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空気と白色光で酸化反応を促進するホウ素光触媒を開発
簡便かつ環境にやさしい酸化反応の実現に期待

 茨城大学大学院理工学研究科(工学野)の近藤 健 助教と吾郷 友宏 准教授の研究グループは、有機ELに利用されるホウ素発光体を光触媒に利用することで、空気中の酸素と白色光によってリン化合物や硫黄化合物を効率的に酸化できることを明らかにしました。触媒構造に含まれるホウ素が、高い触媒活性の発現に重要であることが分かりました。
 今後は、様々な有機化合物の酸化を試みるとともに、より環境にやさしい手法の開発を目指して空気と太陽光で酸化反応を促進する触媒を設計・開発します。
 この成果は、2022年3月23日、英国王立化学会の雑誌 Chemical Communications誌に速報版として掲載されました。

研究の背景 

 酸化反応は最も重要な化学反応の1つであるものの、一般に酸化剤を大量に必要とするため、反応後に酸化剤由来の廃棄物が発生します。一方で、化学系酸化剤の代わりに空気中の酸素を酸化剤に使用できれば、廃棄物を削減し、環境にやさしい酸化反応を実現できます。しかし、通常は空気中の酸素は不活性であるため、酸化剤に利用することは困難です。最近、光エネルギーを化学反応のエネルギー源に変換することで、酸素を活性化し、酸化反応を促進する「光触媒」が注目を集めていますが、貴金属元素を使用したり、紫外光などの高エネルギー光でなければ反応が進行しないといった問題があり、「貴金属フリー・可視光線で働く触媒」の開発が求められていました。これらの課題を解決するためには新しい触媒設計が必要となります。そこで、近藤グループがこれまで行ってきた光化学・触媒化学に関する知見と、吾郷グループが開発した含ホウ素発光体を組み合わせることで、白色光をエネルギー源として酸素を酸化剤とする、新しい光触媒が実現できると考えました(図1)。

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研究手法・成果 

 含ホウ素発光体の光触媒能を実証するために、室温下で、含ホウ素発光体を用いてリン化合物の酸化反応を検討しました(図2)。空気中、白色光照射下という条件では8時間後に59%の収率で酸化体(図2-2)が得られました。
 一方、含ホウ素発光体の代わりにホウ素を有さない化合物(図2-BC)を使っても反応はうまく進行しませんでした。ここから、ホウ素部位が光触媒機能に重要であることが示唆されました。また、触媒Aに臭素原子を導入した触媒(図2-D)はさらに高い触媒活性を示し、高い収率(>95%)で目的酸化体を生成しました。

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 この触媒を用いると、図337で示したリン化合物に加え、硫黄化合物(図3-8)も空気酸化が進行し、目的の酸化生成物が高い収率で得られました。なお、この硫黄化合物の酸化では、酸化が一段階進んだスルホキシド(図3-9)が選択的に得られ、過剰酸化によるスルホン(図3-10)は生成しませんでした。

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 高い活性を示した触媒のホウ素部位の役割を検証するため、量子化学計算を行ったところ、ホウ素触媒は本反応において、①白色光の光エネルギーを使って、空気中の三重項酸素分子(3O2)を反応性の高い一重項酸素分子(1O2)に活性化する、②1O2と出発原料であるリン化合物から生じる過酸化物中間体を捕捉・活性化する、という2つの機能が確認されました。すなわち、今回研究グループが見出した空気酸化反応において、ホウ素触媒は光エネルギーの化学エネルギーへの変換に加え、反応途中に生じた中間体分子の活性化機能を併せ持っていると言えます(図4)。

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今後の展望

 今後はリン原子や硫黄原子だけでなく、炭素原子やケイ素原子の空気酸化反応を検討するとともに、触媒デザインをブラッシュアップし、照明器具や太陽光などの身近な光エネルギーと空気を活用する酸化反応にも展開する予定です。

論文情報

  • タイトル:Catalytic Aerobic Photooxidation of Triarylphosphines Using Dibenzo-Fused 1,4-Azaborines
  • 著者:Masaru Kondo, Tomohiro Agou
  • 雑誌:Chemical Communications
  • 公開日:2022年3月23日
  • DOI:10.1039/D2CC00782G