6~7回ぐらいのシリーズをイメージしています。『大学の外ではこうなっているのか』と気付き、日常の業務に疑問をもってもらうことから始めたいですね。それが終わったら、もう少しスキル寄りの講演をやる。2年がかりかも知れませんが息長くやりたいです。お題目で終わっては仕方ありません。道筋を具体的に示すことが重要だと思っています」

地域への広がり

―大学のDXが、大学の外へと波及することもあるでしょうか?

羽渕「はい。今回の機構の設立は、本学にとってはもちろん、地域、茨城県にとっても大事になると考えています。県の情報統括と連携して、地域レベルでネットワークを張り巡らすことができるんじゃないか。
 私は今年から図書館長も務めていて、県内の図書館の皆さんと話す機会ができたのですが、そうすると自治体としての投資が少なかったり、ネットワークがあまり整備されておらず、図書館のデジタル化がなかなか進んでいないことがわかりました。その点では、大学ではこういうふうにやっている、こうすればできるのではないか、という提言ができると思っています。また、本学の教育のDXの取り組みについても、本学の附属学校園を懸け橋として、地域の教育へと広げていくことができるのではないでしょうか。こうしたチャネルを使って、外に向けた発信もしていきたいですね。それを通じて、茨城大学が茨城県にあって良かったねとみなさんに思ってもらえるようになればというのが、私の願いです」

(取材・構成:茨城大学広報室)