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【卒業生インタビュー】株式会社ツムラ・豊田 夏実さん
(2018年大学院理工学研究科博士前期課程修了)

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豊田 夏実(とよだ・なつみ)■株式会社ツムラ 茨城工場品質管理部品質管理一課
1993年福島県生まれ。6歳のとき、茨城県へ引っ越し。茨城県立日立第一高等学校卒業後、茨城大学理学部理学科化学コース入学。2018年茨城大学大学院理工学研究科理学専攻修了後、株式会社ツムラ入社、茨城工場品質管理部品質管理一課に配属、現在に至る。

世界の人たちに届ける漢方製剤の品質を追求

 医療用の漢方製剤の国内シェアトップを誇る株式会社ツムラに勤めて5年目の春を迎えた。現在、品質管理という重要な業務のチーム監督者として、漢方製剤の中間品にあたるエキス粉末、エキス顆粒の確認試験を行うメンバーを束ねている。「ツムラといえば、漢方薬」と評される日本屈指の漢方製剤メーカーにとって、品質は命。豊田の仕事の質は会社の生命線でもある。パンデミックの危機が世界を覆う中で、命と健康に向き合う仕事の意義を改めて噛み締める日々が続く。

 私自身の漢方薬との出会いは、茨大時代。風邪を引いて、水戸キャンパス近くのお医者さんを受診した時、漢方製剤を処方していただいたんです。ツムラの漢方製剤。その頃からの付き合いです。それまでは、漢方薬が医薬品とは知らず、健康食品のひとつくらいのイメージだったので、医療機関で処方されたときにはちょっと不思議な感じもしたのですが、服薬したら実際に効果があって、漢方薬って凄いなと実感しました。祖母が体調を崩して入院したときも、ツムラの漢方製剤が処方されて、辛い症状がかなり改善され、それ以来、漢方薬の薬効を認識するようになりました。
 今のチームの担当になってもうすぐ1年です。品質試験に携わる、8人のメンバーが所属する確認試験の監督者を務めています。監督者には、メンバーがより効率的かつ正確に品質試験ができるようにルールや手順を整備する権限があります。自分の考えで仕事を実行できるのは気持ちのいいものですが、一方で適切にルールや目的を伝えていないと、メンバーたちが困惑することになります。立場上の責任と課題を常に意識する役割ですね。
 たとえば、品質試験は定められた手順書に則って行うことが厳守されます。一方で、知識が無くても手順に則って行えばできる作業でもあります。ですから、手順を教えるときには、単に作業として教えるのではなく、茨大時代に学んだ化学の知識や実験の経験をもとに、試験の背景や注意事項などを伝えるようにしています。メンバーには作業の意味を理解しておいてもらいたいので。

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 私たちは日本で最高の漢方製剤を作っていると自負しています。中でも品質が強み。それを支えるのが私たち品質に関わるメンバーです。中国や米国など、海外にも日本の漢方を広げていくとき問われるのはより高い品質。「日本の漢方薬はこんなに厳しい基準でつくられているんだよ」と胸を張って提供できる品質を現場レベルでも目指しています。
 小学生の頃から理科や化学は好きでしたね。特に実験が大好きでした。何かと何かを混ぜると、全く新しい物質ができたとか、いい香りがする物質が生まれたとか。そんな新しい変化と未知の化学反応が魅力的で、根岸英一さんなど日本人のノーベル化学賞受賞が続いたことなども刺激になりました。
 一方で、子どもの頃から読書も大好きでした。どこか違う世界に連れて行ってくれるのが魅力的で、子どもの頃は「ハリーポッター」シリーズなどファンタジーに夢中になりました。化学も本も、今の仕事も、新しい発見があるところに通じるものがある気がしますね。
 理科と国語が得意だったので、高校での文理選択ではずいぶん悩みました。そんな悩みを母に相談した時にアドバイスされたのが、薬剤師という仕事。同じ頃たまたま、高校に薬学部の先生が招かれて、講演されたときに「薬学部を卒業して、薬剤師ではなく、製薬の仕事に就く人もいる」「製薬の仕事は薬学部卒でなくても就くことができる」と聞いて、理学部で大好きな化学を学んで「薬を開発する」という夢を追いかけることにしました。何より、茨大を選んだ一番の理由は、家族がいる茨城県を離れたくなかったから。私がすることで反対されたりしたことはほとんどなくて、代わりにいつもアドバイスをくれる、いつも肯定してくれる安心できる存在です。ちなみに、父も茨大の卒業生です。

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 有機化学に興味を持って、環境にやさしい反応を研究・開発している折山剛教授の研究室に入りました。ある物質の化学反応を誘発するには、たとえば高い温度で加熱するとか、レアメタルで反応させるとか、時には毒性の強い物質を使わなければならないなど、危険を伴う実験も少なくありません。そういう物質の化学反応に対して、ゼオライトという乾燥剤のような物質があって、それを使うことでそれまで扱いの難しかった物質を使わなければ進まなかった化学反応を人や環境にやさしく進ませることができるようになることを先輩方が見出したんです。その方法は、私の研究していた化学反応にもとても相性が良くて、そのまま大学院に残り、研究を続けました。

様々な考えを持つ仲間に囲まれて新たな自分が生まれた

 授業以外はサークル活動一色。茨大の吹奏楽団に所属して、学生時代を謳歌した。パートはコントラバス。100名を超える団員をまとめ、コンサートや合宿の運営に理事会のひとりとして携わった。充実した楽しいサークル活動を支えたのは、他学部の学生たちとの出会い。同学年だけでなく、先輩後輩のたてのつながりは今も生きている。

学生時代写真.jpg吹奏楽団でのひとコマ

 院生時代は学会などにも参加して、他の大学の方々の研究などを知るいい機会にもなりました。特に、折山先生は卒論発表や学会発表の場を大切にされ、発表の練習に力を入れていただきました。発表の仕方、話の組み立て方、資料の作り方など、相手に伝えることを重視して指導してくださいました。あるとき、企業の方々に自分の研究内容をプレセンテーションする機会がありました。先生が推薦してくださったのですが、当時は、自分の研究がある上に、このプレゼンテーションの準備が重なって気が重くて、「どうして私なの?」という思いもあったのですが、当日来ている方々から受ける質問には、学会や学生を前にした発表では出ないような問いかけが多くて、とても刺激になりました。化学に対する違った視点での質問や「社会的にどういう貢献があり得ますか」など、企業ならではの視点がそこにはありましたね。会社に入ってからも人前で発表する機会はあるので、あの経験は貴重だったなとつくづく思います。
 学生時代にやっておけばよかったなと今頃になって後悔していることもあります。たとえば、統計学。数学は好きだったので、授業の履修も可能だったのですが。今、品質試験の結果からトレンドを調べたり、より効率的な業務について考える時などに「やっておけばよかったな」と。学部時代には目先の興味だけでなくて、将来をある程度見越していろいろなことに興味を持って履修することも大切ですね。特定の趣味はないのですが、人にはよく「多趣味だね」と言われます。いろいろなことを知りたいという性格なのかな。特に大学に入ってからは、サークル仲間や学部の友だちなど、いろいろな考えや特性を持つ人たちに囲まれて、私の視野も広くなったというか。「私もやってみようかな」といろいろな興味が湧いて、そのおかげでより多くのことを経験することができましたね。
 ひと言で言うと、視野を広げてくれたのが大学での出会いでした。失敗したりすると結構心配する性格が私の弱点でもあったのですが、大学時代の友人にくよくよした話をすると、「それって、思い通りにいかなくても、どうにかなるし、死ぬわけじゃないから気にしないの」と諭されたことを今でもよく覚えています。辛いときや自分の思いが叶わないで不安になったりすると、友人の言葉を思い出しては救われています。

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(取材・構成:茨城大学広報誌『iUP』編集チーム)

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