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茨大名物「教育の質保証」各学部等の取り組みをシェア
―緩く始める、大上段に構えない、継続すること が大事

 学生が茨城大学で学び、身につける力やスキルを、大学としてどうやって保証するか。そもそも身についたかどうかをどうやって知り、その情報をどう使えば、授業やカリキュラムの改善につなげられるのか。仮に良い仕組みを考えたとして、その仕組みを自主的に機能させ、学修の成果向上につなげることはできるのか。
――こうした課題に長年向き合い、独自の「教育の質保証」のシステムと文化を作り上げてきた茨城大学。みんなで試行錯誤を重ねながら地道に続けてきた質保証の取り組みが、大学全体の教育目標の達成度の向上に着実につながっていることがわかってきました。そこで、それぞれの学部等でこの間取り組んできた質保証・教育改善の活動・成果を全体でシェアすべく、525日に全学の研修会(FD)が行われました。任意にも関わらず約300人の教職員が自主的に参加。質の高い教育を目指して日々研鑽する茨城大学の教職員の熱い想いが表れています。その活動の一端をご報告しましょう。

茨大の新たな名物 「教育の質保証」システム

 茨城大学では、ディプロマ・ポリシー(学位授与方針)で定めた5つの茨城大学型基盤学力の達成度を、学生の在学時、卒業時、卒業3年後に確認し、さらに就職先の企業にも調査を行って、結果を「見える化」しています(その一部は「茨城大学コミットメントがみえる。」というサイトで紹介)。それを、教員個人、学科やコース、学部、大学全体という4つの階層でそれぞれ検証しながら教育改善につなげるというのが、茨城大学独自の「教育の質保証」の仕組みです。文部科学省の補助事業(20162019年度)を受けて構築してきたこの仕組みは、同事業の評価で最高位の「S」を獲得。国内の大学の質保証について最近まとめられたガイドラインでも、本学と同様の階層型の質保証のあり方が紹介されています。
 仕組みや構造だけではありません。卒業時のディプロマ・ポリシーの達成度を毎年度見ていくと、その数値が年々上がっていることがわかります。これは教育改善が進んでいる証拠であり、目に見える成果が出ているといえます。

年次進行と学修成果(DP達成度)の状況 こうした成果に裏付けられた本学の「教育の質保証」の取り組みは、気候変動や量子線科学、五浦の六角堂などと並ぶ、茨大の新たな強み、名物になったといえるでしょう。

各学部やコース等での真摯な取り組みがあっての成果

 これらの良い成果は、まずは学生自身の努力の賜物ではありますが、やはり各学部等の教職員が学生の成長を望み、点検と授業改善、カリキュラムの見直しに真摯に取り組んできたことがきちんと実を結んだものといえます。教育改善は授業を担当する教員ひとりで達成できるものでもないし、大学が組織としてトップダウンで実現できるものでもありません。やはり、教員個人、学科やコース、学部、大学全体という4つの階層でレビューし、それぞれの層を連動させながら改善を図ってきた、ということが大きいのです。
 では、ここからは、525日に行われたFDをもとに、各学部等でどのように質保証に取り組んできたのかということを紹介しましょう(発表順)。

全学教育機構(基盤教育)―多様な科目の実効あるFD実施

 まずは全学教育機構の共通教育部門長を務める篠嶋 妥 教授から、基盤教育での取り組みについて。基盤科目は12の部会によって運営されており、教員は自己点検の結果を関係する部会に提供し、部会と機構というそれぞれの階層でFDを行っています。基盤科目という性質上、あらゆる分野の科目があるため、同じフォーマットで点検・評価する難しさはあるようです。そのため、基盤教育の基本方針を定め、それに基づいて大学共通教育ガイドラインを作成して授業を実施する体制とし、FDにおいては基本方針とガイドラインに沿った授業が実際に実施できたかをチェックする体制をとっています。
 全学教育機構では、基盤教育の多様性を踏まえたこのような体制での質保証を今後もしっかりと進めていくことで、同一名の科目における難易度の調整といった課題の解消にもつなげていきたい、ということです。


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工学部―茨大型質保証のさきがけ 国際的な保証システムも効果

 工学部の取り組みは、教育担当副学部長を務めている横木 裕宗 教授が報告しました。工学部にはもともと教務委員会とは別に「教育改善委員会」というものがあり、体系的な点検・評価、FDを行っていました。さらに「産学連携カリキュラム改良委員会」というものもあり、ここでは外部委員の方の協力を得てカリキュラムの点検や学科の教育目標に関する意見交換をしています。
 工学部でこうした自主的な仕組みが体系化されている背景には、JABEE(ジャビー)という技術者育成の教育プログラムの認定・審査の仕組みを導入し、科目単位での評価が行われているということもあります。JABEEは国際的にも通用する保証システムであり、横木教授は「JABEEの受審は大変ですが、質の保証のための評価の仕組みをみんなが知る上でプラスになっています」と話していました。他方で、さまざまな形での点検・評価を行っていることから、できるだけフォーマットを統一することで負担を減らすための検討も進めているそうです。

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理学部―授業アンケートに長い歴史 データがあれば議論も活発

 理学部からは下村 勝孝 教授の報告です。
 理学部は、茨大歴35年の下村教授が「相当昔から」と言うぐらい、だいぶ前から独自の授業アンケートを行っていたそうです。とはいえ、アンケートの結果をまとめるというのは大変な作業だったようで、全学の質保証システムが構築され、オンライン化されたことで「一挙に課題が解消されました」と語っていました。
 年2回の学部のFDでは毎回さまざまなテーマを立てており、最近の例では、成績評価に対する学生からの異議申し立て制度への対応、CAP制度などが取り上げられました。特に3月のFDは年度を振り返る良い機会になっているそうです。
 理学部の教員ということもあり、各種データが示されると、自ずと議論が盛り上がるそうです。「全学教育機構にお願いするといろんなデータを出してもらえて、理学部の教員はそれらを見ると結構食いつきます(笑)そういう形で取り組んでいるので、自主的な点検・改善というのはだいぶ進んでいるのではないでしょうか」(下村教授)。

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教育学部―教職課程認定との兼ね合いに難しさ

 教育学部からは、昨年度まで教務委員長を務めていた野崎 英明 学部長が取り組みを報告しました。
 教育学部が他の学部と異なるのは、教員免許の教科に対応した多岐にわたる専門分野の授業があることと、そもそも教職課程認定に通らないといけないというある種の制約があることです。そのことと自己点検評価との兼ね合いに難しさがあるものの、いろいろと効率的・効果的に点検を進めていくための工夫をしています。たとえば教室(免許科目等に対応した教員組織の区分)単位のFDでは、すべての授業科目をカバーすることは難しいため、毎年テーマを決めて点検評価を行うようにしており、それによってマンネリ化を防ぐねらいもあるそうです。
 興味深いのは「研究カフェ」という独自の取り組み。これは教科横断的なFDで、分野を超えた研究発表やディスカッションの場となっており、実際にここでの議論をきっかけとしたプロジェクトで科研費の獲得も増えたそうです。「小中学校でも教科横断ということが求められていますから、こうした取り組みを学部としても大事にしたいです」と野崎学部長は話していました。

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人文社会科学部―大上段に構えるよりも身の回りが少しずつ変わるという実感を

 人文社会科学部は4階層ではなく、5階層で質保証に取り組んでいます。鈴木 栄幸 教授の報告です。
 5階層というのは、教員個人→7メジャー(主専攻分野)→3学科→学部→全学という構成。また、全学で実施しているものとは別に、独自の卒業時アンケートも行っているなど、特色ある取り組みをしています。
 報告で紹介された具体的な改善の事例が印象的でした。テクニカルな改善については教務委員会が、カリキュラム全体や学部のコンセプトに関わるような改善は将来計画委員会がそれぞれ対応しているそうです。たとえば改組に伴って生じた、多様性を求めたい基盤科目と体系性を重視する専門科目との接続に関する問題が提議されたときは、将来計画委員会で検討して「科目ゾーニング方式」というものを立案したそうです。一方、オンライン・対面のハイブリッド型の講義がうまくいかない、という声を受けては、教務委員会で実用性の高いマイクスピーカーを購入して貸し出すというシステムが整備されました。
 また、卒業時アンケートでも、サブメジャー(副専攻)のうち、一つのプログラムの満足度が他と比べて低いということがわかり、学生への聞き取りなどを行った結果、同プログラムの目的が学生に誤解されていた、ということが判明したそうです。今後はガイダンスでの説明を強化していくとのことです。
 鈴木教授は、「そんな茶地なこと、と思うかも知れませんが、FDは大上段に構えたものではなくて、自分の周囲で何かが変わっていくという実感を得られるようなものの方が楽しいのではないでしょうか。理念的なものより、動詞ベースの、アクチュアリティのあるものにしていくことが大事だと思います」と話していました。

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農学部―学部改組の理念と現実のギャップを検証

 最後は農学部。点検の結果どうだったかという点に焦点を当てて、木下 嗣基 教授が報告しました。
 農学部、大学院農学研究科ともに、20174月に改組されました。学部には海外研修を必修とするコースができたり、研究科にもすべて英語で授業を開講するコースが新設されたりするなど、国際性を意識した改組となりましたが、そうした大きな改革の中で、理念と現実との間にギャップが生じていないか、ということが点検の重要な視点になっているということです。
 そこで実際に見えてきたのが、「幅広い分野を身に付けてほしいという理念があったものの、実際には他分野の科目の履修が困難な面があった」「英語開講のコースでは現実的に開講できる授業数に限界があり、履修の自由度が低くなっている」といった課題でした。また、コロナ禍の影響を受けた2020年度からは必修の海外研修もできなくなってしまい、代替策の対応に追われました。
「教育に熱心な先生が多いので、点検・評価の仕組みがあることで、熱を込めて議論ができています。コロナ禍による課題も見えてきた一方で、授業や会議のリモート化が進んできたことで改善が期待されることもあります」と木下教授は振り返りました。

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緩く始めること、現場のニーズをベースとすること

今回のFDのまとめとして、それぞれの報告者が他の学部等の取り組みを聞いて改めてどう感じるか、ということを聞きました。そこで共通して指摘されたのが、

  • それぞれの学部で仕組みがスタートした当初は「どうしてこんな面倒なことをするのか」といった声もあり、うまくいかないこともあったが、仕組みがある程度確立・定着してからはスムーズに進むようになった。
  • 緩い枠組みでスタートしたのが良かった。点検して良くない結果が出たときに、犯人探しをするのではなく、チームで課題を話し合い、改善に取り組めるということが大事。
  • 全学教育機構の教員が各学部にこまめに足を運び、ニーズを聞きながら、適切なデータや分析内容を提供してくれるという体制が大きい。

といった点です。また、「最初の小さな教員集団の話し合いの中で、どれだけ自由に、愚痴を含めて話せるかが大事ではないか」という意見もありました。
学部等の現場からのこうした受け止めからは、本学の質保証システムがある程度の緩さをもっていること、すなわち、管理や制裁をするのではなく、データそのものを材料に教育や学生の成長について議論ができる場や仕掛けをつくってきたことが、成功の大きな要因だったということがうかがえます。今回のディスカッションの進行を担当した嶌田教授も、「データを見てみて、『変わったな』と思える点があればOK、ということです」と、その「緩さ」を裏付けました。
 その上で嶌田教授は、「各先生一人ひとりがいくら良い授業をやっても、カリキュラム全体、124単位でつながりあって、ディプロマ・ポリシーを達成しなければもったいない。だから部分最適から全体最適へ、ということを目指しているのです。毎年大変なところかと思いますが、地道な活動の積み重ね、先生方の努力が学生たちに伝わり、着実に効果が出ていることがデータから見えています。それぞれの学部、学科等で『こういうことを知りたい』ということがあったら調べますので、困っていることがあったらぜひ言ってください」と呼びかけました。

進行を担当した嶌田教授

進行を担当した嶌田教授

(取材・構成:茨城大学広報室)