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宇宙の仕組みの解明から製品開発まで 「ガンマ線」用いた幅広い研究で世界に貢献
【寄稿】理工学研究科(理学野)准教授 片桐 秀明

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Text by 片桐秀明(理工学研究科(理学野)准教授)
Katagiri Hideaki/1976年生まれ。2004年東京大学理学系研究科修了 博士(理学)。京都大学、広島大学を経て20114月より現職。最近は2人の息子につれられて慣れないキャンプや釣り、サイクリングなどに行く日々を過ごしている。

ガンマ線を使って宇宙の謎の解明目指す

 私達の研究室は、ガンマ線を使って宇宙を観測し、超新星爆発など多種多様な高エネルギーの天体現象を研究することを専門としています。

 放射線のひとつである「ガンマ線」は、X線よりも波長の短い、最もエネルギーの高い光(電磁波)です。宇宙から地球へやってくるガンマ線は、宇宙空間を飛び回る宇宙線という高エネルギーの粒子の反応により主に生じるので、ガンマ線は宇宙線を研究する強力な手段となっています。宇宙線は高いエネルギーまで加速された陽子やヘリウムの原子核で、そのエネルギーは、私たち人類が人工加速器を用いて達成できるエネルギーと同等、もしくはそれを超えるぐらいのものです。そのような高エネルギーの粒子がいったいどこでどのように作られたのか、いわゆる「宇宙線の起源問題」は、宇宙線の存在が発見されて以来、100年以上経った今も解明されておらず、宇宙物理学上の大問題の1つとなっています。

 その大問題の解明の鍵を握るのがガンマ線というわけです。ガンマ線を使った宇宙線研究の本格的な結果が出始めたのは2000年に入ってからであり、まだまだ新しい研究分野といえます。私達は現在、次世代のガンマ線天文台である「CTA」(Cherenkov Telescope Array:チェレンコフ望遠鏡アレイ)による観測的研究をすすめています。

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2018年完成のCTA天文台の大口径望遠鏡1号基(口径24m)の横で

 CTAは、宇宙の研究を飛躍的に発展させるべく計画されている、究極の超高エネルギーガンマ線天文台建設を目指す国際共同プロジェクトです(http://cta.scphys.kyoto-u.ac.jp/)。100台規模の望遠鏡を配置した大規模なガンマ線天文台を北半球(スペイン・ラパルマ島)と南半球(チリ・パラナル)に建設し、従来の装置の 10 倍以上の感度と広い波長帯で全天の観測をめざします。星が死を迎える際に引き起こす超新星爆発、高速回転する中性子星であるパルサー、超巨大ブラックホールを中心に持つ活動銀河核、宇宙最大の爆発現象であるガンマ線バーストなど1000個 を超える多種多様な高エネルギー天体を観測することによって、宇宙での高エネルギー現象に関して多くの新たな発見がもたらされると期待されています。加えて、ダークマター(暗黒物質)の探査、相対性理論の基本原理である光速度不変の原理(ローレンツ不変性)の検証、宇宙論など、基礎物理への貢献という点でも大きな研究のポテンシャルを秘めています。

茨大の研究室で開発・評価した素子や回路を大望遠鏡に搭載

 私達の研究室では、光検出器、集光器、電子回路、鏡の開発・評価・量産に取り組み、それらはCTA24m大口径望遠鏡に実際に搭載されています。国際的で大規模なこのプロジェクトで使用する望遠鏡のコアな素子や回路を、茨城大学の研究室で学生たちと一緒に製作しているというのは、とても誇らしいですね。
 現在は、大口径望遠鏡1号基による試験観測を続けています。また、2025年以降と見込まれる本観測に向けては、建設中の望遠鏡2号基以降に搭載される光検出器モジュールの組み立てや評価、観測データの解析手法の研究などを行っています。私達と協力して、究極のガンマ線天文台の建設や観測に一緒に参加してくれるような人を、研究室では歓迎しています。

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技術を応用してガンマ線カメラを開発 原発災害復興にも貢献

 それから、これまでの宇宙ガンマ線観測の技術を応用して、我々の研究室独自のガンマ線カメラを開発、製品化しました。これを使うことで、2011年の福島第一原子力発電所の事故に由来する放射能を高感度で可視化することが可能となります。

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福島第一原発2号機から西に150mの場所から開発した全天ガンマ線カメラで撮影したもの。360度カメラの写真にガンマ線のイメージを重ねている。原発建屋の上空からガンマ線が来ているように見えるが、これは原発建屋から放射されたガンマ線が上空の大気によって散乱された「スカイシャイン」という現象が見えている。

 現在、この技術をもとに、シンチレーションファイバーや最新の半導体技術を用いた新たな検出器の設計・開発などを進めており(図4)、今後、医療、原子力、宇宙観測などの分野への応用を考えています。

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京都大学や高エネルギー加速器研究機構(KEK)で開発された半導体センサーを用いたガンマ線カメラの一部。仙台高専、宮崎大学、東京大学、京都大学、KEKとの共同研究。

宇宙の仕組みの解明から、その観測に利用するためのものづくり、さらには災害復興・健康被害軽減への貢献まで。「ガンマ線」をキーワードに、幅広い視野をもって研究やものづくりに取り組める研究室です。よろしければぜひホームページを覗いてみてください。

【研究室ホームページ】 http://heag.sci.ibaraki.ac.jp/

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※本研究活動の一部は、研究推進経費による「平成30Research Booster」を受けて実施しています。

studymylove.jpg ときには何十年、何百年後の未来を展望しながら学問、真理を追究する研究者たち。茨城大学にもそんな魅力的な研究者がたくさんいます。
 研究者自身による寄稿や、インタビューをもとにしたストーリーをお楽しみください。
 【企画:茨城大学研究・産学官連携機構(iRIC)&広報室】